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新年明けましておめでとうございます。

こちらは2話目の更新分です。

       

 

 

 ユイが目を覚ましてから数日後。

 

 翌日までは付きっきりになっていたテオも落ち着きを取り戻し、ようやくいつもの生活に戻ったユイは、現在テオと共に応接室に来ていた。


 この日はユーリがアロイスに会うため、再びセーデルホルム辺境領からフォルジュ邸へと訪れていた。

 

 応接室には既にユーリがおり、対面するソファーにアロイスとコーデリアが座っている。ユイとテオはそれぞれ左右に置かれたソファーに腰掛けた。それは前回と同じだが、今回は入り口付近に執事のシリル、アリア、ロニーがそれぞれ控えていた。

 

「さて。まず大前提としてだが、ここにいる者達はこの子の存在を知っているね?」

 

 その言葉に、アロイスは頷いて見せる。


 何故ユーリがユイのことを知っているのか。


 これについてはテオと同じ理由だろう。妖精達に隠し事が出来ないことはテオの話を聞いて知っている。


 ちなみにテオがユイの存在を知っていた件については、倒れた時に事情を説明したと聞いている。だからこそ同じ愛し子であるユーリがユイの存在を知っていたとしても、今となっては不思議なことではない。

 

 そしてそんなユーリがこの場でユイの存在を仄めかしたのは、ユイについて話があるからに他ならない。


 既にユイの存在は、シリルをはじめアリアとロニーにも知るところとなった。

 

 ユイが目覚めた時ですら、あれだけ「ユイ」と呼んでいたのだ。倒れた時だって同じ状態だったのは明白で、ユイが気を失っている間に彼らにはユイの存在を伝えたとアロイスから説明されている。

 

 その話を聞いた時、フィアナの体に憑依してから二年以上経った今になって知らされる事実を、彼らはどう受け取ったのだろうかと不安になったが、それは心配する必要もなく。

 

 既に彼らなりにその事実を受け入れており、そのうえで今まで通り仕えると明言していたそうだ。

 

「この子の……ユイの存在を知る者は、ここにいる者が全てだ」

 

 アロイスの言葉に同意するように、シリル達は礼を以て同意を示す。

 

「そうか。それじゃあ、改めて自己紹介をしてもらっていいか?」

 

 ユーリに視線で促されたユイは、立ち上がってカーテシーと共に挨拶を述べる。

 

「改めまして、セーデルホルム辺境伯にご挨拶申し上げます。私は神代結と言います。結が名前で、神代がファミリーネームとなります」

 

 バランスの取りにくいカーテシーは難しく、それでも震えないように気を張りながら膝を軽く下げて礼をする。

 

「ありがとう。楽にしていいよ」

「ありがとうございます」

 

 改めて座りなおすと、ユーリは穏やかに微笑みながら話し掛けてくる。

 

「神代結か。君は元の自分について、どこまで覚えている?」

「一通りは覚えていますが、フィアナの体に憑依する前後の記憶だけが曖昧です。自分の元の体が昏睡しているのか、亡くなっているのか……定かではありません」

 

 それを聞いて、ユーリは少しだけ思案する素振りを見せたが、再びユイへと視線を向ける。

 

「君はここで生きていく意思はあるか?」

「はい。フィアナの体で生きていくつもりです」

 

 真っ直ぐに向けられた視線に、ユイは目を逸らすこともなく答える。

 

 以前のような後ろめたい気持ちはない。妹の望みであり、ユイの意思でもあるからだ。

 

「分かった。では、本題に入ろう」

 

 そう言うと、ユーリはアロイスへと視線を向ける。

 

「結ついてだが、彼女は『渡り人』と呼ばれる別世界から招かれた存在と見て間違いないだろう」

「渡り人……聞いたことはあるが、妖精と同じで伝承でしか聞いたことがないな」

「無理もない。渡り人が呼ばれる理由も頻度も不明で、呼ばれた側も何故呼ばれたのか把握していないからな」

 

 ユイからすれば、自分の他にも似たような存在がいるのだと言う事実にまず驚きを隠せなかった。

 

