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第46話 オリュザ作り



ぴゅうー。

遠くの空から微かに何かの鳴き声が聞こえて来た。

庭に出ていた春翔たちが顔をあげると、北の方向から翼竜が飛んでくるのが視界に入る。


「おお、きたな。おーい、ピュウ! 私はここだ!」


アレス叔父は嬉しそうに大きく手を振り、自分の翼竜に合図を送った。

合図に気が付いた真っ白い小さな翼竜は、どんどんスピードを上げてこちらに近づいて来た。

そして、春翔たちの頭上を旋回すると、アレス叔父の差し出した腕にちょこんと着地した。


「よしよし。ピュウ、疲れただろう? お使いのご褒美においしいものをたくさんあげよう。セラフィ、私のピュウは甘い果物が好きなのだ。何か用意してくれ。」


「はい。ハルト、厨房に行って何か持ってきてくれないか。」


「わかりました。」


春翔は頷くと、厨房へ向かって歩き出した。

すぐ後ろからぱたぱたと足音がして振り向くと、美優が小走りで着いてきていた。


『春ちゃん、果物がどこに仕舞ってあるかわかるの? 私も一緒に行くよ。』

『そう言われれば、どこにあるかわかんなかった。』


『ついでにみんなの分のお茶とお菓子も用意するね。』

『うん。』


二人が連れだって厨房に行くと、ちょうどケイラと手伝いの娘がお茶の支度をしているところだった。


「あら、どうかなさいましたか?」


ケイラは春翔と美優の姿を見つけて尋ねた。


「はい。アレスおじさまのよくりゅうがくだものをたべます。それをとりにきました。」

「まあ。どんなものがお好きかわかりますか?」


「あまいくだものがすきと言っていました。」

「かしこまりました。すぐにお茶と一緒にお持ちいたします。」


ケイラが運ぶと言うので春翔と美優は手ぶらで庭に戻りながら、アレス叔父の翼竜について感想を言い合った。


『こっちの人のネーミングセンスってイマイチだな? ギルマスもそうだったけど、鳴き声がぴいだからピピ、ぴゅうだとピュウって、そのままじゃん。』


『ギルマスの方がややマシだよね。アレス叔父さんは鳴き声そのままだもん。でもあの真っ白い竜かわいいね!』


『確かにあれはかわいいな。』


春翔と美優が庭に戻ると、エウフェミアが小さな翼竜に取り付けられたカバンの中から、苗を取り出しているところだった。

取り出された苗は驚くほど少なく、手のひらが余るほどの量しかない。


「これはどれくらい食べられますか?」


あまりの少なさに心配になった春翔は、収穫できる量をエウフェミアに尋ねた。


「ふふっ、ハルト。心配しないで。この苗を増やしてから植えるから、たくさんとれるわよ。ただ、植える場所が狭いのが問題ね。」


エウフェミアは庭の片隅に作った田んぼに目をやった。

昨日一日かけて作った田んぼは、わずか5m四方の大きさしかない。

だが、貴族の屋敷としての景観が損なわれると渋るマルクを説得して、何とか庭の端に確保した貴重な田んぼだった。


「お待たせいたしました。果物をお持ちいたしました。」


声をかけられてそちらを向くと、ケイラと手伝いの娘がお茶の用意と敷物を持って傍に立っていた。


「こちらでお召し上がりになりますか?それとも東屋でお召し上がりになりますか?」


「そうだな、敷物を持ってきているならここでいただこうか。」


「かしこまりました。」


手伝いの娘がさっと敷物を広げるなり、白い翼竜はパタパタと飛んで行って敷物の真ん中に鎮座した。


「おお、ピュウの果物が届いたな。よしよし、ピュウはどれが食べたいのだ?」

「ぴゅう!」


白い翼竜は、目の前に置かれた果物籠に鼻を寄せてくんくんと匂いをかぐと、その中の一つを鼻先で押した。


『あ、あれオレンジ色だけど桃みたいな味のやつだ。私もあれ好きー。』

『俺も好き。この国は果物の種類が多いし、甘みが強くてうまいよな。』


アレス叔父も敷物の上に座り、いそいそと翼竜を膝に乗せると、果物とナイフを手にとった。


『ん? アレス叔父さん、まさか果物の皮を剥いてあげるつもり??』

