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バッドスキルは女好き  作者: 一葉
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就寝

鏡にうつる姿は美しい少女だった。ぱっちりと大きな目、瞳の色はルビーを思わせる赤色。狐色の短髪は艶々で伸ばせばさぞやはえるだろう。頭にある狐耳は愛らしくついさわってみたくなる。身体は全体的に華奢だが女性特有の丸みもしっかりとある。胸の膨らみはきちんと主張する程度にはあり瑞々しく輝くかのように綺麗だ。お尻はこぶりできゅっとしまっていて愛くるしい。残念ながら尻尾はなかった。

「誰だよ、この美少女」

もともとの面影も少しは残っているもののほぼ別人である。がっくりとうなだれて両手を洗面台についた。原因はもうわかっている。ステータスにあった下三角マークに集中するとこんな項目がでてきたのだ。


・バッドスキル


女体化


※※※(初回発動まで隠蔽)


女体化はそのものずばりで女になってしまうスキルだ。予想どおり他人にこのスキルを伝えることは出来ないというおまけつき。

「もう女体化はしょうがないけど、※印が不穏だなあ」

いいや、悩むのはやめだ。お風呂入ろう。部屋にはお風呂がついていて藤宮と柚木はもう先に入った。そこはかとなく甘いにおいがするのをふり払って浴槽に入る。浴室はホテルによくある洗面所と一緒になっているタイプでトイレは別の所にある。驚いたことにシャワーや蛇口もあり、お湯もでる。部屋つきのメイドによればシャワーは一般的にあるが田舎だとまずないそうだ。

女性の身体を洗うという、男子高校生的には一大イベントを終えて浴室からでると藤宮と柚木がベッドの上で何やら相談していた。

「あ、葵ちゃんこっち座って」

藤宮に言われるがまま隣に座ると藤宮は楽しそうに微笑んだ。

「なんかこうガールズトークみたいでいいよね」

「これってガールズトークなの?」

柚木は呆れ気味だが俺はきたばかりなのでなんの話しかわからない。

「ほら、葵ちゃんは明日から別行動になるでしょ? だからもしもの時の合図みたいなものが必要かなって」

サンドラは守ってくれるとはいったが、どこまで信用できるかも未知数だ。だからお互いに助けが必要になった時の合図をきめておきたいと藤宮は説明してくれた。

「連絡はギルドを通すから気づかれないようなものがいいってことですか」

誰を信用できるかもわからない状況では確かに必要だろう。

「そうそう、楓ちゃんとも相談したんだけど『スキルの数は何個ある』でどうかな」

不自然ではないしいいと思う。合図とわかるような文言よりは普通の会話の流れで言える言葉の方がいいのは自明だ。

「よーし、決まりね。もし助けが必要なら遠慮なく言ってね」

「先輩もですよ。何かあったら頼ってください」

頼れる者のいない世界でいざという時に頼れる人がいるのは心強い。なんだかんだで不安な部分もあったのだ。それは藤宮だって同じだろう。先輩達も俺に頼ってほしい。

「うん、ありがとう。その時は頼りにするよ」

にこにこと微笑む藤宮。無理して笑っているのだろう。予定外の召喚ではあったが、頼れる人がいるのは悪くない。

「じゃあ今日はみんなで一緒に寝よ」

「それは、ちょっと」

邪気のない藤宮の提案は正直魅力的だ。こちらからお願いしたいくらいだ。絵面的に問題なくても俺は男。美少女二人と同床なんて生殺しだ。

「気にしないで、変なことしないでしょ?」

柚木も了承する。しないけど、しないのはすごく我慢した結果ですよ?

「あー、でもちょっと胸とか揉んでみたいかも。葵ちゃんすっごい美人だし」

わきわきと指を動かす藤宮。やめて下さい。理性が決壊してしまいます。

「一条さんよりことりの方が危なそうね」

じとっと柚木が藤宮を睨む。

「大丈夫、大丈夫、葵ちゃん、さきっちょだけだから、天井のシミを数えてる間に終わるから」

はあはあと息づかいを荒くした藤宮を柚木が本格的に取り押さえるというハプニングもおきつつ、外見だけは女性だけの夜はふけていく。


共和国は基本平和である。魔物の脅威はあるものの、田舎でもない限り冒険者の討伐で間に合っている。しかし、いくら平和でも争いの種というのはそこかしこに落ちているものだ。

「本当に記者なんだよな」

薄暗い宿の一室で彼は生ぬるい汗をかいていた。

「約束通り金は渡す、かわりに一切詮索しない約束だろ」

向き合う人物はフードを目深にかぶった人物であり顔は見えない。

「こっちだって命がけだ。もし記者でなかったら俺は」

彼は拳を握りしめて震えた。汗がポツポツと床にしみを作る。

「妹の病気、悪いんだろ? 金がいるんじゃないのか?」

張り積める空気の中、喘ぐように男が口を開いた。

「召喚されたのは男が一人、女が三人。女の一人は獣人で神の使徒じゃない。獣人は大統領ともめて出ていくことになった。それ以上は知らない」

彼はあの場にいた衛兵の一人だ。情報の漏洩は重罪であり、何処に流したかによっては死刑もありうる。

「外見の特徴は?」

視線をさ迷わせ、喘ぐように息を乱す彼にフードの人物は袋を投げた。咄嗟に彼は袋を受け止める。僅かに緩んだ袋の口から金貨がのぞく。

「入院費用にリハビリ、金はいくらあっても足りないだろう?」

最早なけなしのプライドすら瓦解した彼は全て話してしまった。虚ろな目で部屋を出ていく彼をフードの人物は馬鹿にした風に笑う。

「何がおかしい」

部屋すみの暗がりにいつの間にかぼろぼろの外套を着た男が座っている。フードの人物は闇に溶け込むその男にうやうやしく一礼する。

「彼がもたらした情報で国がつぶれれば彼も彼の妹もただではすみますまい。病が治ろうと無意味だというのに、まこと人間とは不可思議な生き物でございます」

男はじっとフードの人物を見つめる。

「だからこそ付け入れるのだろう? まどろっこしい作戦とやらに付き合ってやっているのだ失敗はするな」

言うべきことは終えたとばかりに、男は唐突に姿を消す。残されたのは薄暗い闇だけ。

「では、せいぜい慎重にまずは一人、実力をためしてみましょうか」

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