第10章 王都決戦Ⅲ
ヴィヴィとジュエルは王の寝室へと向かっていた。
堂々と廊下を二人して駆けているが、誰一人会うことは無かった。
ジュエルは足にまとわりつく、スカートを持ち上げて前を行くヴィヴィを追いかけた。髪は走っている間に多少崩れていたが今は気にならなかった。
けして速いスピードではないのだが普段、走る事がないためジュエルは少し息が上がっていた。行儀の教師がみたら、きっとはしたないと確実的に怒るだろう。
前を行くヴィヴィをジュエルは目で追った。不思議な事に息一つ乱していなかった。スカートも少し持ち上げるくらいで、びっくりするくらい優雅に走っている。髪もあまり乱れていない。仮面もズレルことなくぴったり付いている。
その横を鳥は並走、というより並飛びしていた。此方も、スーと迷うことなく飛んでいた。
と、ヴィヴィはちらりとジュエルの方を振り返った。少し、スピードを落としてヴィヴィはジュエルの横に来る。
「末姫殿。このまま真っ直ぐ行けばいいのか?」
「はい。そうですわ。このまま真っ直ぐ」
ジュエルは息を上げながらも答えた。このまま、進めば国王の寝室につく。止まって休みたい気持ちはあるが、ジュエルは懸命に足を動かした。一刻も早く、父を助けたい一心であった。
ヴィヴィはそのままジュエルの横を並走した。
鳥が少し心配そうにジュエルの横でぴ~ぴ~と間延びした鳴き声を出した。ジュエルはただ、大丈夫とニッコリと微笑み、前を見据えてひたすら走った。
しばらくして、目的の部屋が見えてきた。ここで、城に入って初めて人の姿があった。部屋の前で騎士が二人警備している。騎士たちは駆けてくる音に気がついたのだろう、ジュエルたちを目に留めると警戒したように、剣を前に構えた。
ジュエルは走ったまま、その騎士達に叫んだ。
「そこをお通しなさいませ!私はバゼック王国、第57代国王アーゲリオンの第21子。ジュエル・フォン・バゼックである。そこをお通しなさい!」
「ジュエル姫!?」
騎士たちは近づいてくるジュエルに目を見開いた。慌てて手に持っていた剣を提げる。だが、横を並走しているヴィヴィを見てギョッとした顔をし、ふたたび剣を構えた。
ジュエルは騎士達の目の前にきて立ち止まり、胸に手をあてた。心臓はどくどくと打ち、息は荒い呼吸をしていた。すぐに、息を整え、騎士達を見上げる。
見覚えのある騎士達だ。と、騎士の一人がジュエルの前に立ちはだかった。
「ジュエル様!ご無事ですか!下がってください!」
騎士の二人はヴィヴィに剣を向けて囲んだ。
喉元に剣先を向けられるも、ヴィヴィはそれを冷静に見つめていた。鳥はヴィヴィの肩に乗りハネの毛繕いをしている。
ジュエルは慌てて、前に立ちはだかる騎士の服を掴んだ。
「おやめなさい!この方は兄上がお連れした、北の森に住む魔女のヴィヴィ様です!父上の病を治すためにきていただいたのですわ。剣を収めなさい!」
「ですが・・・・・・」
騎士二人はジュエルの言葉に戸惑い、目の前のヴィヴィを見つめた。仮面をつけ、灰色の髪を片側にまとめて垂らし、黒いドレスを身に纏った姿を足から頭にかけて目を動かす。
「早く!剣を収めてくださいませ」
ジュエルがもう一度、騎士の服を引っ張るが騎士たちは互いに目を合わせ、迷いながらも剣を収めなかった。ヴィヴィは相変わらず何も言わず、ただじっと騎士達を見ているようだった。
ジュエルはもどかしくなり、もう一度、やめさせようと口を開いた瞬間だった。
後ろの扉がカチリとなった。
「いったい何事です」
扉を開けて顔をだしたのは、老齢の女性だった。きっちりと髪を上に全部まとめ、落ち着いた紺色のドレスを着た女性だ。その顔に皺が刻まれているが、けして歳を感じない堂々とした立ち姿である。ジュエルはその女性の顔を見て、喜びに顔を綻ばせた。
