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バッドスキルは女好き  作者: 一葉
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天使

目がさめると白い空間で寝そべっていた。ぎょっとして起き上がりあたりを見回すと何人かが視界に入る。呆然としている人もいるがすすり泣いていり人もいた。それだって異常な光景なのに更に異常な者がいる。一言で言えば天使である。宗教画に書かれているような美しい天使達が一人に一人ずつ付き添って何やらなだめているように見えた。

「お目覚めですか」

鈴のなるような美声にふりかえると天使がいた。それも芸術作品と言われても納得出来てしまうほどの美女だ。

うん、状況は何となくわかった。

「俺は死んだんですね?」

「はい、その通りです」

この信じがたい状況を説明するにはそれしかなかろう。不思議と気分は落ち着いていた死ぬ瞬間の記憶がないからだろうか。

「俺はどうして死んだんですか」

「バスがトラックと正面衝突しました。全員即死でしたよ」

痛わしげに天使は言った。そうか寝ていたから気づかなかったんだな。ある意味幸運だ。

「それで地獄いきでしょうか」

天国に行けるほど善行をつんだ覚えはない。なら地獄だろうと単純に考えた。

「いいえ、ちょっと複雑な状況になっていまして」

天使の表情がくもる。その状況とやらを聞き出そうとした瞬間、陽気な声が響いた。

「やあやあ、みんな起きたかな? そいじゃあ説明させてもらうよ」

場違いな明るい声の主の姿は見えない。声だけが聞こえる。その声によると声の主は輪廻転生を司る神らしい。転生の輪のはしっこで少し目詰まりした部分に力を押し付けて詰まった魂を無理矢理押し込んだら、転生の輪から幾つか魂がはみ出してしまった。それがあのバス事故で亡くなった俺達らしい。転生の輪には戻すが地球の人族としての輪に戻すと既に完成された地球の輪廻システムに不具合がでる可能性があるため、俺達をこれからまだ安定していない輪廻システムをもつ世界に送り込む。これはこちらがわのミスだから最初の生だけは幾つかの特典をつけたうえで転移か転生かを選ばせてくれるらしい。

「じゃあ、後は天使達と相談してね」

なんともてきとうな神様だな。

「それでは一通り説明させていただきますね」

目の前に文字が出現した。転生、転移と表示されていてチェックボックスがある。転生は赤ちゃんからで転移は今の年齢を引き継げるらしい。

「おすすめは転移ですね。赤ちゃんからやり直すのは辛いですよ」

それもそうかと納得して転移を選択。すると文字列がいくつか追加された。種族、スキル、固有スキル、アイテムだ。さらに右上にボーナスポイントなるものがある。ためしに種族を選択するといくつもの種族が表示された。

「いまから送る世界の文明は近代よりの中世といったところですね。剣と魔法の世界で魔物もいます。人族が優位な世界で亜人を差別する人もいますが一部地域を除けば公的な差別はほぼありません」

ためしに兎族なるものを選ぶとボーナスポイントが少し増えた。さらに体力や知力などのステータスも別画面で表示される。どうやら不利な条件だとボーナスポイントが増えるようだ。

スキルも見てみると種族より更に多くのスキルが並ぶ。これは相当な時間がかかりそうだ。

「時間制限とかないですか?」

「ありません、ごゆっくりどうぞ」

柔らかく微笑んでくれた天使に感謝してさっそくどんな項目があるのかじっくりと確認した。


どれくらい時間がたっただろうか、種族は無難に人族にしたが他がなかなかきまらない。取得経験値十倍は譲れないとして他が決められない。例えば火魔法といってもファイヤー、ファイヤーランスと別々にポイントが必要でポイント消費が激しい。ならばと火魔法素養という、努力すれば火魔法を極められるスキルを取ろうとしたらポイントがごっそりへって後はスキルを一つ二つしか取れない。別にここでスキルを取得しなくても勉強すれば魔法は使えるらしいのだが、魔法学校に通うか師匠にでもつかないと難しいらしい。その点、素養スキルが魔法書を読むだけで覚えられるそうだ。

