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第32話〜余興の終わり

大きく羽根を広げるワイバーン。



大地に響く咆哮を上げ、歯を擦り合わせ火花を散らす。四つん這いのやつは片腕であるため、少しぐらつきながら大きく息を吐く。



「な、なんじゃ?」



「さぁな」



しかし、それは俺とシュミカには届かず自身の周りを炎が包んだ。



火力不足ではない。おそらく自分の身を固めるため、外の攻撃から身を守るためである。



「まさか…」



俺は炎に向かって走り出した。やつの意図が分かったからだ。しかし、それは少しばかり遅かった。



やつは大きく広げた己の羽根を羽ばたかせる。



物凄い風圧。それにより辺りを囲んでいた炎が俺たちの方へ飛んでくる。



「熱っ!」


最初はこれがやつの目的かと思われた。攻撃としても広範囲に渡り、距離をとらせるのにも十分な効果が望めるからだ。



だが…



「お、おいおい…」



目を覆っていた両腕を離し、ワイバーンの方向を向く。するとそこには天高く登っていく巨大ワイバーンの姿が。



やつの目的…それは逃亡だった。腕を切られたワイバーンは早急にこの判断をし、可能性を上げるために自分を炎で守ったのだ。



「シュ、シュミカ!あれ…」



「ワシの魔法でもあれを当てるのは難しい」



残念そうに首を横に振るシュミカ。その様子を見て、肩を落とす俺。



骨折り損のくたびれもうけとはまさにこのことだ。



2人とも落胆し、羽ばたき、天高く登るワイバーンを眺めていた。



「ふふ、スペル・アビス・スオン」



そんな色っぽい声で呪文を唱える声が聞こえてきた。



その瞬間、この岩山のあらゆるところから、細く鋭利な荊のやような物が無数に飛び出してきた。



その漆黒の荊はとてつもない速さで空へ登っていく。そう、巨大ワイバーンめがけて一直線にだ。



その荊の速さは飛んでいくワイバーンよりもはるかに速く、いとも簡単に飛ぶために大事な羽根を貫く。



「何だよあれ…」



「分からん…持ち主かもしれんのぉ」



羽根を蜂の巣にされたワイバーンはその巨体を浮かばせることが出来なくなり、悲痛な叫びとともに地上へ落下する。



落下の衝撃で地鳴りが発生する。



「誰だ?」



魔法は発動したが、術者の姿が一向に見えない。それに警戒しながら辺りを見渡す。



「ふふ、逃げ出すからこうなるのよぉ」



それはすぐに岩陰から姿を現した。



その相手を惑わすような色気を放つ服装。そしてウェーブのかかった茶髪。それが片目を隠している。



「そんなに警戒しなくても大丈夫よ?私はただこれを回収しに来ただけだから」



「こいつはお前が…」



「そう、私が育てたの」



俺が問い終わる前に即座に答える女性。何だか少し楽しそうに笑みを浮かべる。



すると彼女は洞窟の方へ歩んでいき、すでに息絶えているハンターを上から眺める。



「これね、悪臭の根源は」



「何を…」



パチンと指を鳴らし、その2つの肉塊を焼き尽くす。そして、洞窟に目をやり顔を歪め再度指を鳴らす。



だが、驚いたのはそこではない。



「あんた、呪文を唱えずに魔法を…」



そう、この世界ではおそらくだが、この呪文なるものを唱えなくては魔法を発動できないはずだ。だが、その女性は口すらも動かさず指を鳴らしただけで炎が出てきた。



「呪文?あー、今の人はそんなものに縛られてるの?」



「縛られてる?」



「あなた達の言う呪文はね古の教育の1つだったのよ?」



「教育?魔法のか?」



「そう、大昔はね魔法は誰でも使えるわけではなかったの。魔法は想像で創造するもの。全てはイメージが大切なの」



「ああ、それは知っている」



「それで、イメージしやすいように言葉にしたわけ。だから今の魔法世界がある」



確かに俺も言葉がいる事には疑問を持っていた。しかし、この世界の普通を知らない俺はこれは自然と一緒なのだと思っていた。



まぁ、そもそも想像とか魔法とも理解できないんだが…



「でも、さっきあんたも唱えてただろ?」



「ああ、それは私が闇魔法が苦手だからね」



「だからか…でも、何で苦手な方…」



「そんなことはどうでもいいの」



俺の質問は通ることはなく、途中でかき消されてしまった。



「それより、貴方は…【金井 蓮】で間違いないの?」



「何で…俺の名前を?」



「どうやら間違いないようね」



俺の反応に不敵な笑みを浮かべ、そういう女性。するとその不敵な笑みはすぐに顔一面に広がる明るい笑みに変わった。



「やった!やっと会えたぁ!



