エルフ
二層ではゴブリンしかでないらしく。あっさりと五匹仕留めた。獣人になって体力もついたのか、疲労もしていない。切りがいいので三階層におりていく。階段を降りていくと冒険者のパーティとすれ違った。からまれたりはしなかったが、ねとっとした視線を向けてくる。よく考えれば、ダンジョンの中で美少女が一人というのは鴨葱ではなかろうか。他の冒険者を避けて進んだほうがいいな。
三階層も二層と変わりない。他の冒険者を避けつつゴブリンを狩ってさっさと四層目におりた。四層目もゴブリンしかいなかったけど、レベルが少し高い。俺もレベルが17まで上がっていたから敵が強くなった実感は全くない。五層、六層、七層へとおりてやっと変化がおこった。敵が群れを作っていたのだ。最低でも三体単位で行動している。ゴブリンが三体いたところでどうとでもなるが、探索スキルで見る限り、この敵はゴブリンより移動速度が速い。恐らくゴブリンではないだろう。慎重に進んでいって通路から少し顔を出して確認する。
そこにいたのは黒い狼だった。
・レベル 10
・名前 なし
・種族 ブラックウルフ
・称号 なし
・スキル 探知 駿足
一気にレベルがあがったな。勝てない相手ではないけれど。退くべきだろうか。上でゴブリン狩りをするのは楽だ。だが、ゴブリン狩りの討伐依頼報酬は安い。奴隷を買い取るのにお金も必要だ。
そういや、値段も聞いてないんだよな。間抜けなことに。ならば稼げるだけ稼ぐべきだ。狩るなら孤立してる群れからと敵の配置を確認。孤立している群れはない。というかこれは俺を取り囲んでないか? 完全に包囲されてはいない。多分、探知で俺の位置を探りながらそれぞれが移動した結果、包囲する形になったのだろう。やっかいな相手だな。囲まれる前に切り崩していくか。
手近な群れへと走る。時間をかけるほどこちらが不利になっていく。一気呵成に仕留めていこう。
やがてブラックウルフの姿が見えた。先頭に一匹、後方に二匹で陣形を組んで迎えうつ構えだ。固そうな黒い毛に血潮は通用するかな? ステータス差があるから押し負けることはないだろうし、とにかく一発ぶちかましてみるか。
速度を緩めずに突っ込んでいく。先頭のブラックウルフは俺を目掛けて飛びかかってきた。駿足の効果なのか動きは機敏で速い。それでもレベルの上がった俺には、はっきりとブラックウルフの動きが見える。ゴブリン狩りでだいぶん刀術になれた。ブラックウルフに衝突する寸前に足さばきで横にずれて下から斜め上に血潮を切り上げた。
「ぬお!」
あっさりとブラックウルフを両断した血潮。切れすぎだろ。鎧ごと切り裂くとかできるんじゃないか? 武器も切れそうだけど切れたら切れたで危ない。峰なら切れないだろうけど、武器で攻撃を受けたら一対多の場合につむ。やはり避けつつ攻撃が理想だ。
残り二匹はわざと攻撃させて、避けつつ切った。うん、なんとなくこつはつかめた。次にいこう。
フロアの狼を全滅させるとレベルが20でさらにスキル、回避を手にいれた。回避スキルは自分が認識していない攻撃でも逃げる手段が頭に浮かぶという、予知のような能力もあるようだ。スキルって凄いと関心すると同時に、強力なスキルを持つこの世界の住人を追い詰めた悪魔達はどれだけ強いのかとうすらざむくなる。いずれ及ばずとも斎藤達に協力するために俺も強くならないとな。
気を引き締めて八層へとおりる。早速探索をすると赤い点が青い点を追いかけていた。敗走してる? それともなにかの戦略? 仮に敗走してるなら手を貸そう。軽い気持ちで冒険者であろう青い点へと向かう。
緩くカーブをえがく通路のむこうから三人組のパーティが飛び出してくる。三人とも女で歳は俺と同じくらい。軽装の少女に神官みたいな少女が苦しげによりかかり、その後ろから盾と剣を持った勝ち気そうな少女が仕切りに背後を確認していた。
「あなたも逃げなさい! ブラックウルフよ!」
とおりすぎ様に勝ち気な少女が叫ぶ。探索によれば敵の数は六匹、そのすべてがブラックウルフだとしても勝てる。さすがに一階層差で急激にレベルは上がらないだろうしね。それに負傷した神官がいたら確実に追い付かれるだろう。誰かがここで敵を抑える必要があった。
「ちょっとあなた、逃げるよ!」
うしろからいきなり腕をつかまれる。ちょっと痛いぞ。振り向くと勝ち気な少女が焦燥もあらわに必死に腕をひいている。わざわざ戻ってくるとは。相当お人好しだな。
「俺はいい。早く逃げて」
上の階層にいたブラックウルフは全滅させた。残っているのはゴブリンくらいだしこの子達だけでも外にでられるだろう……でられるよね? ちょっと不安になったので鑑定してみる。
・レベル 6
・名前 ルフィナ
・種族 エルフ
・称号 森の狩人
・スキル 弓術 短剣術 風魔法
・固有スキル 遠視眼
ステータス値はそれなり。少なくともゴブリンに負けるような数字じゃない。しかし、エルフねえ。耳が尖ってたりはしないし、見た目普通の美少女だ。
「馬鹿! 勝てるわけないでしょ!」
「ああ、そうだ。魔物って再出現するまでどれくらいかかるの?」
忘れてた。魔物は無限湧きだからもう湧いてるかも。
「なによこんな時に。最低でも丸一日は出てこないわ。それより早く!」
なら問題ないな。
「いいからいきなって。ほら来たよ」
ブラックウルフが唸りつつ迫ってくる。
「くっ!」
ルフィナは背負っていた弓を構える。
「あの二人だけじゃ外にたどり着けないだろ」
「でも」
「さっさと行って」
なおもルフィナは迷うそぶりをみせたがごめんなさいと半泣きになって逃げていった。
「さてと」
探索スキルによると三十匹ほどが既に近くまで来ていた。各個撃破は出来ない。背後には階段があってここを通すわけにはいかない。数で押しつぶされればさすがにやばい。不利な条件なのに何故か気分が高揚する。
「おしてまいる、なんてね」