最終話〜向こうの世界で
安全性も何もない空の旅。
俺は今教会の屋根を突き破りグリムを置いて大空へと繰り出している。
「どうだい?乗り心地は」
「最悪」
目まぐるしく変わっていく景色。
それは初めて王都へ行った時に乗ったワイバーン便のスピードを遥かに超えていた。
しかし、何故だか分からないが風、空気の薄さを感じることはできない。
やはり魔法なのだろう。
「おい、今からどこに行くんだ?」
「言ったじゃないか。森だよ。僕の住むね」
そう言い、さらにスピードを増す。
普通なら慌てふためくだろう。
いきなり龍に変化し、屋根を突き破って空を飛んでいるのだ。
当然恐怖でいっぱいになるだろう。
だが、俺の心はやけに落ち着いていた。
このロキと名乗るやつから出ている神的なオーラのおかげなのだろう。
これのおかげでこいつに警戒心は全く湧かない。
昔からよく知っている友人のようだ。
「お前は一体何者だ?」
「随分下手な台詞だね。教えてあげようっていってもさっきこれも言ったんだよね」
「……まぁ良い。で、俺に何の用で?」
口に出した瞬間ブワッと風が吹き抜ける。
それにより草は舞、水面が揺らぐ。
そのドラゴンのため息だった。
「君はもう帰るべきなだ。このぼくの世界からね」
「帰る?どこに?」
「元にいた世界だよ。君が死んだと思っているね」
死んだと思っている?
いや、俺はあの時確かにダンプに轢かれて死んだはずだ。
俺がこの世界にいるのが何よりの証拠だ。
「君は瞬時にこの世界を創り上げ魂をそこへ避難させた。現実から目を背けるためにね。
そして監視役として創造されたのがこの僕ってわけ」
「俺が?創造しただって?神じゃあるまいしそんな事出来るわけ……」
「あるよ。ここは君の頭の中の世界。簡単に言うとね」
頭の中の世界……
俺が創った現実逃避のための避難所か。
じゃあまだ俺は向こうの世界で生きている?
当然ただじゃ済んでいないだろうが辛うじて生きているのは確かだ。
「この世界に来た他の死者はこの世界で死ぬ事により天に召された。君の力は強大で色々巻き込んでしまったんだよ」
「イレギュラーか。俺が来る事は分かっていたが他の奴らが来るのは想定外だったのか」
「そうだよ」
そうか、俺が今まで関わってきた全てがNPC
俺の設定に忠実に従った者たちだったのか。
「そして君も帰る時がきた。湖をご覧」
その短い腕で目の前の大きな湖を指差すロキ。
その湖は先程にも増して淡く輝いていた。
次第に輝きを増す湖はやがて金色に染まる。
「な、何だこれは……」
「時間がない。この輝きが無くなり黒くなってしまうと君は死ぬ。この世界も消える」
「本当か?」
「ああ。でも君がこの中に入りあちらの世界へ帰るとこの世界も君の命も無くならない。
まぁ、二度とこの世界を自覚する事は無くなるだろうけどね」
足がすくむ。
体が本能が向こうの世界に帰る事を拒んでいるかのようだ。
一体向こうの世界では何が俺に残されているのか。
もう何も無いんじゃないかという不安が頭の大半を占領していた。
「避けては通れない。この世界も間もなく崩壊する」
「分かってるよ!分かってるけど……もし体が不自由だったら?五体満足でなかったら?親に見捨てられていたら?皆に歓迎されなかったら?」
「君はそんなくだらない事を気にするのかい?僕に言わせてみれば生きてるだけマシって思うよ」
確かにロキの言う通りだと思う。
世の中には手に入らない者の方が多い。
全てを望むのは贅沢というものだ。
だけど充実していた日常から突然それらが奪われるとしたら?
