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⑻ 光合成です

 碧が会社に復帰した翌日の昼休み、私はいつものように社員食堂で昼食を取ろうとしていた。


 社員食堂のシステムは、最初に御盆を取って好きな食べ物を取り、その都度社員証をかざす。

 それが料金支払いの手続きとなり、毎月の給与から自動的に引かれる。


 広いフロアーの中で、大小の丸テーブルが等間隔に置かれており、各自好きな場所で食事する。


 私の部下、リーダー君は若い連中同士で大テーブルを囲み、インテリ君も別のグループで大テーブルを囲んでいる。

 新人の綾乃は女子同士集まって、大テーブルを囲んでにぎやかに食事している。

 大変けっこうである。


 私は、いつも窓際の日当たりの良いカウンター席で、1人で食事している。

 昨日は同期の男が声を掛けてきた。

「日光浴ですか?」


 私は返した。

「ええ、光合成です」


 今日も、いつものようにカウンター席に向かっていると、後ろから声を掛けられた。

「主任」

 振り向くと、碧がランチを乗せた御盆を持って立っていた。


「ご一緒しても良いですか?」

「あ、ああ。 では小テーブルへ行きましょう」

 小テーブルは2人~4人用のテーブルで、碧は私の正面に座った。


 会社の社員食堂は各センターにあり、通常は自分のセンターの食堂を利用するが、社員であれば他の食堂も利用出来る。

 私の第3研と碧の第1研は歩いて5分程度の距離である。

 碧は何かの打ち合わせで第3研へ来たのだろうか?


「いただきます」と言って食事をしようとした時、綾乃が御盆を持って私の左側へ来て言った。

「私もご一緒して、よろしいでしょうか?」

 私は碧の顔を見ると、碧はにこやかに頷いた。


「どうぞ」

 私が応えると、綾乃は私の左側に座った。


 私は碧に綾乃を紹介した。

「彼女は今年から、私の下に配属された、新人の三上綾乃さんです」

 碧が言った。

「まあ、うらやましい。初めまして」


 次に、私は碧を紹介しようとした時、

「水瀬先輩、私、先輩と同じ大学の研究室出身で、先輩がD2の時、私が研究室に入りました」


「えっ……あら……あっ思い出しました。三上綾乃さんですね、ごめんなさい」

「先輩とは研究班が違いましたから、直接お話する機会がなくて」

「あーなんか研究室で見た時と、だいぶ印象変わっていて、ごめんなさい気付きませんで」


「先輩がこの会社で活躍されたお陰で教授推薦で入社出来ました」

「まあ、それは良かった。○○先生、お元気?」

「ええ、厳しい先生ですよね、あ、でも昔はもっと厳しかったと聞いています」


 私をそっちのけで話をしていると、私の右側にリーダー君が御盆を持って現れた。

「自分も混ぜて下さい」

「どうぞ、どうぞ」

 笑いながら言った。

 そして碧にリーダー君を紹介した。


 先週、碧が休んでいた時、どんな噂が流れていたか……そんな話をリーダー君が話し始めた。

 「主任が水瀬女史を襲ったにちげぇねぇって噂が流れて……」

 碧は涙を流しながら笑っている。


「本当にごめんなさい。私、こんなに楽しいお昼休み過ごせたの、ここへ来て初めて。明日もここの食堂へ来ていいかしら?」

 そう、以前碧は『第1研で私は孤立している』と言っていた。


 私は応えた。

「ええ、是非また、昼食をご一緒しましょう」


・・・・・・


 次の日の昼食の時、また碧は第3研の食堂へ現れた。

 私は碧を見つけ、小テーブルに誘っていた時、リーダー君と綾乃も駆け付けて来た。


 テーブルに座ろうとした時、

「私を仲間外れにしないで下さい」

 そう言ってインテリ君も来た。


 じゃあという事で、大テーブルに移動した。

 大テーブルは6人ぐらいで囲えるテーブルである。

 私は碧にインテリ君を紹介すると、

「水瀬さんと昼食をご一緒出来て、光栄です」

 等と言っていた。


 何か声が裏返っている。

 それほど碧は恐れ多い存在なのだ。


 他の社員達が遠巻きにこのテーブルを気にしている。

 そこへ、私とは別のグループに配属された今年の新人が、このテーブルに近づいて来て碧に話しかけた。


「水瀬先輩、一緒に写真撮っていいですか」

 そう言ってスマホを取り出した。


「えっ、どうしたらいいのかしら?」

 すると、彼と一緒に食堂へ来ていた女性が不機嫌そうに言った。


「……今夜のオカズって言ってましたよ」

「おい!」

 リーダー君は立ち上がり、彼を睨み付けた。


 彼は表情を曇らせ「失礼しました」と言って離れていった。

 やれやれ、どうも彼は碧のポジションが解っていないようだ。

 今の事を彼の上司が知ったら、彼の席、無くなるぞ?


 すると碧が私に尋ねた。

「あのー今夜のオカズって、なんですか?」

 私は首を傾げて答えた。

「……さぁ……なんでしょう」


 リーダー君とインテリ君は、しらん顔している。

 綾乃は下を向いて頬を染めた。


「あっれー綾乃さん?」とリーダー君が声を掛けると、

「わっわたし、知りません、全然知りませんから」と言って自分の顔の前を両手でバタバタと振っている。

 ……あざと可愛い……わざとだ……わざとに違いない!


「いやいやいや、それ、セクハラですからね」とインテリ君がリーダー君を叱ると、

「えっ……私にも教えて下さいよー」と碧は身を乗り出してリーダー君に聞いた。


「いやー何でしょう?」と、リーダー君は緩んだ顔を戻せない。

「先輩! 私にも教えて下さい!」おー綾乃がリーダー君へ仕返しを始めた。

「酷いです、酷いです」インテリ君は、訳の解らない事を言ってリーダー君を追い詰める。


「私を仲間外れにしないで、教えて下さいよー」碧は今度インテリ君に聞いて来た。

「おう、俺も教えて欲しい」リーダー君がインテリ君に反撃を始めた。


 やれやれ、大騒ぎだ。

 まったくもって、中学生かぁ?

 こんな、にぎやかな昼食は……楽しいなー♪


なぁんとぉ!

おじさんの周りに碧さん目当てで、人が集まって来ました。

それでもおじさんは、嬉しいようです。

でも皆さん、本当に碧さんが、目当てなのでしょうか?


次回:ネックストラップ

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