『ほんとだ、過保護だなー。竜は普通に皮付きでいいだろ。』


アレス叔父は、ぴゅうぴゅうと鳴いて催促する翼竜にやさしく微笑むと、果物にナイフを入れて種に沿ってぐるっと一回りさせた。


「ピュウ、もうちょっと待ってくれ。この果物は種が大きいからな。喉に詰まらせるといけない。ほら、取れたぞ。」


「ぴゅう!」


春翔と美優は、翼竜のために果物の種を取り除き、手ずからその口元へ果物を運ぶほどのアレス叔父の溺愛ぶりに軽く引いた。

どう考えても、竜なら種くらい噛み砕けるに決まっている。


「次はどれがいいかな? これがいいか。おお、よしよし。」

「ぴゅう!」


いつまでもこのやり取りを見守っているのも馬鹿らしくなり、春翔と美優は翼竜を全力で愛でるアレス叔父のことは放置することに決めた。


「エウフェミアさん、はやくおちゃをのんで、なえをうえる!」


「ふふっ、待ちきれないのね。じゃあ、とりあえず苗を増やしましょうか。ドリュアス。」


「ーーなあに?」


エウフェミアが呼びかけると、緑色の髪の精霊が空中にパッと現れた。


「オリュザの苗をあの田んぼに植えようと思ってるの。これ、増やして貰えるかしら?」


「いいわよ。ついでに植えといてあげるわ。」


美優には聞こえなかったが、ドリュアスがそう返事をすると、見る見るうちに苗が分裂して増えていく。

そして、増えた苗は風もないのにわさわさと揺れたかと思うと、3~4本ずつ小さな束に分かれてぱっと田んぼに散っていった。


『うわっ! びっくりした!』

『うおーーーーー! すげえ!』


「あら、驚かせちゃった? 私の精霊が苗を植えてくれたのよ。ありがとう、ドリュアス。助かったわ。」


何の苦労もせず、早くも田植えが完了してしまった。

歓声を上げる子どもたちを、大人たちはお茶を飲みながら優しいまなざしで見守っている。


「ドリュアス、子ども達がオリュザを早く食べたいんですって。秋まで待てないからすぐに収穫できるようにしてあげてくれる?」


「いいわよ。でも珍しいわね。エルフはこれを良く食べるけれど、人間は食べないのかと思ってたわ。」


「精霊の助けなしで育てるのは大変だからじゃないかしら。水もたくさん必要だしね。」


エウフェミアと精霊がおしゃべりする間にも、すくすくとオリュザは育ち、ほんの数分で黄金色に色づいて収穫できる状態になった。


「ハルト、ミュウ。精霊は収穫までは出来ないから、この後はあなた達の出番よ。」


「はいっ!」

「エウフェミアさん、ドリュアスさん、ありがとうございます!」


春翔と美優は喜び勇んでオリュザの間に分け入り、ナイフで根元を断ち切って行った。


「ハルト、ミュウ、刈り終わったら10日ほど乾燥させないといけないから、干しやすいように一掴みずつ束ねていってね。」


「たばねる…。ひもで?」


「フフッ、その手に持っているオリュザから一本取って、茎の部分を根元に巻くと束ねられるわよ。」

「おお! できました!」


小さな田んぼからオリュザを刈り終えるまでにさほど時間はかからず、1時間も経たずに洗濯紐に収穫したオリュザを吊るし終えた。


その間、セラフィムとアレス叔父、そしてパンテレイモンは翼竜を囲んで優雅にお茶を飲んでいただけであった。


『とーちゃん! 見て見て! 収穫終わったよ!』


『おー、偉いぞ春翔、美優! お疲れさん。』


春翔に呼ばれたセラフィムは、やっとお茶の席から腰を上げてオリュザの様子を見に来た。

そして春翔たちにねぎらいの言葉をかけると、等間隔に綺麗に吊るされたオリュザを眺めた。

オリュザはまだ殻に覆われた状態だったが、日本の米のように短い粒だと思われた。


『このエルフ米は、いつ食べられるんだ?』

『エウフェミアさんが、10日くらい干すって言ってたよ。』

『そうか。楽しみだな。』


『『うん!』』


春翔も美優もセラフィムも、満足げにオリュザを眺めながら期待に顔を輝かせた。






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