ⅢーⅦ
まあ、七光りでも何でもいい。
仕事を貰えているんだ。きっとそのおかげで、誰かに好きだって言って貰えてるんだ。
「そろそろ帰るとしましょう。明日は仕事ですし、今日は早く休みたいものでしてね。それではさようなら、愛しのなーちゃん♡」
暫く駄弁りながら作業をしていた。
しかしいつも忙しい唯織さんだから、微笑んで立ち上がった。
「「お邪魔しましたっ」」
唯織さんが帰ると言うので、横島さんも帰ると言い出した。そして二人は一緒に家を出た。
「お兄ちゃん……♡」
二人がいなくなった瞬間、夏海が俺に抱き付いてきた。
しかし、力のない手と声に振り払うことが出来なかった。
不安そうで弱々しい、少し震えた高い声だった。俺の胸に顔を埋め、俺の服の背中を必死に握っている。
「お兄ちゃん、夏海の名前を呼んで下さい。お兄ちゃんの声が聞きたいんです」
夏海の声は震えていて、どこか怯えているようで。どうしたらいいのか俺には分からなかった。
だから、とりあえず安心させてやりたかったんだ。
「大丈夫か、夏海。安心して、話なら聞く。何か言いたいことがあるのか? 何か不安なことがあるのか?」
俺も夏海のことを抱き締めて、頭を撫でていてあげる。
だって妹が怖がっているんだから、これは当然でしょ? 別にシスコンではないと思うんだ。
普段から抱き合ってる訳じゃ無いし。ただ安心させてあげたくって、頭を撫でてあげてるんだ。可笑しなことではない。
「お兄ちゃん、ありがとうございます。もう大丈夫です。夏海、お兄ちゃんに抱き締めて貰ってとっても嬉しかったです。頭撫でて貰って嬉しかったです」
満足そうに微笑み俺から離れる夏海。その顔はとても悲しそうな雰囲気だった。
「そっか、それなら良かった。でも夏海、一人で背負いこんじゃダメだからな? 何かあったら、誰かに相談していいんだぞ」
いつも甘えたがってるけど、それとは違う。普段とは、全然違う夏海があるんだ。
本当に甘えたがる夏海がいる。だからそのときは、俺も夏海に優しくしてあげる。だって夏海は俺の妹だから。
俺の妹なんだから、そんなに強固な精神を持ってる筈がない。
かなり繊細な精神を持ち、傷付きやすいに決まっているんだ。だから、弱った心を慰めてあげないといけないんだ。
「はい、分かっています。お兄ちゃんが優しいことを知っているから、お兄ちゃんに甘えちゃいます。とっても怖かったら、お兄ちゃんに甘えたいです」
ニッと笑い、夏海は俺の腹に頬をすりすりしてくる。




