⑷ 明里のこれから
明里との生活を始めてから1週間がたった。
夕食を終えた後、私は明里に話しかけた。
「明里は高校卒業したら、どうするの?」
「うん……どこかに就職して……お給料もらえるから本当の意味で自立出来る。それからは、おじさんに迷惑かける事、なくなるね」
「別に迷惑とは思ってないけど、そっか、自立するんだ」
「変態おじさんに襲われる前に、ここから逃げ出すんだー」
「うん、それがいい。応援するよ」
「……」
明里は下を向いたまま黙り込んでしまった。
そして沈黙が続いた。
「……どうした?」
「……私、このままここに居ちゃ、ダメですか」
眼に涙をためている。
「ちゃんと働いて生活費払いますから、卒業した後も、ここに居ちゃダメですかぁ」
「明里、少し落ち着いて話し合おう。まずは顔を洗ってきなさい。少し頭を冷やして、今後の事について話をしよう」
明里は顔を洗い、落ち着いた様子を見せた。
「では、今後の事について話をしましょう。明里は高校を卒業したら就職すると言ったけど……それは私に迷惑をかけたくないという気持ちからかな」
明里は下を向いたままうなずいた。
「さっきも言ったように、私は迷惑だとは思ってないよ。たしかに生活費は私が出しているが、そんなお金、大した事ない。明里と一緒に暮らす事で、私は明里からそれ以上のものを受け取っている」
明里は顔を上げた。
「私、何もしてません」
「いや、明里と暮らしはじめてから、行き詰っていた今の仕事について、問題を解決する方法を見つける事が出来た」
明里は何を言っているのか解らない様子。
「まあ、わからなくていいです」
「……」
「さて、話を戻すけど、私は明里がここで生活する事に対して迷惑だとは思っていません。その事を踏まえた上で私からの提案なんだが、大学への進学……考えてみない?」
「……えっ?」
明里は顔を上げ、驚いた表情を見せた。
「明里が通っている高校は、進学に力、入れてるよね。みんな大学へ行くんじゃないの?」
「だって!……大学に入るお金ないし」
「お金については心配しなくていい。私が提供しよう」
「そんなぁ、大学卒業までの学費って、大金ですよ!」
「人生の中で考えれば、それは大した問題じゃあない」
しばらく沈黙が続いた。
「でも……今からじゃ受験勉強間に合わない」
「まだ、受験まで8ヵ月ある。明里は大学、行きたくないの?」
「行きたいよ! 本当は、行きたいよ!」
「だったら、ここにチャンスがあると考えよう。それを掴むか諦めるかは明里次第」
明里は下を向いている。
「大学で色々な人との出会いの中で、色々学んでほしい。明里が大学へ行きたいと言うなら応援するよ」
明里は真剣に考え始めた。
「で、明里はどこの大学目指したいの?」
「高1までは、まじめに勉強してたけど、高2で諦めたから、全然考えてなかった」
「わかった。明日、試験しよう。そして今後の計画を立てよう」
「えーっ、私、全然勉強してないよー」
「わかってる。だからこれから勉強するの!」
・・・・・・
次の日、英数国理社の試験を行った。
結果としては、特に良い科目もなければ悪い科目もない。
苦手な科目が無い事を考えると国公立を目指すのもアリだが、全国模試レベルで評価すると偏差値はだいたい40台前半。今からなら都心の私立の方が良いかな……
「わかりました。今現在、明里が特に目指したい大学がないという事で、目標大学はM大学レベルとしましょう」
「えええええーM大学なんて絶対無理だよ! 今の私は学年で下の下だし、私の高校だったら上の上でないと受からないよー」
「まあ、M大っていったら難関大学としての位置付けだからね。明里はこの先の8ヵ月間で、そこまで成績を上げるんだ」
「なんとかなる気が全然しない!」
「まずは理系、文系、どちらに進むか決めよう。理系なら私が教えられるが、文系なら予備校に通った方がいいだろうな」
「えっ、おじさんが教えてくれるの?」
「教えられると思うけど、受験勉強のアドバイザーと考えてほしい」
「私、理系にします!」
「おいおい、そんなに簡単に決めちゃっていいの?」
「中学の時、理科部でした」
「そ、そう……でも今から理系の受験勉強、大変だよ」
「今からなら、理系も文系も変わらない」
「……わかった」
私は今後のスケジュールを立てた。
受験日までを逆算して、なんとか合格する為のスケジュールだ。
そして明里にざっくりと伝えた。
「むりむりむりむりむり絶対無理、死んじゃうよー」
「この程度が無理なら、変態おじさんについて来れない!」
「そんなの、ついて行かないよぉ!」
さあ明里さん。変態おじさんに、付いて行きましょう。
次回:過酷な生活の始まり