「渡り人はごく普通の人間であり、基本的には害のある者が呼ばれることはないと言うことだけは共通するそうだ。王家は渡り人を発見した際、その人物に危険性がない場合は保護することにしている」

「しかし、渡り人とは別世界から現れた者のことを言うのだろう?」

 

 つまりは、肉体を以てこの世界に現れた者と言うことだ。

 

「その通りだ。しかし結は魂だけでこの世界に現れ、フィアナの体に憑依した。そこに関して相違点はあるものの、肉体を持たない以外は渡り人と同じ状態とも言える」

 

 確かに体を持ってここに現れていたとしたら、まさに渡り人と同じ状態だろう。

 

 だがそれよりも、ユイにとって気になることがあった。

 

「私の他にも、渡り人がいるんですか?」

 

 自分以外にも、別の世界から来た者がいるかもしれないと言う可能性だ。

 

「一人だけ渡り人はいる。そして渡り人本人ではないが、彼らの子孫も存在しているよ」

 

 その言葉に、ユイは思わず唖然とした。

 

「王家は渡り人を発見した際、本人の希望がない限りは我がセーデルホルム辺境領で保護するよう定めている」

「では、実際にセーデルホルム辺境領で渡り人が暮らしているのか」

 

 流石にアロイスも知らなかったようで、驚いた顔をしていた。

 

「我が領地は長きに渡って彼らを保護してきた経歴があるため、あちらの文化に精通している。渡り人にとっては比較的住み良い土地となっている」

 

 そう言う意味合いもあって、希望がない限りはセーデルホルム辺境領で保護することになっているらしい。

 

「そういう訳で、渡り人は引き取ることにしているが、結はフォルジュ家の人間として生きていくのだろう?」

「……はい。お父様とお母様と、テオと一緒に暮らしていきたいです」

 

 ユイの言葉に、アロイス達は嬉しそうな表情をする。

 

「それでいい。アロイス達から君を奪う訳にもいかないしね」

「……ユイが望むなら、引き留めるつもりはないが」

「コーデリア、君の夫君に言ってやると良い。恨みがましい顔をするものではないとね」

 

 話を振られたコーデリアは思わずアロイスと目を合わせ、お互いに何とも言えない顔をしていたことを知って失笑した。

 

「陛下には私から報告させてもらう。そして本人の意思の元、フォルジュ家にあることを望んだと」

 

 ユイはしっかり返事を返して「よろしくお願いします」と礼をした。

 

 そんなユイの姿を見て一つ頷くと、ユーリは更に言葉を続ける。

 

「ちなみに、渡り人にはこの世界で生きるために名を与えられる。ユイは元々フィアナの体に憑依したため既に名を持っているが、渡り人にはミドルネームを付けることになっている」

「ミドルネーム……?」

 

 ユーリはそれに頷きながら懐に手を入れると、何かを取り出した。

 

 それは筒状に丸められた羊皮紙で、ユーリは話しながらアロイスへと手渡す。

 

「家族間で呼ばれる名がユイであるなら、君は『フィアナ・ユイ・フォルジュ』と名を改めた方がいい」

 

 アロイスに渡されたそれは、渡り人を引き取る際の誓約書とフィアナの名を変更する申請書だった。

 

「渡り人はこの世界での名と共に戸籍も与えられるが、君の場合はミドルネームの申請だけでいいだろう」

「私達に報告義務はないのか?」

「本来であれば当然報告義務はある。だが、現セーデルホルム辺境伯が私で、更には結の婚約者も愛し子だ。だから必要ない」

 

 不意に話を振られたテオは目を丸くする。ここで自分に話を振られるとは思わなかったのだろう。

 

「ウィスや他の妖精達が勝手に知らせてくるからね。君達には申し訳ないが、結の存在は私が最初に訪れた時には知っていた」

「テオから話を聞いて納得したよ。物知り顔だとは思っていたが」

「すまないとは思っている」

 

 これには流石のアロイスも苦笑いしていた。

 

 話題に上がったウィスはと言えば、悠々とテオの膝の上で寝そべっている。

 