「アンリ!」
「ジュエル様!?」
名前を呼ばれた女性、アンリはジュエルの姿を見て目を見開いた。ジュエルは助かったとばかりにアンリに飛びついた。アンリはジュエルに視線を合わせて、頬を手で挟んだ。
「ジュエル様!いったい何処に行っていたのです!皆、心配していたのですよ!ガースも姿を消していましたし」
「ごめんなさいまし。兄上の下に行っていたのです!」
「兄上!?デュレック様はやはり生きておいででしたのね!」
「はい。これは全て計画されたことなのですわ。父上の病も。こちらにいらっしゃいますのは北の森の魔女のヴィヴィ様。父上の病を直すため来てくれたのですわ!!」
「北の森の?」
アンリは皺に刻まれた目を、剣を向けられたヴィヴィに向けた。ヴィヴィはアンリの顔を見て少し驚いてようだった。アンリも少し目を見開いている。
すると、アンリはすっと立ち上がり、騎士達に行った。
「剣を収めなさい」
「し、しかし」
「その方は、お客様です。ヴィヴィ様」
アンリはゆっくりと頭を下げた。
「ご無礼をお許しください。私は王室に仕えておりますアンリと申します。どうぞ。お入りくださいませ」
そう言って、部屋の扉を開けて道を明けた。
それを見て、騎士達は戸惑いつつも剣を収めて道を明ける。ヴィヴィは黙って見ていたが、やがて扉をくぐった。
アンリの後について、ヴィヴィとジュエルは寝室に入った。室内は、窓から光が差し込んで、意外と明るかった。部屋の奥には、大きな天蓋があるベッドがあった。
「父上!」
ジュエルがベッドを見て駆け出した。アンリはそれを止めることなくヴィヴィをベッドの側まで誘導する。ヴィヴィの方から鳥が離れ、スーッとそのベッドの側に降りた。
ジュエルはベッドの淵にしゃがみこんで、中で寝ている相手に手を差し出した。ヴィヴィがジュエルの横からその人物を覗く。
横たわっていたのは、あまりにも痩せた老人の姿だった。
ジュエルは老人の手をとりギュッと握った。
「父上。さらにおやつれになって」
ジュエルは泣きそうになるのをこらえるように、震えていた。横にいたアンリがその光景を見て、悲しげに目をふせた。
国王アーゲリオンは御歳50。だが、ヴィヴィの目の前で横たわっているのはどう見ても80近い老人だった。骨と皮だけなのかと思うほどに体は痩せ細り、肌は艶をなくし皺だらけである。髪も白く、乾いた唇からは小さく息を吸うたびに奇怪な音がなっていた。
ヴィヴィはジュエルの傍らに膝をついた。
「末姫殿。国王の容態を見る」
「はい。宜しくお願いいたしますわ」
ジュエルは名残惜しそうに手を離し、ヴィヴィに場所をあけた。
ヴィヴィは国王に近づくとその手をとって脈を診た。弱弱しく波打つ脈は、だがまだしっかりと生きようという意志が感じられた。
と、鳥がぴっと小さく鳴き、胸の方にくちばしを向けた。それを見たヴィヴィは失礼と言うと、国王の胸元に手をやった。と、痩せてあばらが浮き出ている胸をみてヴィヴィは息を呑んだ。
「何かわかりましたの?父上は治りますの?」
傍らで覗いていたジュエルが心配そうにヴィヴィを見てくる。ヴィヴィはそれには答えず、注意深く国王の胸に浮かんだ痣を観察した。
胸全体に広がるように白い肌に真っ青な痣が点々と広がっていた。
ヴィヴィは国王の体から目を離さずにアンリに聞いた。
「この痣はいつ頃から?」
「さあ、寝込みはじめた時にはすでにあったと思いますが。いつ頃からは分かりません」
「初めて見たときにはすでにこれくらいだったか?」
「はい。そうだったと思います」
「そうか」
