第65話 誕生日プレゼント
「ふんふん、ふんふーん♪」
その日の夜、双子の尻尾を触りながら、私は呑気に鼻歌を口ずさんでいた。
双子はそんな私を不思議に思ったらしく、首を傾げている。
「シェラローズさま、きげんいい?」
「シェラローズさま、うれしそう?」
「ええ。今日はとっても良いことがあったの。機嫌は良いし、嬉しいのよ」
なにせ、シルヴィア様からの誕生日プレゼントで、彼と剣を交える機会を手に入れたのだ。
今日一日、ずっとこの調子になってしまい、エルシアやコンコッドから「また何か企んでいるのでは?」とあらぬ疑いの目を向けられたが、それすらも気にならないほど、私は上機嫌だった。
「きげんがいいこと、きになる……!」
「うれしいこと、きになる……!」
教えて教えてと、双子は私に縋ってきた。
「今日はね、シルヴィア様から誕生日プレゼントの約束を頂いたの!」
「シルヴィアさま? だーれ?」
「たんじょうびぷれぜんと? なにそれ?」
「シルヴィア様はとても凄い人で、誕生日は年に一度、自分の生まれた日を祝うことよ。そのプレゼントをくれるって、彼と約束したの」
「「…………?」」
説明をしても、あまりピンと来ていないようだった。
白狼族はあまり誕生日を祝わないのか、それとも双子が誕生日というものを知らないのか。
「二人は『誕生日おめでとう』って、言われたことはない?」
「ある! パパとママに、いわれた!」
「ある! おいしいものいっぱい、たべた!」
相変わらず、双子は単純だ。
でもそれが愛らしい。
「シェラローズさま、おいわいするの?」
「そうよ。もう少しで私は7歳になるの。二人と同い年ね」
そういえば、双子の誕生日はいつだろうか。
それを聞いたところ、わからないと首を傾げられた。
ならちょうど良いと、私は手を叩く。
「私の誕生日と一緒に、二人の誕生日も祝ってしまいましょう!」
「ティアも?」
「ティナも?」
「ええ、二人ともよ。私達は今から、同じ誕生日。祝うのも成長するのも同じ。素敵でしょう?」
双子の目が輝く。
どうやら、気に入ってもらえたらしい。
「シェラローズさまとおなじ、たんじょうび!」
「ティアもティナも、シェラローズさまとおなじ!」
余程嬉しかったのだろう。二人して万歳しながら、何度も「おなじ! おなじ!」と言っている。
誕生日がわからないのであれば、一緒にしてしまえばいい。
即興で考えたことだが、こうして喜んでくれるのだ。私も嬉しくなってしまう。
「そうと決まったら、二人はどんなプレゼントが欲しい?」
「ケーキ!」
「お肉!」
私はガクッとコケた。
子供らしい、食欲に忠実な望みだ。
「その程度、プレゼントには入らないわ。うちはお金持ちなのよ? 当然、ケーキもお肉も沢山出てくるわ」
「「ほんとう!?」」
「ええ。嘘は言わないわ」
折角だ、ケーキとお肉は最高級のものを用意してもらおう。
でもやっぱり、その程度のことはプレゼントには入らない。
「それで、改めて二人は何が欲しい?」
その質問に双子は顔を見合わせ、同時に頷き、私と目が合った。
「「つよくなりたい!」」
「え?」
「つよくなって、シェラローズさまをまもるの!」
「シェラローズさまにわるいことするひとを、たおすの!」
「え、えぇと……」
それはプレゼントなのか?
でも、二人に戦い方を教えるということならば、すでに約束はしている。
双子が言葉をちゃんと覚えられるようになったら、簡単な護身術程度は教えてあげようと思っていたところだ。
「「だめ?」」
「…………わかった。約束しましょう」
それもプレゼントではなく、私が与えてあげるつもりだった。
だからこれはプレゼントにならないと、そう言おうと思っていたのだが、上目遣いで懇願されてしまえば、二回もダメだとは言えなかった。
「やったね、ティナ!」
「やったよ、ティア!」
双子は再び万歳して、抱き合いながら喜びを分かち合っている。
…………まぁ、こんなに喜んでもらえているのだから、それで結果的に良かったのかもしれない。
「シェラローズさまは?」
「プレゼント、なにがいい?」
「え、私……?」
「シェラローズさまも、たんじょうび!」
「プレゼントなくちゃ、ふこうへい!」
そんな難しい言葉を覚えたのか、流石はティナだ──って、そうじゃない。
誕生日プレゼントか。
確かに、私が双子に与えるのだから、逆もなければ不公平だろう。
「そうねぇ、これからも変わらず、私と──」
私は言葉の途中で、それを途切れさせた。
──これからも変わらず、私と一緒に居て欲しい。
それを言うのは、ダメだ。
その言葉は、双子の人生を縛ってしまう。
双子は私のお願いなら、二つ返事で頷くだろう。
それではダメなのだ。
私が言ったからではなく、きちんと双子だけの意思でこの先の未来を決めてほしい。
「これからも変わらず、私に元気な姿を見せてちょうだい」
でも、これくらいなら良いだろう。
我が子の元気を願わない親はいない。
私もそれは同じで、いつまでも双子には元気で居て欲しい。
だから、そう願った。
「うん! ティア、げんき!」
「ティナも、げんき!」
早速、元気アピールを始める双子に、私は微笑む。
「まだ誕生日には早いわよ。……でも、ありがとう」
双子の頭に手を置き、撫でる。
すると、気持ち良さそうに目を細め、ゴロゴロと喉を鳴らし始めた。
いつまでも撫でていたいけれど、これ以上はエルシアに怒られてしまう。
「ほら、そろそろ寝るわよ」
私は燭台の火を消し、ベッドに横になる。
ティアが右に、ティナが左に。
私を挟むように、抱きついてきた。
「「おやすみなさい。シェラローズさま」」
「ええ、おやすみなさい。ティア、ティナ」
双子のおでこにキスを落とし、私は目を瞑った。




