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番外編 アレクサンドリアの奇跡②


「アレス叔父様、お久しぶりです」


「おお、みんなよく来てくれた。セラフィが快く了承してくれて助かったよ」


まだ了承していないと内心苦笑いしつつ、セラフィムは返事をする。


「唐突なお話で少し面食らっていますが……。儀式とはどのようなものなのでしょうか? みんな見学したいと言っているのですが、見学は出来ますか?」


「ああ、構わんよ。セラフィの神力の強さであれば、すぐに終わってしまうだろうがな」


セラフィムは、人によって儀式の所要時間が違うのかと不思議に思った。


「はあ、そうですか」


「ところで、赤ん坊が増えている気がするが、今度はどこの子なんだ?」


アレス叔父は美優が抱いている赤ん坊に目を留めた。


「ご紹介が遅れましたが、私たちの子どもが産まれたんですよ。名前はセリナ・ミシェール・アクティースと名付けました」


「なにっ!? どういうことだ? まさか、他所の女に産ませた子……」


アレス叔父が驚くのも無理はなかった。

なんせ、月数から言うとまだまだ莉奈のおなかにいた子どもが産まれる筈はなかったのだ。


「違います! 莉奈が産んだ子ですよ。エンジェルが遊び相手がほしかったようで、おなかの子を成長させてしまったんです」


「なんと……。赤子のようにみえても、やはり神の力は偉大なのだな……」


「アレス叔父様、よかったらミシェールを抱っこしてみますか? 可愛いですよ」


呆然とするアレス叔父に美優が抱っこを勧めている。


「えっ!? こ、これは一体どうしたことなのだ!」


「アレス叔父様、どうかなさいましたか?」


何かに驚いているアレス叔父に美優は首を傾げた。


「ミュウが! ミュウが!」


「私の名前はミユです」


「しゃべっている!」


セラフィムと莉奈の子どもがすでに産まれていると知ったことよりも衝撃が大きいようだ。

いままでアホの子だとばかり思っていた美優が、大人のような言葉遣いで話しているのだから驚くのも当然である。


「ははは、アレス様。驚いたでしょう? ある日突然、不自由なく話せるようになっていたんですよ」


「ユージまでッ!?」


美優に輪をかけてアホっぽかった優士が、言葉が流暢になっただけで紳士的に見えてくるから不思議だ。


「エンジェルが話せるようにしてくれたんです。おかげで全員アレクサンドロス語が話せるようになりました」


「なんと……。いやはや度肝を抜かれたが、言葉に不自由がないのはよいことだ。いやしかし、これほど人の印象というものは変わるものなのか……」


いったいアレス叔父の中で優士はどんな評価だったのだろうか。


「アレス叔父様、ユウジはとても仕事の出来る男なんですよ。前職ではいくつもの国を股にかけ、人々の生活をよりよくする支援をしてきましたが、これからはアレクサンドロス王国のために力を尽くしてくれるでしょう」


すでにアクティース公爵家の屋敷の用水路を水道として使えるよう、水車やろ過装置などを手がけ始めている。


「おお、そうか! それは頼もしい」


「それで、アレス叔父様。儀式はどこで行うのでしょうか?」


「ああ、みなで神殿へ参ろう。馬車を用意する」


アレス叔父は結婚したとはいえ、いまもまだ王宮敷地内の離宮に住んでいる。

神殿まで歩いて10分もかからないような距離ではあったが、やんごとなき生活が身についているアレス叔父には歩いて出向く発想がないらしい。


「アレス叔父様、スカーレットが連れて行ってくれますよ」


この人数では、馬車を用意するのも大変そうだと思った海翔が提案した。


「そうか! それでは、神殿の温室へ頼む。あそこなら人目につかないだろう」


「はい。スカーレット、神殿の温室だって。場所わかる?」


海翔の頼みは基本的に断らないスカーレットが、二つ返事で了承する。


「ええ、わかるわよ。じゃ、みんな手を繋いで目をつむって」






「ーー着いたわ」


目を開けると、一同は色とりどりの花が咲き乱れる温室の中にいた。


「ありがとう、スカーレット」


「今日の儀式、きっとみんなも見たがるわね」


「みんなって?」


すでに見学希望者がたくさんいる状態なのに、これ以上増えても大丈夫なのだろうか。

海翔は少し心配になった。


「他の守護精霊達よ。初代国王の生まれ変わりが儀式を行うんですもの、もう一度昔のような儀式になるかもしれないわ」


見学者が精霊達なら話は別だ。


「へえー、じゃあ他のみんなも誘ってみるの?」


「私からは誘わないわ。面倒ですもの」


だったらなんで他の精霊の話を持ち出したのか。


「そ、そうなんだ……」


「ウィルとソールなら誰かが呼べば来るでしょ。呼べばいいんじゃない? ーーハルト、呼びなさい」


「俺!?」


自分から誘うのは抵抗があるものの、どうやらウィルとソールにも来てほしいらしい。

女王様による突然のご指名に春翔は目を白黒させた。


「少しくらい役に立ちなさい」


「ひでえ……! 俺だって役に立ってるし! ソール! ウィル!」


ブツブツと文句をいいつつ、春翔は守護精霊たちの名前を呼んだ。


「おう、ハルト! なんだ、今日は王都に来てるのか」


「アレスまで揃って、何かあったの?」


ソールとウィルは春翔の呼びかけにすぐに応えてくれた。


「これからとーちゃんが儀式をするんだって。ソールとウィルも見たいんじゃないかってスカーレットが言うからさ。……自分で呼べばいいのに」


「儀式! セラフィムがやるのか!」


「それはぜひとも立ち会いたいね。呼んでくれてありがとう」


ソールとウィルは素直に喜びを表現している。

スカーレットの態度には納得いかないものがあったが、二人が喜んでいるならまあいいかと思い直す春翔だった。





そして一行は、ぞろぞろと神殿内を歩いてパンテレイモンの部屋へと向かった。

アレス叔父がコンコンとノックをすると、すぐに中から扉が開かれる。


「これはこれは皆さまお揃いで。どうされました?」


「ああ、実は例の儀式をセラフィに引き継ごうと思って訪ねて来たのだ。そろそろ補充の頃合だろう?」


「もう少し先まで持ちそうですが、今のうちに補充されても全く問題はございません。では、早速向かいましょう。アレス様、セラフィム様、こちらへ」


どうやら儀式を行う場所までまた移動が必要なようだ。


「待て待て。みんな儀式を見学したいそうなんだ。見られたところで何かが起こるわけでもないし、真似できるわけでもない。みな一緒でも問題なかろう?」


「ええ、それはまあ、そうですが……。ただ、王族と聖職者以外の者が立ち会うことなど過去に例がございません。本当によろしいのでしょうか?」


「私の家族はいずれ王族にならざるを得ませんし、ユウジとミユは家族同然ですから。なんとかお願いできませんか?」


ここまで来て断られてはたまらないとばかりにセラフィムも口添えをする。


「アレス様やセラフィム様がそうおっしゃるのでしたら……。承知いたしました。それでは、皆さまこちらへどうぞ」


パンテレイモンは手で壁を指し示した。


「……こちらってどちら?」

「壁しかないよな」


ささやき合う春翔と美優をスルーして、パンテレイモンは壁に手を当てる。

そして、壁に施された金色の装飾品を右に捻り、奥へとグッと押し込んだ。


ゴゴゴゴゴー。


隠し扉になっていた壁の一部が音を立てて開いた。


「うわあ! 忍者屋敷みたーい!」

「すげえ! めっちゃ何かが起こりそうな雰囲気!」






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