そう言って、ヴィヴィは国王の顔に視線をむけ、顔色と呼吸を確認した。そして、アンリに振り返って言った。
「すまないが、用意してもらいたいものがある」
「はい。何でございましょう」
ヴィヴィはその花の名を言った。すると、ジュエルもアンリも目を見開いた。
アンリは戸惑うように口を開いた。
「あれでございますか?」
「ああ、難しいだろうか」
「いいえ。ただ、あまり数が多いと難しいと思いますが、少しでしたら大丈夫かと」
「そんなに多くなくていい。2、3本で間に合う」
「はあ、わかりました。では、急いで取ってまいります」
少し困惑はしているが、アンリはすぐさま部屋を出て行った。
「ヴィヴィ様?それで、父上の病は治るのですか?」
ジュエルは心配そうに父の様子を見て言う。ヴィヴィは静かに頷いた。
「ああ、この痣は、あの花の種子から作られる毒の症状だ。徐々に体を衰退させ、最後には老人のような姿になると聞いた事がある」
「でも、どうしてあの花をまた持ってくるんですの?」
「花の毒は、同じ花のエキスからしか薬が作れない」
「それで、治るんですの?」
「ああ、だが。急がないと危険な状態だ」
ヴィヴィは嘘偽り無く言い切った。ジュエルはヴィヴィの顔を見つめ、そして、国王の顔を見た。
国王は意識がなく、口で息をする様子は今にも止まりそうだ。
ジュエルはギュッと唇を噛み、ヴィヴィの顔をしっかりと見上げた。
「ヴィヴィ様。父を、父上を宜しくお願い致します」
ヴィヴィはじっとジュエルを見る。そして、静かに頷いた。
「ああ」
と、その時。国王の側にいた鳥が急に頭をあげキョロキョロとし始めた。
「どうしましたの?鳥さん?」
突然のことにジュエルも不安そうに鳥を見つめる。ヴィヴィも様子を見て、顔を上げて何かの様子を探るように顔を巡らせた。
すると、鳥が突然、羽を動かして飛び立つ。と、丁度よく、後ろの扉が開く音がした。
「お待たせ致し、まあ!」
飛び立った鳥が、丁度部屋に入ってきたアンリの横を通り過ぎ、部屋の外へと飛び出して行った。
その場にいた全員が鳥が出て行った扉を呆然と見つめた。
ただ、ヴィヴィの仮面の下の瞳は不安に少し揺れていた。
「デュー・・・・・・」
デュレックとガースの目の前の少年はおかしそうに笑っていた。その口から覗く白い歯が異様に輝いている。
「何者だ!」
ガースがデュレックの目の前に立ち、腰から剣を抜いた。デュレックも帯剣した剣を抜き、少年に向ける。少年は右目を大きく見開き、そしてゆっくりと嬉しそうにデュレック達を見てニタリと笑った。
「デュレック王子。この前は残念でしたね~。あ~あ、毒もすっかり抜けたみたいですね」
「ああ、ヴィヴィのお陰でな」
「お~、さすがヴィヴィさんだ。医療や毒に関してはヴィヴィさんに敵わないですよ~」
そう言って、少年は恐ろしいほど歪んだ笑顔をデュレックに向けた。
「はははは、こんな事初めてだよ。あの人さえ来なければ今頃仕事はもう終わってたのに。お陰で、契約延期だよ。それに、殺す人増えてるし。あ~あ、契約金一人分増やしてもらおう」
そう言った瞬間、少年の横からあの時の黒い影が床からにょきにょきと出てきた。出てきた黒い影たちはまた、ゆらりゆらりと揺れている。
「じゃあ、今回こそ殺られてくださいね。王子?」
「ギ―――――――――――」
少年が首をかしげる。と、その黒い影は一斉にデュレックの元に飛び掛ってきた。デュレックがあわてて剣を身構えようとした、と、その前にガースが前に立ちはだかり黒い影たちに仕掛けた。
「ガース!」
「殿下!早く、行ってください!ここは俺に任せて!」