「名を改めるとは言え、ミドルネームは信頼のおける者にのみ伝えるように。渡り人は知り得ない知識を持った者でもある。過去にはその知識を得んと誘拐されたケースもある。今まで通り、君はあくまでフィアナであることに変わりはない」

「分かりました」

 

 王都から離れた辺境の地に渡り人を匿うのは、あるいは危険から守る目的もあるのかもしれない。そんなことを考えながら、結はしっかりと頷きながら了承した。

 

「さて、では最後に一つだけ」

 

 あえて明るい口調で話を切り替えると、ユーリはユイと再び目を合わせて話し出す。

 

「妖精達の口が軽いばかりに、君達の隠し事を知ってしまった。代わりと言っては何だが、私も秘密を一つ打ち明けよう」

 

 そんなユーリの言葉に、ユイ達は思わずキョトンとしてしまったが、そんなことなど気にすることもなく彼は執事の方へと目線を向ける。

 

 シリルはすぐにそれに反応し、アリアとロニーを連れて退出した。

 

「私が妖精の愛し子だと言うことは既に伝えたね」

 

 ユイはその言葉に頷く。

 

「私は愛し子であると同時に、別の名も持っている」

「……別の、名前?」

 

 それは、つまり。

 

「私の今の名はユーリ・カゲヒサ・セーデルホルム。元の名は黒瀬影久(クロセカゲヒサ)と言う。結、君と同じ日本人だ」

 

 懐かしいとさえ感じる語感の名前に、ユイは唖然として言葉を無くした。

 

 だが、思えば最初の印象の時点で不思議には思っていたのだ。

 

 真っ黒でサラサラの髪も、日本人によく似た顔付きも、この世界の男性より小柄で細身の体型も。今思えば、ユーリが藤をウィステリアのことだとすぐに訂正できたことだってそうだ。

 

 それらの事象は全て、彼が日本人だとの証左に他ならないわけで。

 

「じゃあ……この世界にいる渡り人は」

「私のことだ。幼少の頃に神隠しに遭って、気が付いた時にはこの世界に来ていた」

 

 ユイからすれば異世界転生だと思うところを、ユーリは自分に起きた現象を神隠しだと表現した。

 

「私が住んでいた村は山奥にある限界集落でね。そこでは幼子は神隠しに遭うから森に入ってはいけないと言われていた」

 

 その村では神隠し伝説が実際に起こり得る事象として信じられており、古びた鳥居の先には隠し神の住まう森があるため幼子を近づけてはいけないと言われていた。

 

「私の家は貧しく、暮らしていくのもやっとだった。ある日森の奥まで連れて行かれて置き去りにされた時、口減らしのために捨てられたんだと気付いた。元々体が弱かったから、これ以上生活を圧迫されたくなかったのだろう」

 

 神隠し伝承はそう言った後ろめたいことの隠れ蓑とするために語り継がれていたのかもしれないと、後にユーリは思ったという。

 

「動き回ることもなくその場に座り込んでいたんだが、気が付いた時にはセーデルホルム辺境領の妖精猫の森にいた」

 

 その後は当時のセーデルホルム辺境伯に保護され、子宝に恵まれなかった辺境伯の元へ養子として迎え入れられたらしい。

 

「他ならぬ私自身が渡り人だから、結の戸惑いはよく分かる。今後この世界で暮らしていくうえで、文化の違いに戸惑うこともあるだろう。同郷の者として、困った時は遠慮なく頼ってくれ」

 

 そう言ってニコッと微笑みかけられる。

 

 同じ世界の、同じ日本人だと知った途端にユーリが身近な人のように感じ、ユイは思わず笑ってしまった。彼の話しぶりから察するに、おそらくはユイが暮らしていた時代よりもずっと昔の人のように感じるのに、この世界では絶対にありえないだろう神隠しと言う現象について語る彼は、間違いなく日本人でしかないのだ。

 

 それがこんなに、心を安らかにさせてくれるなんて。

 