突然抱きつかれる俺。



「おい、何やってんだ。というか何者だ?俺の名前を知っているし」



その問いに女性はくっついた体を離し、俺の肩に手を置きながら答える。



「ふふ、私は【ヒストリア・ヘイム】。初めまして…って言っても私は初対面ってわけではないのよ」



「ヒストリア…ヘイム…どこかで…」



「私たちの主は貴方のことを心配していたのよ?少し、カードのことで同僚がミスしたから王国に目をつけられているんじゃないかって」



「あ、主?カード?ミス?確かに目をつけられてはいるが…」



「ふふ、大丈夫。私も王国に行くから心配しないでね」



俺の中には疑問が残っているが、ヒストリアと名乗るものは何かを少し考えたのち、巨大ワイバーンを指差す。



「あれ、あげるわ。多分優勝間違いなしよ。私はそれに立ち会えないけど頑張ってね」



「ちょ、どこへ…」



「じゃあね」



そう言って、ヒストリアは岩の中へ吸い込まれていった。



「何だったんだ…」



そう言いながら、シュミカの方を向く。



すると、そこには顔を真っ青に染めたシュミカの姿があった。



通りで変だと思った。俺たちの会話に全く入ってこなかったし、何かをする様子も見受けられなかった。



「おい、大丈夫か?」



「ワ、ワシとしたことが…あ、あれにかすってしもうたわ…い…」



「おーい!」



気絶するシュミカ。あいにく俺は毒消しのポーションは持ち合わせていない。



俺は早急にワイバーンを捕獲用クリスタルに封じ込め、シュミカの小さな体を抱え、岩山を降りた。すでに陽は傾いていた。








---王都に戻り、シュミカを医者に預ける頃には陽が暮れていた。



辺りはハンターフェスの結果の集計があり、ほとんど中央の広場に集まってしまっているので静かなものだった。



俺は急いで中央広場へと走る。



「さぁ!これ以上のものはいませんか!」



広場に着くと、オースションのような掛け声が聞こえてきた。例の石を使っているようでその声は広場中に響く。



「本当にいませんか!」



その女性の傍らには大きなワイバーンが横たわっていた。俺の比ではないが。



「あー、俺」



ゆっくりと手を挙げる。



「では!どうぞ!」



俺は舞台に上がり、捕獲用クリスタルを取り出す。その様子。ワイバーンの横で腕を組みながら心配そうに見る男。



そして、俺はワイバーンを解放する。



「よっこいせ」



ものすごい煙と共に出てきた俺の巨大ワイバーン。その巨体は舞台には収まりきらず、少しはみ出ていた。



「こ、これは!」



広場に恐怖と歓喜が混ざった空気が流れるのが分かる。とても微妙な空気だ。大声で叫ぶものもいればざわざわと話しているものもいる。



「え、えー…このサイズはかつて見たことがないので、我々も困惑しているのですが…これはどこで?」



「どこで…あ、噂があった岩山」



そういえばあの場所は岩山以外の情報がなかった。地名などが分かっていれば便利だったんだが…



「なんと!あの噂は本当でしたか!」



次は「おお!」「え!?」などの驚きの声が、上がる。



「こ、これ以上は…」



会場のハンターが一斉に顔を背ける。1番落胆していたのは舞台のハンターである。



「で、では!王国誕生祭余興!ハンターフェスの優勝はこのハンター!…っと名前は…」



「レンだ」



「ハンター・レンに決定いたしました!」



「おお!」という迫力のある声が広場に広がる。これは間違いなく歓喜。王国の歴史が、新たに刻まれた瞬間であるからだ。



「では、国王から、優勝賞品の授与があります」



そう言って、王城のテラスを指す司会者。



そこには開会式同様に貴族、王族、魔導騎士の姿があった。



「おほん」と咳払いをし、石を使い、国王は口を開く。



「まずは、優勝おめでとう。普通なら、こう言うところだが、今回は違う」



「え?」



「そ、それはどういう事でしょう?」



困惑する会場。俺も司会者もこの状況がよくわかっていない。本来祝われるべき舞台で真剣な表情になる国王。それはさらに続ける。



「ハンター・レン!貴様を、重罪であるハンターカードの偽証により逮捕する!」



ここから俺の歯車は狂っていく。









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