⑷ チーム・ストロベリー
次の日、私が会社に着くと、既に3人は出社して、運ぶ為の荷物を台車に乗せているところだった。
私は第3研の部長に挨拶しに行った。
「では、行ってきます」
「ああ、今までどおり、何も変わらない。ただ場所が変わるだけだ」
「はい。今後ともよろしくお願いします」
……なんだろう、部長は私を手放したく無いように見受けられる。
私が退室しようとした時、部長に呼び止められた。
「あ、それと……」
「はい?」
「実は、正式な辞令はまだなんだが、第1研から1人、君のチームに常駐させたいといった意向を第1研の部長から受けていて……」
……なるほど、いわゆる監視役か。
「はい。私と致しましては一向にかまいません」
「そうか、わかった。よろしく頼む」
「了解しました」
さて、どんな人が来るのやら……。
部長への挨拶を終えて皆の所へ向かった。
リーダー君が言った。
「では、敵陣にのりこみますか」
「いやー同じ会社ですから敵陣だなんて……」とインテリ君が言うと
「敵陣ですよ。碧姫を助けに行きましょう」と綾乃が言った。
私達は荷物を載せた台車を押しながら移動を始めた。
フロアーを移動する際、同期の人間が「行ってらっしゃい」と声をかけてくれる。
「ちょくちょく戻って来ます」と私は返した。
第3研の研究棟から第1研の研究棟まで徒歩5分程度の距離である。
その中を台車を押しながらゴロゴロと移動する。
第1研の研究棟に着いた。
我々に用意された場所は最上階の7階。
荷物をエレベーターに乗せて移動する。
7階に着いてエレベーターの扉が開いた時、扉の先に碧が立っていた。
「お待ちしていました」
碧の社員証のネック・ストラップは、既に我々と同じ紺の帯に真紅のラインに替わっていた。
「あ、お疲れ様です」綾乃が挨拶した。
「丁度皆さんが台車と一緒にこちらへ来られるの窓から見えましたので」
私は碧に言った。
「では、私達の新しい研究室、案内して下さい」
「はい。どうぞこちらへ」
台車を押しながらこのフロアーを移動する。
周りの社員からの視線を感じる。
既に色々と噂になっているようだ。
案内された私の研究室は広い個室だった。
綾乃が声をあげた。
「すごい」
広さを尋ねると120㎡との事。
大きな設備を利用する実験や測定等は、こことは別の実験棟で行うが、簡易的な実験や確認等は各研究室でおこなう。
いままでの第3研は研究室の外に事務机があった。
しかしここでは1人1人の実験机と事務机が研究室の中に用意されている。
その他、大きな作業台。
それと上下水道と流し台。
第3研の専用スペースの2倍以上ありそうだ。
実験機材や測定器等の精密機器は既に到着していた。
持ってきた荷物を台車から降ろした所で、私は第1研の部長へ挨拶しに行った。
「今後ともよろしくお願い致します」
「ああ……よろしく頼む」
「はい。お世話になります」
第1研の部長に深く頭を下げて私は私の研究室へ戻った。
そして機材のセッティングをしている皆に声を掛けた。
「ちょっと手を止めて、この作業台に集まってくれる」
皆が集まって来た所で話しを始めた。
「この研究室で欲しい物をガンガン買う」
不思議そうな顔をして綾乃が訊ねた。
「ガンガンって何をですか?」
「冷蔵庫でしょー電子レンジでしょーコーヒーメーカーでしょー」
「えー」
一同声をあげた。
リーダー君が訊ねた。
「マジですか」
私が言った「欲しくない?」
綾乃が言った「このフロアーにも給湯室ありますよね」
私が言った「我々専用の」
インテリ君が言った「叱られませんか?」
私は碧に訊ねた。
「第1研の研究室に持ち込み不可のものってある?」
「危険物に関しては、申請が必要になります」
「じゃあ、いいんじゃない」
「いやー」綾乃が心配そうな顔を浮かべた。
すると碧が「ガンガン行きましょう」と言い出した。
私が言った「叱られたら私が責任取るから」
「じゃー」と言ってリーダー君が腰を上げた。
それからはもう、みんな大はしゃぎである。
「やっぱ電子レンジはターンテーブル無しのがいい」とか、
「オーブンレンジよりオーブントースターの方がいい」とか、
この部屋の間取りや高さ等、計り出した。
「冷蔵庫は冷凍庫が大きいのがいい」とか、
「IHクッキングヒーターは測定器が誤動作する可能性があるから、電熱線コンロにしよう」とか、
「いや、それならマルチホットプレートの方がいい」とか、
「コーヒーメーカーは絶対ミル付き」とか、
「電気ポットも欲しい」とか、
「だったら棚も必要」とか……。
・・・・・・
だいたい欲しい物が整理出来たところで、みんなで大型家電量販店へ繰り出した。
ネットの情報から、ある程度決めていたが、実際に見ると色々悩むようである。
綾乃とリーダー君はいつも衝突する。
綾乃は機能を重視し、リーダー君は大きさを重視する。
購入を決めた物を確認していたら、碧が上目遣いで私に訊ねた。
「炊飯器……買っちゃダメ?」
「……あなたは研究室で、何をするつもりですかぁ?」
「だって、ごはん炊いて皆で食べたら、おいしくない?」
「そ、それは、絶対、おいしいです!」
碧の案を泣く泣く却下して、会計に向かった。
大型の物は配送手続きをして、持てる物は持って会社へ戻った。
今出来るセッティングを完了させて、今日は解散とした。
「では明日から、よろしく!」
「よろしくお願いします」
碧を含めたチーム・ストロベリーが、いよいよ動き出す。
次回:うわぁー睨んでる




