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第48話 幸せな二人



ソールが爆弾を落とした日、セラフィムはアレス叔父たちに王座に就くことを強く、それはそれは強く勧められ続けた。


遂には堪忍袋の緒が切れて、襲撃事件の犯人が捕まるまで王位継承の話は一切禁止だと宣言するに至るほどだった。


『とーちゃん大変そうだなあ。俺、ねだりたいものがあるんだけど、どう考えてもこのタイミングじゃないよな。』


セラフィムが王位に就けば、自分もまた王位に就かざるを得なくなると言うのに、春翔はまるで他人事のような態度である。


『春ちゃん、何をおねだりしたいの?』


『インディアナだよ。』


『インディアナ?』


美優は聞きなれない名前に首をコテンと傾げた。


『俺の馬の名前だよ。インディアナって名付けたんだ。』


『春ちゃんの馬って……。あれ、貸し馬じゃなかったっけ? 返さないといけないのに名前つけたの?』


『だから返さなくていいように買ってくれってねだりたかったんだよ。』


王都とエリミアの街を往復して、春翔はすっかり黒馬に情が移ってしまっていた。

セラフィムが借りた栗毛の馬とも仲が良いので、インディアナが寂しくないようにあわよくばその馬も一緒に買ってほしいと思っているのだ。


『ああ、なるほどね。そっかー、確かに今はタイミング悪いよね。莉奈ママがこっちに来てから言ってみたら? その時は、きっと何でも買ってくれる機嫌になってる筈だよ。』


『そうだな。1ヵ月分の料金を前払いしてるから、まだあとちょっと余裕あるしな。』


『うん。ところでさ、そろそろブルースさんたちエリミアの街に戻って来てるかもしれないよね。ちょっとウィンタースティーン商会に顔出してみない?』


『よし、行ってみるか! 久しぶりに俺の自転車の出番だぜ!』




春翔と美優は手早く出かける支度を整えると、出がけにセラフィムに声をかけた。


『とーちゃん、ちょっと美優とウィンタースティーン商会に行ってくるよ。ブルースさん達が帰って来てるかもしれないから、アリシアさんを見かけたらウチに遊びに来てって招待してみる。』


『そうか、頼むよ。こっちは莉奈たちを呼び寄せる日以外は都合の悪い日はないから、アリシアさんの仕事の都合に合わせてくれ。』


『はーい、了解ー。じゃあ行ってきまーす!』


『行ってきまーす!』


『気を付けて行ってこい。』


セラフィムは、元気よく出かける子どもたちの後ろ姿を見送ると扉を閉めた。




正面玄関の重い扉が開閉する音に気付いたアレス叔父が居間の窓から外の様子を見ると、自転車を二人乗りして出かけていく春翔と美優の姿が見えた。


「セラフィ、ハルトが乗っているあの乗り物は一体何なのだ? なぜ車輪だけで動くのか不思議だな。」


「あれは、私たちが暮らしていた国では一般的な乗り物でした。ハルトの母方の祖父が入学祝いに買ってくれたものです。」


「ほう。私は初めて見たが、あれは一般的な乗り物なのか。そういえばハルトはまだ学園に通う年齢だな。この国の学園へ入学させなくてよいのか?」


「はい。私もそれは考えていましたが、私の妻と下の息子が明後日この国に到着しますので、妻と相談してからと思っております。」


まもなくセラフィムの妻子に会えると聞いたアレス叔父は顔を輝かせた。


「おお! 明後日セラフィの妻子に会えるのだな。それは楽しみだ。」


「ええ、私も5年ぶりの再会ですので、待ちきれない思いです。それで、私の両親の墓参りなのですが、出来れば妻と子どもたちを連れて行きたいのです。もう少しお待ちいただけますでしょうか?」