「ありがとうございます、辺境伯様。話だけ聞けば酷い内容なのに、失礼ながら同じ日本人だと分かって安心してしまいました」

「神隠しなんて言葉は日本にしか存在しないからね。それと君の名を知る者の前では、私のことは本来の名で呼んでくれて構わない」

「……じゃあ、黒瀬さんで」

「ふっ、この世界で黒瀬と呼ばれるのは初めてだ。嬉しいものだね」

 

 そんなユーリとの会話ですっかり心を許したユイは、初めて無意識に感じていた重荷が軽くなった気がした。

 

「これからはアロイス達にも、向こうの世界のことを教えてやるといい。特にテオには早急に」

「え……?」

 

 言われてテオの方を見ると、面白くないとでも言うように眉をひそめてユイ達を見ていた。膝で寝そべっていたウィスに至っては、体を起こしはしないものの顔を上げて不満そうに尻尾を叩きつけている。

 

「君が私と楽しそうにしているから嫉妬されたようだ」

「…………」

 

 ユーリの発言を受けて、テオは更に目を細めて不満を表す。

 

「ユーリ、テオを煽ってくれるな。またユイから離れなくなるだろう」

「仲睦まじいのはいいことじゃないか」

「そもそも君が渡り人だなんて初耳なんだが?旧友に隠し事なんて酷いじゃないか」

「あちらの言葉で言うなら『事は密なるを以て成る』だ。王家の絡んだ案件を私の一存で話せるわけがないだろう」

「アロイス、知る機会に恵まれたのだから、今はそれを喜びましょう?」

 

 そんな大人達の会話など目もくれず、テオはおもむろに立ち上がると真っ直ぐにユイの元へ歩を進める。

 

 目の前に来たテオはユイの座っていたソファーに体を寄せて座ると、当たり前のようにユイの腰に腕を回して抱き寄せる。

 

「て……テオっ」

 

 両親やユーリがいるのに構わず抱き寄せられ、ユイは頬を染めながらその行動を窘めようとする。

 

 しかしテオの腕はがっちりとユイを掴んでいて、身じろいだところで何の意味もなさなかった。

 

「素直に嫉妬するところは可愛いじゃないか。君のように変に我慢して物事を面倒にすることはないんじゃないか?」

「余計なお世話だ」

 

 すっかり近しい者同士の口振りになったアロイス達は、その後は渡り人の手続きについて話し合っていた。

 

 ユイはと言うと、そんな会話を尻目に離そうとしないテオの行動に恥ずかしがり、何とか離してもらえないかと懇願しても何の返答もなく抱き締められ続けた。

 

「さて、私の用事は終わったが、良ければテオと話をさせてもらえないかな?できればアロイスも同席してほしい」

「では、私達は席を外しますね」

 

 ユーリの言葉を受けて、コーデリアが席を立った。ユイもそれに続こうとするも、テオの腕が解放されることはない。

 

「テオ、黒瀬さんを待たせては悪いわ」

「…………」

 

 しぶしぶ、本当にしぶしぶと言った風にユイを開放すると、テオの瞳がジッと見つめてくる。

 

「終わったら、会いに行くから」

「う……うん」

 

 妙にその言葉に恥ずかしさを覚え、ユイは頬の熱が引かないままに席を立った。

 

 

 やがて話を終えたユーリは、再びワイバーンに乗って辺境領へと帰って行った。

 


 ユイにとってのこの二年は、その殆どをフィアナに体を譲った時を想定し、経験を重ねるために使ってきた。

 

 けれど今後は、ユイ自身のためにフィアナの生涯を生きていくことになる。それを考えると心が痛むが、それでも生きることを諦めようとは思わない。

 

 愛してくれる両親がいる。将来を共に歩んでくれる伴侶となる人がいる。同郷の理解者もいる。

 

 これから先の未来は、彼らと一緒に歩んでいく。

 

 フィアナ・ユイ・フォルジュとして――。

 

 

 

 出逢いの章はこれにて完結となります。

 次の番外更新後はストックがなくなるので、次章公開まで暫くの間更新が止まることをご了承下さい。


 少しでも内容が気に入ったり興味を持って頂けたら、いいね・ブックマーク・評価をして頂けるととても嬉しいです。

 作品を書くモチベーションに繋がりますので、何卒宜しくお願い致します。

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