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⑶ 約束の日

 私が赴任して2年が過ぎ、明里は現在大学3年になった。

 明里の大学は3年になるとゼミが始まり、4年から入る研究室を選ぶ為に各研究室をまわる。

 明里はそこで大変興味を引く研究に出会い、その研究室に入る事を望んだ。


・・・・・・


 そして明里は4年になった。

 明里の3年間の総合成績は上位30%との事。

 このまま大学院へ進学する事が出来るだろう。


 この総合成績は、ぎりぎりの成績で入学出来た明里にとって、1年の成績が足を引っ張っている。

 3年の成績だけを見れば上位5%に位置している。

 よく頑張りましたと言ってあげたい。


 そして、明里は念願の研究室に入る事が出来た。

 しかしここで、想定外の問題が起きた。

 明里はこの研究室で、このまま大学院へ進む事を望んでいた。

 しかし、その研究室の担当教授は今年一杯で、来年度からは自分の出身であるK大学へ籍を移すとの事。


 明里は担当教授に相談した。

 するとその教授から、1つの提案がなされた。

「私が籍を移すK大学の大学院を受験してみませんか」


 明里はネットのビデオ通話で私に伝えてきた。

 他大学の大学院を受験するとなれば、今の大学の推薦資格は失う事になる。

 私は慌てた。

 そして強く反対した。


「せっかく推薦で大学院へ進めるのだから」

「……」

「何処か他に、興味持てそうな別の研究室……ないの?」

 明里は感情のない目を私に向けている。


 そう、私は気付いてしまった。

 これは私の嫉妬だ。

 明里の心が、明里の研究室の教授に向いている。

 明里が……奪われる。


「もうすぐ私の赴任も終了して東京へ戻れるから」

「……」

 明里は何も返さなかった。


・・・・・・


 そして、明里はK大学の大学院を受験した。

 K大学といえば日本を代表する関西の大学である。

 大学院一般入試の試験勉強等してこなかったはずだ。


 しかし、明里は合格した。

 大学院の入試は、大学の入試と大きく異なる。

 これは、研究室担当教授の裁量権によるものかもしれない。


 以前、明里の生活を支援していた時、私は明里を閉じ込めていた訳ではない。

 しかし、明里にしてみれば、自分は籠の中の鳥で、籠の外へ出たら経済的に生きていけない。

 だが、義父からお金を返された今、明里にとっての籠は消え去り、自由に好きな所へ飛んでいける。


 明里は大学卒業と共に、私のマンションを出て、K大学の関西へ引っ越した。

 私は有給休暇を申請して私のマンションに帰った。


 室内は綺麗に清掃されていた。

 明里に提供していた部屋を開けた。

 その部屋には、何も無かった。


 以前、明里が高校の卒業旅行へ行った時、怖い夢を見たと言っていた。

 『私がここへ帰ってきたら、この部屋は真っ暗で、全て無くなっていて……』

 これは、あの時の明里が怯えていた景色なのだろう。


 明里がK大学の院試を受けると言った時、賛成し、応援するべきであった。

 私はいつも大切な所で間違える。


 あれから4年が経った。

 約束の日。

 それは、明里が卒業する年の3月31日。


 婚姻届けは出されなかった。


次回:(最終話)夢の終わり

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