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第47話 精霊にもモテモテです



「それにしても、ついさっき届いた苗があっという間に収穫出来るようになるとは、植物の精霊とはすごいものだな。」


「ふふっ、そんなに褒められたら恥ずかしいわ。あなたの神力はとても強いのね。あなたなら契約したいという植物の精霊がたくさんいるわよ。」


緑色の髪をした植物の精霊ドリュアスは、褒められて嬉しそうにふわふわとセラフィムの周りを漂っている。

精霊までたぶらかすとは、セラフィムのモテっぷりはアラフォーになっても健在のようだ。


「それはいいわね。ドリュアス、誰か紹介できるかしら?」


「ちょ、ちょっと待ってください! 私にはウィルがいますので!」


「あら。1体の精霊としか契約できないということはないわ。精霊は神力が強い人が好きなのよ。」


ぐいぐい押してくるエウフェミアとドリュアスにたじろぎながらも、何とか穏便に断れないかと必死に言葉を探した。


「いやしかし、幼い頃から私を守ってくれていたウィルをないがしろにするような真似は……。」


「おうおう、セラフィム! さっきからウィル、ウィルって俺はどうでもいいのかよ?」


そんなセリフと共にパッと現れたのは、不機嫌そうな顔をしたソールだ。

ソールの隣にはやさしく微笑むウィルもいる。


「ソール! ウィル!」


「お前、ひでえな。俺だってずーーーっとセラフィムを守ってたのによ。」


「い、いや。そういうわけじゃない。ただ、ソールはハルトの守護精霊だと思っていただけだよ。ソールはハルト、フェニックスはカイト、ウィルは俺の守護精霊なんじゃないのか?」


セラフィムは、二股を責められる浮気男さながらにあたふたしながら弁解した。


「まあ、ウィルはアクティース公爵家の守護精霊だからな。セラフィムはウィルに権利があるのは認めざるを得ない。フェニックスはカイトにぞっこんだし、これもどうしようもないな。」


「やっぱりソールはハルトの守護精霊で当たってるんじゃないか。」


「……俺はもともと王家の守護精霊だけどな!」


ソールは腕を組んでプイッとそっぽを向いた。

男らしい見た目に反して、なかなか子どもっぽい部分も持ち合わせている精霊のようである。


「ソールは、ハルトよりも、おとうさまのほうがよかった…?」


しょんぼりした春翔の声に、セラフィムとソールはハッとした。

捨てられた子犬のような潤んだ目でソールを見つめている。


「いやいやいや、ちょっとセラフィムをからかっただけだよ。そんな目で見るなって。俺にはお前らはみんな大事なんだ。


その証拠に、セラフィムがアレクサンドロスに戻ってからも俺は日本に残ってお前を守ってただろ? 雷に打たれそうになった時、お前たちをこっちに連れてきたのは俺なんだぞ。」


「えっ、そうなんですか?」


「そうだ。だが、俺だけの力ではないぞ。ぎりぎりでお前の神力が発動したから、こっちに連れて来られたんだ。」


春翔は、自分の神力も一役買っていたと聞いて、ぱあっと表情を明るくした。

春翔の頭上にピンッと立つ三角の耳が見える気がする。




「俺は? ウィルが連れてきてくれたのか?」


「そうだよ。なかなか神力を発動させないし、いくら呼びかけても答えないからあのまま死んでしまうんじゃないかとハラハラしたよ。神に与えられた転移の力も、神力なしでは使えないからね。」


「転移は神に与えられた力なのか? 公爵家の指輪にはどんな役割があるんだ?」


セラフィムの問いに、ウィルは知る限りのことを語ってくれた。

守護精霊に選ばれた7体は、精霊としてそれぞれ強い力を持っていたが、それに加えて神から結界と転移の力を与えられた。


神が結婚した人間の妻と息子を守るためである。

神に与えられた力である結界と転移を使用するときは、神力の発動が絶対条件であり、精霊の力だけでは発動できないという。


公爵家の指輪は、神が息子に与えた宝玉の一部から作られており、もともとは宝玉を連ねた腕輪であった。

人間である妻や、まだ赤ん坊の息子では自分で神力を発動できないため、神の神力を宝玉内に貯めておき、結界や転移の際に一粒ずつ使用するため与えられたものだ。


宝玉は、神力を使いきれば空になるが、また神力を注ぎ込むことで何回でも使える優れものである。

長い時を経るうちに、腕輪の宝玉は一つ、また一つと下賜され、装飾品などへ形を変えて行くことになった。


「なるほど、指輪自体に力があったわけじゃなくて、指輪は神力を保管する入れ物だったのか。だから、自分で神力を発動できない俺のために、両親が神力を注ぎ込んで持たせてくれた……。」


