⑶ 解っていた事
明里が大学生となって3週間ぐらい経った頃である。
私は、たまたま明里の大学近くで打ち合わせがあり、それを終えて直帰するところだ。
しかし、今帰っても明里はまだ帰っていない。
何処かで少し、くつろいでから帰る事にした。
駅前のファミレスに入り、案内された席に着いてコーヒーを頼んだ。
店内を見まわすと、少し離れたテーブルに明里の姿を見つけた。
明里だ。服装を見ても間違いない。
相手は男性1人。明里は私に気付いていない。
注文したコーヒーが運ばれてきた。
私はコーヒーを飲みながら2人の様子を伺った。
相手の男は明里に対して積極的に話かけている。
明里が好みそうなタイプだ。
そこには、私が今まで見たことのない、笑顔の明里がいた。
私はコーヒーを飲み終え、明里に気づかれないように会計を済ませた。
マンションに戻った私は、頭の中を整理した。
今まで明里は女子中学、女子高校と男子のいない学校で育ってきた。
明里は容姿端麗、大学に入れば多くの男性から交際を申し込まれるだろう。
明里も好みの男性と接すれば、惹かれない訳がない。
最初から、わかっていた事。
最初から、予想していた事だ。
その時、明里が帰ってきた。
「あっ……おじさん今日は早かったんですね」
……何か、明里の表情から、後ろめたさのようなものを感じる。
「ああ、打ち合わせが早く済んだ」
私は普段どおり振舞った。
「すぐに夕食の準備しますから」
「ああ、じゃあ私は先に入浴済ませようかな」
「了解です」
私は湯舟に浸かりながら思い出していた。
ファミレスであの男に向けていた明里の笑顔。私は今まで見た事がない。
……さて、これからどうしたものか。
・・・・・・
その日の夜、枕を抱えた明里が私の部屋をノックした。
私は明里に伝えた。
「ごめん、今日体調が悪いんだ」
「えっ、ごめんなさい気付かなくって……じゃあ早く寝た方がいいですね」
「ああ、そうさせてもらう」
「はい、ゆっくり休んで下さい、お大事に」
「ああ、おやすみ」
その日、色々な事が頭の中を交錯し、なかなか寝つく事が出来なかった。
・・・・・・
次の日の夜も、枕を抱えて明里が私の部屋をノックした。
体調が優れない事を伝え、明里には自分の部屋へ戻ってもらった。
明里は病院へ行く事を勧めたが、ゆっくり寝れば大丈夫だからと伝えた。
朝食と夕食は、いつものように過ごすが、ほとんど会話がない。
こんな状況が3日続いた。
この件について、そろそろ話しをしなければならないと思った。
今までの経緯から、明里は私に対して『好きな人が出来た』等、言い出せないのだろう。
しかし、このままで良い訳がない。
明日、明里が帰ってきたら、今後について話をしよう。
大学の学費等は明里の口座に振り込めばいい。
明里が望むなら、そのお金は将来返してくれればいい。
明里にとって、何の負い目にもならないように話をしよう。
・・・・・・
そして次の日、私は8時に帰宅した。
しかし、明里はまだ帰っていなかった。
いつもなら7時前には帰宅して、夕食の準備をしてくれているのだが。
スマホを見ると明里からメールが届いていた。
気付かなかった。明里からのメール、珍しい。
送信時刻は6時。
『ごめんなさい、急用が出来てしまいました。帰りが遅くなります。夕食は外食されるか、お弁当を買って下さい。本当にごめんなさい』
……急用か。
私は近くのコンビニへ行き、弁当を買ってイートインコーナーで食事した。
なんとなく、このコンビニに足が向いてしまった。
ここは、私が最初に明里と会ったところ。
私は、店の外に目を向けた。
明里は、あそこに立って、私が店から出てくるのを待っていた。
次回:おじさん、お話しがあります。