持っていない事よりも失う方が恐ろしいのは当然の事だろう。
そんな考えを巡らせるうちに湖はどんどん輝きを失っていく。
「は〜、覚悟を決めろレン。いつかは向き合わなくてはいけない現実だ。それにやられっぱなしは性に合わないだろ?」
「……ははは下らない。こんな状況でよくそんな事を言えるな。はは、でもその通りだよ」
確かに怖い。
自分は価値のない人間になっているのではと思ってしまう。
しかし、思い出したのはそれをも凌ぐ圧倒的憎悪。
「じゃ、いっちょ復習タイムと行きますか!」
「それでこそ君だよ」
俺はゆっくり湖に使っていく。
水の中なのにまるで濡れていない。
感覚もない。
俺は巨大なドラゴンに見守られながら最後に一言このの世界に言い残す。
「本当にいい人生だった」
目覚めたのはある病院のベッドの上だった。
目の前には見慣れない天井。
真横には一定のリズムで音を刻む最新医療器具。
全身に力が入らなく頭が割れそうなくらいの頭痛に襲われる。
「帰って……来たのか……」
周りには誰もいない。
外は真っ暗で時々車が道路を通っていくのが見えた。
〜翌日〜
俺は約一週間寝ていたらしい。
最初に俺の意識が戻った事に気付いたのは俺の様子を見に来たナースだった。
ナースは非常に驚き慌てて医師を呼んでくる。
その医師から俺の家族に連絡が行き、金井家が勢ぞろいした。
いろいろ言葉をかけられたがどうでもいい。
俺がここに戻って来た理由はただ一つ復讐のためだ。
しかし、俺を殺しかけた女の子はすぐに自殺してしまったらしい。
なぜそのことが分かったかというとその彼女の部屋から遺書が見つかったためだ。
家族から聞いた話。
その遺書には俺への謝罪と家族への謝罪。そしてなぜこの様な事態になったのかという経緯が書かれていた。
彼女は元々いじめられっ子だったらしい。
そしてある時俺をあまりよく思っていなかった連中に呼び出され俺を殺してこいと言われたらしい。
条件は二度とお前に関わらないという事だった。
そして次の日に決行。
見事重傷を負わせる事は出来たものの死にはしなかった。
そのため彼女は自責の念にかられ自殺し、この遺書を残したとの事だった。
「ーーーッ!」
「大丈夫よ!母さんがついて……」
「黙れ!黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!」
この怒りをどこへぶつけよう。
この恨みをどこで晴らそう。
この憎しみを誰に訴えよう。
殺したい殺したい殺したい殺したい!
そんな事を思いながら時は流れ俺が目覚めて一年になった。
怒りは全てリハビリと筋力トレーニングにぶつけた。
それにより前より明らかにパワーアップした。
そして俺が行っていたのはこれだけじゃない。
命令した不良どもの溜まり場と全員の住所。
やっと決行だ。
俺が今きているのは誰も近づかなくなった廃アパート。
まさに不良たちの溜まり場にはもってこいの建造物だった。
相手は6人女が2人男が4人だった。
「入るか!」
ウキウキしながらアパートの中に入っていく。
片手には途中で拾った鉄パイプ。
階段をゆっくり登っていきある程度まで登ると少し広い空間からバカみたいな笑い声が聞こえてきた。
俺はすかさず姿を現す。
「やぁ!皆さん!俺の事覚えてる?」
「あ?誰だ?」
「ちょっとぉ何勝手に入ってきてんのよ」
「ねえねえ君さまさかタダで帰れるとでも……ってお前は……金井蓮!」
近づいてくる不良は俺の顔を見るなり大きな声で俺の名前を呼ぶ。
当たり前だろう。
すっかり殺った気でいた相手だ。
俺は脚を払い仰向けで転んだ不良1の腹部に鉄パイプを叩き込む。
「ウボォッ!」
「くそッ!穂花め!しくじりやがって!」
……穂花?はは、まさかな。
あの森にいた奴なわけない。
「おら、かかってこいよ?」
「舐めやがって!」
そう言って取り出したのは金属バット。
それを適当にブンブン振り回している。
全くあの世界の方が何千倍も恐ろしかったぜ。
「俺を殺したいなら銃か何か持ってくるんだな」
「グハァッ!」
不良2にも顔面に鉄パイプを叩き込む。
前歯はへし折れボロボロ泣きながらその場へうずくまる。
不良3はナイフを取り出し不良4はボクシングの構えをする。
はぁ……現実はこんなものか。
「ウバァッ!」
「いってぇよぉ!」
不良3は喉を鉄パイプでつき、不良4は足の骨を粉々にしてやった。
女たちはその場にへたり込んで声も出ない様子だった。
俺はそいつらに笑いかけながら戦闘不能の相手をさらにいたぶっていく。
「あはははははははは」
ボロ雑巾なんてものじゃない。
床一面血まみれで骨のある箇所は全てありえない方向に曲がりあげている。
次は女だ。
「た、助けて……ください」
「お、お願いです……」
「駄目」
顔面を横から鉄パイプをフルスイング。
その女は歯が何本か砕けたのか白い物体が口の中から吹き飛んだ。
そして横でうずくまっている女の腕を一刀両断……するはずだったがやはり鉄パイプでは切れなく骨だけが砕けた。
「あ、ぁあぁああぁぁあ!」
「ほら、叫べ叫べ!」
俺はこれからもう数分だけ全員をいたぶった。
「これだけやれば全部は元に戻らないだろう」
全員うずくまってうなっている。
それを見て俺の心はこれまでにないくらい穏やかで満たされていた。
復讐とはなんて気持ちが良いんだろう。
新たな心のリセット。
俺はやっとここから歩き出せる。
ここがスタート地点なのだ。
こいつらは死なない程度にしてある。
そのまま苦しんでくれれば俺の心はもっと潤うだろう。
もう後悔はしない。
廃ビルから見えた太陽に向かって誓う。
後悔のない最高の人生。
ーーーENDーーー