そう言って、ガースは目の前に居る影を思いっきり剣で叩き付けた。影たちは耳障りな声を発して消えていく。ガースはそのまま、次の影にも剣を振るい横に薙ぎ払っていった。そのあと、間に合わない影には足で蹴り飛ばしていた。
影たちは次々と消えていく。だが、また次から次へと少年の傍らから現れてはガースとデュレックに襲い掛かった。
デュレックは動けなかった。ガースは優秀な騎士だ。だが、これだけの数を一人で抑えるのは難しいだろう。
ここでデュレックが一緒に残って、戦うべきか。しかし、それでは式典には間に合わないかもしれない。
と、遠くの方で式典の開始を知らせるラッパの音が聞こえてきた。
もう、式典が始まる。
デュレックはもう一度、ガースを見た。そして、覚悟を決めた。
「ガース。後は任せたぞ!」
「はっ!おまかせくださいっ!」
ガースはにっと笑い、取り囲んでいた影をなぎ倒した。それを見届けてデュレックは隙をついて、ガースの横を駆けた。だが、
「そうは、行きませんよ?」
そう聞こえた瞬間、少年がデュレックと扉の間に立ちはだかった。フードの下の少年の顔はにたにたと笑っていた。
「殿下!」
黒い影に囲まれたガースの声が聞こえる。すると、少年が手を軽く上げ周りから影たちが現れてガースの方に飛び掛っていった。
「ガース!!」
「はははははは、逃がさないですよ王子。ここまで手を煩わせてくれたんです。直接、この手で殺ってやりますよ」
少年はニタニタと笑いながら、手を横に広げて前に動かした。すると、ひゅっという音とともにデュレックの頬に風が当たる。瞬間、ピリっとした痛みが頬を伝った。
たらりと顔を伝って血が落ちてくる。
デュレックはごくりと唾を飲み込んだ。ゆっくりと手に持つ剣を握りなおし、目の前の少年に剣先を向ける。実践ではほとんど持った事のない剣がデュレックの手にずっしりと圧し掛かった。汗ばんだ手から剣の柄が落ちそうになり、何度か握りなおした。手が震える。
そんな、デュレックの様子を、少年は口の端を不気味に上げながら面白そうに眺めていた。その目は、恍惚と輝いている。そして、舌で唇を舐めた。
「死んでください?王子」
そう呟いて、少年は目を見開いてニヤリと笑う。妙に口から覗く歯の白さが目に入った。少年は何事か小さく呟くと、その手が赤く光り始めた。そして、手がふたたび動き、デュレックに向かってきた。
デュレックは目を見開いて動けなかった。
「殿下!!」
ガースは目の前にいた黒い影たちを薙ぎ倒し、デュレックのもとに向かおうとした、だが間に合わない。
デュレックは目の前に少年の手が近づいてくる。
殺される。
そう、思うと同時になぜか、頭の中に、父の、母達の、ジュエルを初めとした姉妹の、家族の姿が浮かんだ。ともに国を支える大臣や使用人達。外から、国民達のざわめく声が聞こえてくる。
そして、最後に仮面をつけた黒いドレスの魔女の姿が浮かんだ。なぜか、それにアンジェリーナの姿が重なる。ふいに、自分の名前を愛称で呼ぶ声が聞こえた。でも、それは追い求めた幼い少女の声ではなく、湖で聞いた低い女性の声だ。
不意に手の震えが止まった。
死ねない。死ぬわけにはいかないとデュレックは強く思った。国のため、国民のため、家族のため。そして、彼女のために。
デュレックは目の前の少年を見据えると手に持っていた鋭い剣を振るった。だが、間に合いそうに無い。
デュレックの目が極限まで見開かれた。と、デュレックの耳に、突然誰かの声が響いた。
『私が動きを止める。やれ!』
それは、聞いたことのない女性の声だった。だが、デュレックは今そんなことは気にならなかった。
その声が響いた瞬間、少年は驚いた顔をすると、その動きが突然ふいに止まる。