「もちろんだ! 姉夫婦もセラフィの妻と子に会えたらきっと喜ぶぞ。」


「はい。」


セラフィムは微笑んで頷いた。





春翔は美優を自転車の後ろに乗せ、久しぶりの滑らかな走りを楽しんでいた。

馬もいいが、やはり慣れた自転車は使い勝手がいい。

春翔は、石で舗装された道を快調に飛ばしていった。


『はあ~。やっぱりコレだよね~。馬は揺れがキツイよ。』


『俺は馬も好きだけどな。でも自転車もどっちも好き。』


歩くと30分ほどの道のりも、自転車を飛ばせば10分もかからず目当てのウィンタースティーン商会に到着する。

店先に着くと、春翔はキッとブレーキをかけ、自転車を店の端の邪魔にならない場所に止めた。


「「こんにちは!」」


春翔と美優は店に入ると元気よく声をかけた。


「おお、ハルトとミュウじゃないか。無事にエリミアの街に帰れて良かった。元気だったかい?」


ちょうど店に出ていたブルースは、笑顔で春翔と美優を2階でお茶を飲んでいくよう招いた。


「ありがとうございます。あの、アリシアさんはいますか?」


「アリシアなら今日は休みだから自分の部屋にいるんじゃないかな? 私達は昨日王都から戻ったばかりだからね、今日と明日の2日間は休みにしたんだよ。」


「ミユがよんでくる!」


美優はそう言って屋根裏にあるアリシアの部屋へと上がって行った。


「アリシアさーん! おはなししたい、いいですか?」


美優はアリシアの部屋の扉をコンコンとノックしながら声をかけた。

ガチャリと扉が開くと、そこにはアリシアだけでなくレオンの姿もあった。


「ミュウ、久しぶりね。」


「おう、ミュウ! 一人で来たのか?」


レオンは美優の頭をぐりぐりと撫でながら聞いた。


「しょくどうにハルチャンがいる! アリシアさんとレオンさんもきて!」


美優は二人の手を取って階段を下りて行こうとしたが、レオンに止められた。


「ミュウ、三人手を繋いだまま階段は危ないだろ? お前先に降りろ。」


「はあい。」


先に階段を下りて2階に着いた美優がくるりと振り向くと、レオンがアリシアの手を取って階段を下りて来るのが見えた。


「レオンさん……、まえよりもアリシアさんとなかよし?」


「えっ、いやあ、わかるか? まいったなあ。」


レオンは照れくさそうにガシガシと頭を掻いている。


「実はアリシアに結婚を申し込んだんだよ。もうすぐここを出て一緒に住むんだ。」


「ええーっ! おめでとうございます! よかった!」


美優は驚きながらも、パチパチと手を叩いて二人を祝福した。


「ありがとう、ミュウ。私、本当に幸せよ。」

「俺も幸せだ。」


「レオン……。」

「アリシア……。」


顔を寄せ合い今にもキスし始めそうなレオンとアリシアは、完全に二人の世界に入ってしまった。

そしてその様子は、食堂にいた春翔とブルースにも丸見えであった。


「ごほん! レオン、アリシア、こっちに来て座ったらどうかな?」


ブルースの声にハッとして現実に引き戻された二人は、申し訳程度にほんの10センチほど距離を取った。


「はは、ブルースさん、良い朝ですね?」


「レオン……、もう午後だよ……。まあいいから座って。ハルトとミュウがアリシアに話があるそうだよ。」


「おう! なんだハルトいたのかよ!」


「レオンさん…、ハルトはさっきからずっといました。けっこんおめでとうございます。」


アリシアを見つめてはやに下がるレオンに春翔も祝福の言葉をかけた。


「いやあ、照れるぜ。」


「ミュウにはお礼を言わないといけないわね。ミュウのおかげで私たちの借金が早く終わることになったのよ。」


ここでなぜか美優の名が出された。


「え? どういうことですか?」


「ミュウが考えた保存食やソコラタのお菓子がとても好評で、すごく売れ行きがいいのよ。王都の取引先でも大絶賛だったの。それで、結婚祝いも兼ねてブルースさんが私たちの借金を3ヵ月分免除してくれることになって。ねえ、レオン?」


「そうだな。ミュウとブルースさんには感謝している。おかげでアリシアが25歳のうちに結婚できるよ。」


レオンとアリシアはお互いを見つめて微笑みあった。


「はは。この国の女性の適齢期は18歳から25歳だからね。アリシアを適齢期のうちに結婚させてやりたいと思ったんだよ。借金があったとしても、別にこちらは結婚しても良かったのに、レオンがどうしても借金を清算してから結婚したいと言ってね。」


「子どもができたら護衛の仕事をさせておくわけにいかねえしよ。結婚したら家で子どもの面倒見ててほしいからな。」


ほんのり頬を染めたアリシアとレオンは、またもや周りを置き去りにして微笑みあっている。


「はあ、そうなんですね。」


「それで私に用事っていったい何かしら?」


春翔は、二人の熱々ぶりに当てられて本来の目的を忘れかけていた。



「あ、はい。アリシアさんの精霊のことで、おとうさまが話をききたいといっています。アリシアさん、うちにあそびにきてください。」






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