「そう、その指輪があれば神力を持たないものでも転移させることが出来る。」


「てんいとけっかいがあって、なぜ人間のおくさんはころされましたか?」


春翔がそう言うと、ウィルは過去の出来事を悔やむような悲しげな顔で、神は神で出来る限りのことをしようとしていたのだと言った。


「悲しいことに、一足遅かったんだよ。あの時は、ちょうど神の力を守護精霊に選ばれた精霊たちに分け与えていたところだったんだ。女神の力の発動に気付いて駆けつけた時には、もう人間の妻は殺されてしまった後だった。


息子はぎりぎりで救えたけれど、神は結界の力を僕たちに分け与えたり、地形を変えたりした後だったから、力が弱まっていてね。それで女神の攻撃で結界が割れてしまったんだよ。」


「ちけいをかえた?」


「この大陸は、以前は竜やら魔物やらがそこかしこにいて、人間にとっては危険な土地だったんだ。


それを神が、竜を一箇所に纏めて山で囲いこんだり、ただの森を魔の森に変えてそこへ魔物を移動させたり、他国と争いが起こらないよう山や大河で分断したり、人間の妻と息子ができる限り安全に暮らせるように変えたんだ。」


「そんなことまで……。かみさまも、おくさんと子どもをまもりたかった……。」


ただのいい加減で多情で傍迷惑な男だと思っていた。

その神が、妻と子を守るために自分の力を守護精霊たちに分け与え、この土地を安全に作り変えたと聞いて、春翔は神を見る目が変わった。


あんなんでも少しはいいところがあったんだなと。


自己申告ならば信じないところだったが、守護精霊が言うのならば本当のことなのだろう。




「ところで、ずっと気になっていたんだが、ソールとフェニックスはなぜあの夜アクティース公爵家にいたんだ? ソールは王家の守護精霊で、フェニックスはフォティア公爵家の守護精霊なんだろう?」


セラフィムが長年の疑問について尋ねると、ソールはあっさり答えた。


「ああ、それはお前に会いに行っていたに決まってるだろ。みんなお前に会いたがったが、全員で押しかけるのも何かと支障があるからな。訪問は一日2体までって俺たちの間で取り決めがあったんだよ。」


「はっ? 俺に会いに来ていた? なぜ俺に会いたいんだ?」


「ははっ、何言ってるんだよ。お前は俺たちの最初の主である初代国王の生まれ変わりじゃないか。お前が生まれた瞬間に、俺たち守護精霊にはそのことがすぐに分かったよ。それからは入れ代わり立ち代り、毎日誰かがお前に会いに行っていたんだぞ。」



「「「ええっ!!!」」」



精霊達と談笑する春翔とセラフィムの邪魔をしないようにと気を使い、アレス叔父とパンテレイモンとエウフェミアは大人しく口を噤んでいた。


だが、ソールの爆弾発言には驚きを隠せず、つい叫び声をあげてしまった。

美優には精霊の声が聞こえないため、急に声を揃えて叫んだアレス叔父達に驚いて飛び上がった。


『ひゃっ、何事っ?』


『ソールが、とーちゃんが初代国王の生まれ変わりって言ったから驚いてる。秘密だったのかな?』


『ああー、知らなかったんなら、それは驚くのも無理ないよね。』


『そーだよなー、初めて聞いたら驚くよなあ。』


春翔と美優はうんうんと頷き合った。



「なんと! セラフィが初代国王の生まれ変わり! 初代国王の生まれ変わりをこの目で見ることが出来るとは、何たる僥倖!」


「はい! はい! 老い先短いこの身の栄誉です!」


「道理で只ならぬ神力を感じる筈ですわ! 本当に光栄なことです!」


アレス叔父達は、感動のあまり目を涙を浮かべてセラフィムを凝視している。


「----ソール……。」


「うん? なんだよ、怖い顔して。機嫌悪いのか?」


その場の空気を読まないソールは、自分の発言に問題があったとは微塵も思わずのほほんとしたままだ。


「その話は、内密にして欲しかったな!」


初代国王の生まれ変わりとばれてしまったからには、次代の国王になるようにと一層うるさく言われるに決まっている。

国王になりたくないセラフィムとしては、出来れば周知してほしくないことであった。


「そうだったのか? だったら先に言っとけよ。ダメだぞ、セラフィム。」


セラフィムが怒っていることは気にも留めず、逆にダメ出しをしてくるソールに、セラフィムの肩はガクリと落ちた。


人間と精霊とでは感覚が違うのだと諦めるしかないようだ。

それに、謝ってもらったところで、いったん口に出した言葉をなかったことにはできないのだ。



「はあ。ソールとウィルが帰った後が怖いよ……。」







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