その隙を突いて、デュレックは思いっきり少年の体に剣を振るった。
「ぎゃ~~~~~~~~~」
少年の断末魔が響いた。少年はデュレックから離れる。床にボトリボトリと血が飛び散っていた。
少年は自分の腹部に手をあてて、手を持ち上げた。腹部と手が血で真っ赤に染まっている。白いフードがみるみる内に真っ赤に染まっていった。
「血が、血が、血が、血が~~~~~~~~~~~、あ~~~~~~~~」
少年の目は瞳孔が開ききり、自分の手をみて壮絶に叫んだ。我を失ったように手の血を見て、体中が痙攣していた。
デュレックはその光景を呆然と見ていた。すると、突如。少年の頭上に光る円が現れる。その中から金色の鳥が現れた。
「なっ、なんでここに」
鳥はばさばさと少年の前に降り立った。少年は震える手から虚ろな目をとりに動かした。その目が見る見る内に怒りに変わっていく。
「よくも、よくも、僕に傷を」
すると、またデュレックの耳にあの女性が聞こえた。
『去れ。今回はお前の負けじゃ。あの子に伝えよ。何の目的でこのような事をしているのか分からんが、これ以上この国に手を出すなとな』
「・・・・・・貴方達はご主人様のことを何も分かっていない。そんな、貴女達に、何かを意見する資格なんてないんですよ。僕はあの方のために、あの方のために。ここにいるやつらを全部消します」
『・・・・・・ならば、仕方が無いのう』
女性の声が聞こえなくなると、少年の座る床を中心に、突然魔方陣が現れた。少年の目は驚愕で見開かれ、目の前の鳥を見た。
鳥はただ、じっと少年を見つめていた。
少年はどこか恍惚とした、そして、歪んだ笑みを見せた。
「はははっはははっははっはは。いつか、いつか必ず!このお返しはしますからぇぇええ、ははっはははっはっはははっはははっはあっははっはは」
少年は狂ったように笑い始めた。そして、一瞬、魔方陣が強く光ると次の瞬間には少年の姿は消えていた。部屋には少年の笑い声の残響が響いていた。
デュレックは呆然とその光景を眺めていた。
「殿下。ご無事ですか?」
後ろからガースがデュレックの横にやってくる。呆然と振り返ると、そこには黒い影の後も何もなかった。どうやら、少年とともに消え去ったようだ。
「殿下?どこかお怪我でも」
何も反応せず、呆然と部屋を見回すデュレックにガースは心配そうに覗き込んだ。デュレックは一通り部屋を見て、そして手に持っている羊皮紙を見た。それは、まだ淡く光を纏っている。
デュレックは今更手が震えだしていた。ギュッと羊皮紙を握り、震えを抑える。
そして、ガースに顔を向けた。
「行こう」
デュレックがそう言うと、ガースはすぐに頷いて部屋の扉へと向かった。ガースに続いて部屋を出ようと足を向けると、そこに鳥がバサバサと飛んでデュレックの肩に乗った。
鳥は何事もなかったかのように毛繕いをしている。
デュレックはじっと鳥を見つめた。
すると、鳥がデュレックの視線に気がつき顔を上げた。
「ぴ~~~~~~、ぴぴ」
間延びした鳴き声を出し、どうしたのかと首をかしげる。まるで、さっきの声が幻だったように思えた。
じっと見つめ続けるデュレックに、ふたたび鳥が首をかしげた。
ガースが動かないデュレックを不思議に思い、扉から呼びかけた。
「どうかされましたか?」
デュレックは鳥を見たまま言った。
「・・・・・・ガース。さっき声が聞こえたか?」
「声?なんのですか?」
「女性の声だ。古めかしい感じの」
「いいえ。何も聞こえませんでしたが」
「・・・・・・そうか」
「殿下。急ぎませんと」
「ああ・・・・・・」
デュレックは相変わらず鳥を見ていたが、すぐに視線を外し政務室をでて、式典会場のバルコニーへと向かった。




