圭の追想(6)春奈と自宅へ
「そろそろ帰りましょう・・・」
良美がが、夕日の差し込む窓を見ている。
「うん・・・私、この子、家まで送るよ・・・」
春奈は、はっきりと言い切る。
圭は、少し慌てた。
「大丈夫です・・・春奈さん」
春奈は引かない。
「うん、帰る電車も駅も一緒・・・私も久我山で降りる」
「私は駅北だけど、圭君は駅南かな」
「なんか ずるい気がするけど・・・今日のところは許してあげる」
ゆかりはムッとしている感じ。
他の人も何か言っていたけれど、電車も駅も同じこともあり、圭は春奈と一緒に家路に着いた。
井の頭線の車内からは、ところどころ 桜が咲いているのが見える。
「きれいね、桜って・・・夕日の中で見てもいいな・・・」
春奈がうっとりした声。
圭もそう言われて、桜を見る。
「そうですね、今まであまり感心を持って見たこと無かったけど・・・」
春奈が、圭に身体を寄せて来た。
「あら・・・これから古文とか和歌とか、みんなと読むようになるから・・・
そういう感性も必要になるの・・・」
圭はドギマギする。
こんなに近くに女性がくるなど、綾乃以外にはなかった。
「はい、いろいろ教えてください」
「うん、素直ね・・・その素直さが大切よ。」
春奈は、より圭に近づく。
圭は、またドキドキする。
電車は久我山駅に着いた。
圭「今日は、ありがとうございました。これで・・・」
「あら、送っていくのよ・・・」
春奈は、ごく自然に圭についてくる。
「少し教授から頼まれていることもあるの・・・」
春奈は、圭の顔を真顔で見る。
圭はまた、胸がドキッとなる。
圭と春奈は、久我山駅から、自宅に向かって歩く。
サミットストアーを過ぎて、細い道の両側に小さな店が並んでいる。
惣菜屋、弁当屋、書店、定食屋、中華料理店、薬局、病院・・・
「わりと、店あるのね・・・駅北よりあるかなあ」
春奈は案外早足で歩く。
圭は、夕日の中、春奈の顔も少し赤いような気がしている。
細い路地に入り、圭の自宅の前に着いた。
圭「ここです。ありがとうございました」
春奈は、家をゆっくりと見ている。
「うん、立派なお家ね・・・さすが有名教授の家ね・・・」
圭は、送ってもらったお礼をしようと思った。
「あの・・・春奈さん・・・お茶でもいれますので・・・」
「あら・・・うれしい、せっかくだから遠慮しません。」
春奈は、うれしそうに圭に微笑む。
圭は、春奈さんを居間のソファに座らせ、ダージリンを淹れる。
春奈「本当にシックな居間ね・・・」
圭「はい、もう古いとも思うけど」
春奈「いやいや、英国調というか、こういうの好きだなあ」
圭はダージリンとスコーンを春奈の前に。
「はい、出来るだけ丁寧に入れました」
「わ、ありがとう・・・スコーンもある・・・」
春奈の顔がパッと輝いている。