第76話 魔法講師
「…………つまり、人間と魔王軍との戦争が始まる前に少しでも戦力を強固なものにさせるため、シルヴィア様及び、第二騎士団の皆様に魔法の講義をすればいいのですか?」
「はい。そういうことになります……」
私はティーカップに口を付け、静かに状況の整理をする。
てっきり私が魔王だと疑われたのかと思っていたが、どうやら違うようだ。
魔王の復活は勇者の誕生によって知らされたが、魔王はまだ『魔大陸』という、魔族の住む大陸に居ると思っているらしい。
『貴女は無関係ではない』
と言った本当の意味は、私が魔王だからというわけではなかった。
問題に巻き込まれやすい私のことだから、どうせ魔族との戦争に関わるのだろう。だったら最初から関わらせて一番近くで見張っておいた方が、いざという時に対処しやすいと、シルヴィア様は考えていたようだ。
──あたしゃ犬か!
とツッコミを入れたかったが、そう思われるのも仕方ないと思って黙ることにした。
「別に協力することに関しては構いません。むしろシルヴィア様のお力になれるのであれば、喜んで協力しましょう。……ですが、そちらはそれでよろしいのですか?」
「と、言いますと?」
「私はまだ6歳です。そんな子供から魔法の講義を受けるなんて屈辱だ! と思われるのではないでしょうか?」
大人のプライドというやつだ。
人間は無駄にプライドが高く、自分よりも下だと思っている者に教えを乞うことは、最大の屈辱だと文句が出ると私は予想している。
シルヴィア様のお願いに応えたいのは山々だが、不満を持たれるようなことはしたくない。
それが私の意見だった。
「なんだ。そんなことですか」
だが、彼はそれを笑い飛ばした。
「貴女はシンシアと剣で対等にやり合っている。それを毎回見ている第二騎士団の皆が、貴女の実力を小さく見ているわけがないでしょう?」
「…………ああ、そうでしたね」
シンシア様は第二騎士団の副団長だ。
つまり、第二騎士団では団長の次に強い。
序列で言う二番と三番の間には、差がある。
それは何十年と頑張っても埋まらない、圧倒的な差だ。
第二騎士団の副団長と互角に剣をぶつけ合うということは、私は彼らの中で二番目に値する実力を持っているという証明でもあるのだ。
「そして今日、貴女は魔力のみでシンシアを圧倒した。他の騎士団がどう思うかはわかりませんが、第二騎士団の中で貴女を疑い、下に見るような奴はいませんよ」
「ですが、騎士は肉弾戦を好む方が多いと言われています。今更魔法を習うのは抵抗があるのでは?」
「そこもご安心ください。実は、シンシアが魔法を使うようになってからというもの、自分も魔法で体を強化したいと懇願する者が多く出てきまして……」
「……つまり、シルヴィア様だけでは面倒を見きれないから、魔法の使い手である私にぶん投げようと?」
「私は、シェラローズ様ならばやり遂げてくれると信じていますよ」
屈託のない笑顔。
それを見て文句を言う気すら起きなくなり、私は小さな溜め息を吐き出した。
「わかりました。第二騎士団に協力しましょう」
「っ、シェラローズ様……!」
「ですが、魔法適性が無い者はどう頑張っても魔法を習得できません。その場合は潔く諦めていただきます」
「ええ、それで問題ありません。何卒、よろしくお願いいたします」
第二騎士団のトップ二人が、同時に私へと頭を下げた。
多分、凄いことなのだろうと思いながら、私はそれを眺める。
「あ、それと一つだけ」
「はい。なんでしょう?」
言い忘れていることが一つだけあったと思い、騎士達の稽古を始める前に伝えておく。
「私の稽古は他と少し異なるというか……はっきり言って異常らしいです。なので、私が教えることは他言無用でお願いします」
これは絶対条件だった。
……というか、父親の執事であるコンコッドから厳しく言われていたことだ。
『いいですか? 貴女ははっきり言って異常です。マジであり得ないです。特に魔法! 双子に教えるのは止めませんが、絶対に他に漏らしてはいけません。絶対です。今、この場で誓っていただきます! というか私の平穏のために誓ってくださいお願いします』
と、大人の本気の土下座を見せられた私は、流石に誓わざるを得なかった。
「……わかりました。魔法の講義については他言無用とさせていただきます」
「ええ、お願いします」
特に過保護な三馬鹿と、誓いを立てたコンコッドからは凄まじい勢いで反対され、怒られるだろう。そうなれば私も面倒だ。そうなる前に問題の根を摘んでおく必要がある。
「バレたら多分凄いことになってしまうので、ほんとに……」
私の熱意が伝わったのか、二人は生唾を飲み込んで何度も頷いた。
こうして私は、第二騎士団の専門魔法講師となったのだった。