どうしたものかな。

「おや、まだいたの?」

「うおう」

いきなり後ろから声をかけられて変な声がでた。恥ずかしさを頭をかいて誤魔化してふりかえると十歳くらいの可愛らしい少年がいた。誰だろう。バスに乗ってた子かな。

「輪廻神様、じっくりと考えさせてあげて下さい」

「ごめんごめん、急かすつもりはないんだ」

どうやらこの少年がさきほどの神であるようだ。まあ、神様なんだからどんな姿をしていても不思議はない。

「ちょっと気になってね。何を悩んでるの」

「どうしてもポイントが足りなくて」

最低限これだけはほしいと思えるスキルだけでもポイントが足りてない。うーん、貪欲だって怒られてしまうかな、言ってしまってから後悔したが、神様は楽しそうに笑う。

「じゃあ、ポイントを増やしてあげるよ」

「ちょっ‼ 待って下さい!」

天使が制止の声をあげたが神様はさっと俺がにらめっこしていた画面にふれる。一瞬、ノイズが入ったあとポイントの桁が増えた。

「何をなさったんですか!」

悲鳴じみた声で天使は神様に迫ろうとしたが既に神様の姿はない。

「はは、こっちの方が面白いし、頑張ってね」

「戻って来なさい!」

なんかしっかり者の姉と悪戯好きの弟みたいで微笑ましい。

「すみません、ちょっと確認させて下さい」

神様を呼び戻すのを諦めた天使が画面をのぞきこんで操作する。

「種族が獣人の空狐になってますね」

それ以外にかわってる部分はない。獣人を撰べばポイントは増える。となると空狐というのが相当なデメリットがあることになる。

「いえ、空狐は最上位種族です。ポイントが増えたりはしません」

天使が難しい顔で調べているのでだんだん不安になってきた。もしかして結構大事なんじゃないか。かといって何をされたかなんてわからないしどうしようもない。

「ごめんなさい、何かある筈なのですか」

「いやいや気にしないで下さい。むしろポイントが増えてラッキーです」

こういう時は開きなおろう。天使さんを責めるわけにもいかないしね。

「本当に申し訳ありません」

頭を下げる天使さんをなだめてあらためて画面と向き合う。ポイントは潤沢だ。次々と選択していって最終的にはこうなった。


種族・獣人(空狐)


・スキル


鑑定

探索

偽装

アイテムボックス

取得経験値十倍

全状態異常耐性

全攻撃耐性

全魔法耐性

全魔法素養

全武術素養

刀術

思考加速

全言語理解

完全記憶


・固有スキル


金色眼

千里眼

祭具魔術


・アイテム


旅行セット(中)

魔剣血潮


こんな感じだ。耐性系スキルは完全耐性もあったけれどポイントが足りなかった。偽装はステータスを隠し、鑑定スキル等ではダミー情報が見えるようにできる。刀術スキルは武術素養だけだと最初が不安なので入れておいた。素質だけあってあっさり死んだなんてこともありうるから。金色眼は素養スキルのようなもので全ての魔眼の起源である。鍛えればあらゆる魔眼が使えるようになる。千里眼は種族特性として最初からあった。祭具魔術も種族特性だ。祭具を使った魔術が使えるらしい。旅行セット(中)はテントや寝袋、食料などが六人分入っていた。お金も入っていて金貨、銀貨、銅貨が何枚かある。すくなくとも天使によれば一年くらいは暮らせる金額なのだそうだ。

最後に魔剣血潮、これは一般的な剣とたいして変わらない性能の刀だ。もちろん魔剣だからただの刀ではなく血を吸えば吸うほど力を増していくという特徴がある。他の強力な武器はポイントが高くて取れなかったが、これはポイントがぎりぎり足りた。成長するみたいだし、わりといい選択だったと思う。

「こんなもんですかね」

「はい、いいと思います。では最後にお詫びに私から加護を送りますね。教会で祈れば何時でも私と話せますから何でも相談して下さい」

天使は俺の頭に手をおいた。何か暖かいものが流れてくる感触。

「ありがとうございます」

「いえいえ、ではあちらの世界におくらせていただきます。貴方の人生が幸福で満たされますように」

視界が急激にぼやけていく。さて、せいぜい第二の人生を楽しむとしよう。

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