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第22話 おねがい

「私が、この力をどこで手に入れたか……ですか」


 父親の言葉を復唱する。


 静かに瞠目し、私は本音を口にする。


「それは、今必要なことなのでしょうか?」

「……なんだと?」


 彼もこの返答は予想していなかったのか、怪訝な表情に切り替わった。


「今お父様が考えるべきなのは、今後の対策ではないのですか?」


 相手が犯罪者だったとはいえ、私は闇社会の一部に手を出してしまったのだ。


 助けて終わりではない。

 奴らはうざいほど執念深い。

 そして彼らは独自のルートで繋がっている。つまり、沢山の仕事仲間が存在する。


 彼らが「仕事の邪魔をしやがって」と、アトラフィード家を襲うかもしれない。

 だが、流石にこちらは公爵家だ。デメリットが大きいと考えて直接手を出すことは避けるかもしれないが、何らかの妨害工作は仕掛けてくることだろう。やられたままで終わると、楽観視しない方が身のためだ。


 危険なことを平然とやってしまう世界の人間に、6歳の貴族令嬢が喧嘩を売ったのだ。

 ただ冒険者が助けに入ったのではなく、彼らの半分も生きていない少女が完膚無きまでに叩きのめしてしまった。そのことで大人、そして悪人のプライドに油を注いだのは間違いない。


 それらを考えると、ただでは終わらないだろう。


「裏社会に喧嘩を売るのは、たとえ貴族だろうと危険な行為です。彼らは手段を選ばないほどに性根が腐っている連中です。家族だけではなく、使用人さえ巻き込む可能性は大いにあるでしょう」


 でも、私は全てを理解した上で行動した。


 公爵家当主として、どうしてそんな危険な手段に出てしまったのか。それを第一に考えるべきだろう。


 まだ伯爵位や男爵位辺りだったならば、まだ悪影響が出るのは我が家だけで済んだので問題はなかった。


 しかし私達は公爵家で、国王のお膝元である。

 アトラフィード家の悪い噂を流されでもしたら、王家にも少なからず影響が出てしまうだろう。


 その時に責任が問われるのは私ではなく、現当主である父親なのだ。


 今回の場合は私のことを気にかけるより先に、アトラフィード家の信用をどうにかすることを考え、敵よりも先に対処するべき。


「……と、私は思ったのですが。間違いでしょうか?」


 私の考えを述べると、父親は何度目かの大きな溜め息を吐く。


「…………我が愛しのシエラは、そこまで理解しておいて……どうして彼女らを助けた?」

「そんなの決まっています」


 二人を見た瞬間に、私の体は動いていた。

 あれを見て見ぬ振りしていたら、私も『腰抜け』となっていた。


 ──それだけは許せない。

 助けられる命を助けないのなら、私がこの力を持っている意味がない。


 だから助けた。

 助けたいと思ったから、助けた。


「全ては私のため……私が私であるために助けただけのことです」

「我がアトラフィード家が危険に晒されることになっても、お前は自分のためと動くのか?」


 父親の視線が鋭くなる。

 6歳の少女なら怖くて泣き出してしまうほど、その視線は酷く真剣なものだった。


 私はそれを真正面に受けて尚、身じろぎせず微笑んだ。


「勿論です」


 助けないまま一生後悔していくか、組織を敵に回すか。

 そのどちらかを天秤にかけたのであれば、私は迷わず後者を選ぶだろう。


 それが私の──魔王の進むべき覇道だ。


 …………まぁ、今の私は魔王ではないのだが。


「ではシエラ。お前は何を考えている? 全てを理解して、何も策が無いという訳ではないのだろう?」


 その問いに対して私は笑みを崩さず、一言。



「何も考えていませんよ?」

「「「「はい?」」」」


 部屋のいる人の声が見事にハモった。


 ……うむ、聞こえていなかっただろうか?


「何も考えていません。何か問題でも?」

「…………本当に、何も考えていないのか?」

「だから何度もそう言っているではないですか。……え、むしろ何かを考えているとでも?」

「いやぁ、そこまで理解しているのだから、何か対策くらいは考えてくれているのかと思っていたのだが……そうか。何も考えていなかったか」

「だって私、6歳の女の子ですし……難しいことはわかりません」

「普通6歳の女の子は大人三人を相手にして無力化しない」

「……ごもっともな意見で」


 ごもっともすぎて何も言い返せないな。


 だが、嘘は言っていない。


 私は何も考えていない。

 それはつまり、別に対策を考えなくてもどうにかなるということだ。


 あの程度の男達が束になったところで、公爵家の相手ではない。


 そう判断した私は──丸投げすることを決めた。


 今回の騒動で迷惑を掛けてしまったことには申し訳ないと思う。

 しかし、どうせやってしまったのだから、こうなればとことん最後まで迷惑を掛けてしまおうと思い、私は何も考えていなかったのだ。


「だからお父様。私のお願いです」


 私は両手を重ね、お願いのポーズを作る。


「助けてください」


 上目遣いの懇願。

 父親は「はぐぅ……!」と胸を抑え、悶えた。


 効果は抜群のようだ。


「……お父様?」


 だが、私の攻撃はこの程度では終わらない。


 純真無垢な少女を演じて父親の近くまで歩み寄り、今も悶える彼を心配したように見つめる。


「お父様……大丈夫ですか? ……無理を言ってしまっているのは理解しています。でも、頼れるのはお父様しか居ないのです」


 何に射抜かれたのか、父親は「ふぐぉ!」と体を反らして唸った。

 はぁはぁと息が荒々しくなっているが、どうしたのだろうか?


「ねぇお父様? 私のお願い……聞き入れてくれるでしょうか?」

「……し、しかし……」


「お願いですお父様……ね?」


「よしわかった!」


 父親──陥落。


「本当ですか? 本当に助けていただけるのですか?」

「ああ! 可愛いシエラのためだ。闇社会如き敵ではない!」

「流石ですお父様!」

「ははははは! そうか、そうか!」

「やはり頼りになるのはお父様だけですね!」

「いやぁ、照れるな! あっはっはっ!」

「では、あの姉妹の面倒も見てくださいますよね?」

「ああ! 勿論だと──ん?」

「言質は取りました。ありがとうございます。お父様!」


 私は父親から身を離し、笑顔で感謝した。

 コンコッドが小さく「小悪魔だ」と呟いたのは、聞かなかったことにしよう。

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