第30話〜岩山の狩場
「なぁ?これからどこへ行くんだ?」
「あ?敬語使え」
(うわぁ…面倒くせ)
実はハンターフェスが開催されてからミーナとルナとは別方向の集団に合流した。
しかし、この集団は少し変だ。
大きく分けて3グループになった。大体は俺がいない2グループに多く行った。しかし、このグループは数も他の5分の1にも満たないのに他とは反対の方向に向かっている。
それになんだか全員が屈強な戦士って感じだ。
「教えてくれませんか」
「お?素直じゃねぇか!なら教えてやる。ただし、金貨5枚な?」
敬語は許そう。こんな世界に来て敬語とかは使わなくなったからいい機会だと思い、腹の立つ口調は許す。
だが、人の足元を見て金をせびるのは許せない。
「おい…」
「さっきから聞いておれば…情けないの。人の足元を見て金を要求するなんぞ」
「だれだぁ?」
俺が言い返そうと少し口調を荒げると、横から可愛らしい声に似合わない喋り方をする声が聞こえてきた。
「ワシは、シュミカ・ヴォルケーノ。と言えば分かるじゃろ?」
「あ、あんたが…あのシュミカ…なのか?」
急に弱腰になる、屈強な男。情けなくも後頭部に手を当てペコペコお辞儀している。
「シュミカ…どこかで…」
男はそのままどこかへ行ってしまった。結局彼が俺に何かを教える事は無かった。
「まぁ、ハンターにはこういう奴も多…い」
「シュミカ…シュミカ…あ!」
「お、お主!あの時の…」
ここで思い出した。確か、こいつはスリ。俺の懐から外れくじを引いた上に自分も俺に大切な刀をすられ、お情けで返してもらった深紅の髪の喋り方が変な少女。
「ああ、あんたか…」
「もうこの刀は盗ませんぞ!」
「そんな物いるか!」
軽く挨拶程度の会話を交えつつ、俺はあの男と同じ質問をする。まぁ、少しだが、顔見知りがいるのは助かる。
「ああ、この集団のことかの?」
「集団って言えるほどいないけどな」
「ワシらはの、これから岩山に行くんじゃ」
「はぁ…またなんで?」
首をかしげる俺に、少し驚いた様子で口を開く。
「まさか知らんでここに来たのか?」
「まぁ、流れっていうか…」
少女は少し考え、「お主なら大丈夫か」と言い、会話を続ける。
「3日前にの、巨大なワイバーンが出現したという噂が流れたのじゃ。しかも、成龍並みの大きさだということじゃ」
「デカイのか?」
「もちろんじゃ。他のワイバーンとは比べものにならんくらいじゃ」
確かこの祭りは短時間でより大きいドラゴンを倒すか捕獲すれば優勝だと聞く。
「じゃあ、全員こっちに来るんじゃないのか?」
「それはないのぉ。成龍並みということは相当強い。だから自信がない奴は通常のワイバーンを狙うんじゃよ。この祭りで狙われるのはワイバーンが多いいからの」
「へぇ、ワイバーンは他のと比べると弱くてデカイのか?」
「そんなところじゃのぉ。ちなみにさっきより人数が減っておるじゃろ?」
「あ、ああ、確かに…」
「みんな、早く狩りに行きたいんじゃろう。取られたら嫌じゃからの」
ただの噂に執着する。このことから考えられるに、おそらくワイバーンの個体差はさほどないと思われる。
やはり多いところに行き、運まかせでワイバーンを狩るよりも、少し危険をおかして優勝を狙うことが優先されるのだろう。
「まぁ、もうそろそろで到着する。噂が真実かどうかはそこに行ってみれば分かるじゃろ」
「そうだな」
ゴツゴツした岩が見えてきた。まずはここを登らないとな…
---木も土もない冷たい岩肌が露出した岩山。
「…って、疲れる…」
「情けないのぉ」
物凄く疲れるって程じゃない。なんというか、精神的に疲れる。登っているっていう感覚がしんどい…
「で…ワイバーンは?」
「そう言えばおらんのぉ?」
「ガセネタだったんじゃないか?」
「しかし、辺りにハンターが見えんということは…やはり追って行ったか…もしくは探しに行った」
「または、諦めた…な?」
そんな会話をしながら辺りを見渡し、ワイバーンとハンターの姿を確認する。
「…何か他に情報はないのか?」
「あとはワイバーンは洞窟に住み着くってぐらいじゃのぉ」
「早く言え!」
多少声を荒げ、少女を軽く攻める。教えてくれただけでもありがたいんだけども。
---俺たちはいくつかの洞窟を見つけた。
しかし、それらは全てワイバーンのいた形跡があったものの、なんの姿も無かった。
「今年は諦めるしかないかのぉ」
「しかし、ここまで一度もハンターを見ていないのも気になるな。一緒に来ていたやつとも逸れてるし」
「…お!洞窟があるぞ!」
「なんか今回は大き…め…」
「「---ッ!」」
「た、助け…」
「うぁぁあぁあ!…腕が!腕がぁ!!」
俺たちが見たのは2人のハンター。そいつらは俺たちが見つけた洞窟から何かから逃げるように出てきた。
するとそのすぐ後に、その洞窟から恐ろしいくらい大きなワイバーンが姿を現し、片手で1人を捻り潰し、もう1人の腕をかじり取る。
「…お、おい…俺たちが乗ってきたワイバーン便の5、6倍はあるぞ…」
「ワ、ワシも…これは予想外じゃ…噂は流れていくたびに大きくなるものじゃ…だが、これは…」
「まんまだな…」
人が目の前で泣き叫び、殺されているのに割と冷静な俺がいる。やはりこの世界に来て、命の価値感覚が下がってしまったようだ。
「どうする?やるか?」
「ただではすまんじゃろ…」
隻眼のワイバーン。その片目の傷は相当前のものらしい。あらゆるところに血が飛び散っているところを見ると恐らくここに来た多くの人を殺したのだろう。
「ははは…この感覚…懐かしい」
「…お主。気でも触れたか?」
隻眼のワイバーンはこちらの気配に気づいたのか、俺たちの方向をゆっくりと向く。
すると大きく口を開け…
「ゴォォォオ」
そんな雄叫びをあげる。その雄叫びは、あらゆるところにある岩に反響し、ここら一帯に響き渡った。そして、その周りには一瞬にして多くのワイバーンが集まってきた。
「これも予想…外だな」
俺はシュミカに視線を送る。しかし、彼女はそれに気づかず、引きつった笑みを浮かべるだけだった。
「…逃げるか?」
「ワシを誰じゃと思っとる。戦う妖精、サラマンダーのシュミカ様じゃぞ」
「大丈夫かよ」
会話の終了とともに、数十匹のワイバーンが俺たち目掛けてすごいスピードで突っ込んでくる。
辺りには隠れられそうな遮蔽物はない。
覚悟を決めるしかなさそうだ。
盗賊相手には何人相手でも大丈夫だったが、こんなに生物を相手にするのはあの時以来だな…然も、前と違うのは最強生物であるドラゴンだという事…たとえ端くれでも相当強い事が予想される。
「ふぅ…」
俺は深く深呼吸をし、ドレインを抜く。




