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魔放少女あやかしアヤカ  作者: 本間鶏頭
第二章 死闘、魔崩少女ミチル
23/65

第十二話:廃病院の怨念 人を呪わば穴七つ(1)

2019/04/21 章編成を変更しました。

「ちょっと、これ結構ヤバくない?」


 懐中電灯を片手に、暗い廊下を歩く。

 十年以上も昔に廃墟と化した病院。不気味な建物内には、様々な物が散乱している。割れた窓ガラス。ぼろぼろのシーツ。そして、もう誰も横になることのない、足の折れたベッド……。


「ね。そうだ、写真撮ろうよ写真!」

「面白そう! せっかくだしね。ほら八澄田(やすだ)、撮って。あ、スマホ落とすなよ」

「う……うん」


 真っ暗な中、フラッシュの閃光が何度も走る。これだけ撮れば、一枚くらい何かヤバいものが写るかもしれない。

 ここは、地元では名の知れた心霊スポットなのだから。


 事の発端は、先日の昼休み。

 女子高生の壱岐城(いきしろ)達は、怪談で盛り上がっていた。季節は本格的に夏を迎え、時期柄、怖い話はお決まりである。

 その最中、彼氏の双木(ふたぎ)が実際に心霊スポットへ行こうと言い出したのだ。双木の友人である参河(さんが)が二つ返事で賛同し、瞬く間にその波が広がっていく。

 そして、仲の良いグループの全七人が、それぞれの予定を確認した頃。


「ねぇ、八澄田。一緒に来ない?」


 声を掛けたのは、教室の隅にいた冴えない女子だ。クスクスと周囲が笑い声を漏らす中、彼女は唇を噛みつつ小さく頷く。


 それを見ながら、壱岐城は思う。

 自分達は勝ち組(・・・)だと。


 彼女のグループは、所謂スクールカーストのトップである。

 壱岐城と双木は、二人とも地区代表にだって選抜されたテニス部のエース。参河とその彼女の四根倉(よねくら)もバスケ部のトッププレイヤーだ。ふわふわした可愛い系女子の陸谷(りくたに)は、担任教師のお気に入り。そして、見せびらかすようにブランド物の鞄で学校に来ている伍代(ごだい)に、市議か何かの娘らしい漆村(うるしむら)

 七人個々の得意分野は違えど、それぞれが学校生活の中で確かな地位を確立しているのだ。


 それに比べ、八澄田はただの一生徒に過ぎなかった。コミュニケーションも苦手、褒められるようなものも何もない。本当なら、壱岐城達の輪に入れるような人間ではないのだ。事実、彼女ら全員にとって、八澄田は別に友人でも何でもないのだから。


 彼女は、言わばとかげの尻尾(・・・・・・)だった。

 例えば何かがあった時。例えば何かがばれそうになった時。そんな時に全てを押し付け、切り離すための、とかげの尻尾。

 実際のところ、万が一何かあっても学校は自分達を守るだろう。全員、学校にとっては有能で大切な生徒なのだから。

 だが、念のためにと壱岐城は八澄田をグループの仲間として扱っていた。仲間と言っても名ばかりで、言わば典型的な使い走りだが。

 使うだけ使ったら、適当なタイミングで適当に切り捨てるだけである。これまでの尻尾(・・・・・・・)と同じように。


 当の八澄田も、そんな事はとっくに知っている。この学校に通う生徒にとっては常識だ。

 いじめの主犯に仕立てあげられ、転校してしまった同級生。万引き扱いで捕まった後輩。そんな生徒が何人もいる。こいつらに対し、何度消えてしまえと思った事だろう。


 だが、表には決して出さない。

 逆らえば何をされる事か。


 荒唐無稽で下らないとも思うが、この学校は地獄だ。一部の人間が支配する、どこにでもある社会の縮図。負け組は負け組として、勝ち組の糧にならざるを得ない。

 その精神が本人も知らぬ間に磨耗しかけている事に、八澄田自身も気付いてはいなかった。


「にしてもよ、何にもねぇなー」


 先頭を切り病院内を探索していた双木が、つまらなさそうな声を出す。言い出した張本人だが、双木はこういう心霊だとかいったものには滅法強い。早くも飽きたのか、帰りたそうだ。


「じゃあ、ほら……よ!」


 そんな双木に対し、参河は拾ったパイプを割れた窓ガラスに叩き付ける。大きな音が響き渡り、ガラスは粉々に砕け散った。


「もう! びっくりさせないでよ!」

「あはは、悪りー悪りー。でも面白かったろ?」

「うーん、微妙?」

「何それ! あははははは!」


 だがまぁ、期待したような目ぼしいものは特に無かったか。

 一同が同じような事を思い、そろそろ帰ろうかと思い始めた、その時だ。


「ね、ねぇ。ちょっと……」


 陸谷が、震えるような声を上げて前を指差した。


「……あれ、何……?」


 言われるままに視線を向ける。


「何、って……あ……?」


 廊下の向こうに、何かが立っていた。

 ぼろ布のような格好。幽かな呻き声。よく見ると、それはふらふらと倒れそうな足取りで、ゆっくりとこちらに歩み寄って来る。

 人? こんな所に? 現実味の無い光景に、一同は口々に言葉を交わし始める。


「待って待って、アレ誰の仕込み? 超怖いんですけど」

「ちょっと参河やりすぎ!」

「いや俺じゃねえって!」

「え? ま、待ってよ。壱岐城さんじゃないの?」

「当たり前でしょ……って……」

「……うっそ。じゃあアレ、マジで何……?」

「ちょっと! 八澄田、あんた見てきなさいよ!」

「え……きゃっ!?」


 有無を言わせず、伍代がその背中を押す。

 バランスを崩し倒れ込んでしまった八澄田が顔を上げた時、それはすぐ目の前に近付いていた。


「──ぉ──あ──ああぁ──」

「ひっ……ぁ……」


 その瞬間、八澄田の視界が歪む。

 強烈な倦怠感が突如として全身を駆け巡ったのだ。頭が割れんばかりの激痛に、意識が朦朧とする。

 辛うじて見えたのは、自分を覗き込むその表情。ニタニタと笑っているような、それでいて、何処か嬉しそうな。

 だが彼女は、それ以上考える事が出来なかった。高熱に思考が働かなくなったのだ。

 抗う間もなく意識を手放す。

 そして、彼女は二度と目覚めなかった。


「……えっ?」


 今、何が起きた? 困惑する壱岐城達の前で、さらに不可解な出来事が続く。残っていた謎の人影が、すぅ、と足元から消え始めたのである。

 やがて薄気味悪い表情までが完全に消え去った時、彼女達は、今度こそはっきりと見た。


 いつの間に現れたのだろうか。倒れる八澄田を取り囲むように、何人もの人影がぼうと立っている。

 生気はない。それはまるで、プロジェクションマッピングか何かで映し出されているような、そんな実在感の無さを感じさせた。


 しかし、間違いなくそこに何かがいる。

 なぜなら直後、全ての頭がぐるりと回ってこちらを向き──


「きゃあああああああああああっ!?」


 それは、一体誰の悲鳴だっただろう。

 その叫びをきっかけに、気が付くと七人は一目散に駆け出していた。


 ──八人目の事など、誰一人気に掛けず。

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