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リコレクション  作者: 空犬
第一章 『運命の出会い』
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第一章19 「正式な社員」

 五人は他愛ない話をしながら異能探偵事務所に戻る。

 まず依頼達成の報告をする。

 その後はまだ四人にはやることがある。それをするために。


「――お。おかえりー」


 若干棒読みにも聞こえる声で五人を出迎えてくれた声の主は藍澤 香織だった。

 香織以外にも今日自己紹介した社員が全員机でいつも通り仕事をしている。


「ただいま。依頼完了したよ」


 依頼完了という一之瀬 潤の言葉に香織はパッと顔を向け、安心したような表情をする。


「それはよかった。リリエルの癒しを施したかいがあったわ」


「それについては本当に助かったよ」


 二人の会話が終わったとき、ふと香織は四人の方を見つめる。

 細かくいえば四人の体。もっと細かくいえば香織の目線は四人の胸辺りを見ていた。じっと見て香織はこう言った。


「……うん、ちゃんと化身を扱えたってことか。四人の精神を見ればそれが良く分かる」


「先生! 精神って見ることが出来るんですか?」


 ビシッと手を上げ、叶愛は香織に質問をする。

 香織はケラケラと笑いながら、その質問に答える。


「まあ精神を見るっていうより、感じ取ってるって言った方が分かりやすいかもね」


 人間が体の中に流れている血液を感じられないように、精神も普通は感じることは出来ない。それはただ人の中にある特別でもなんでもないただの精神だから。化身を初めて出すことによって、精神は精神エネルギーに変化する。だから化身を扱える。

 簡単な話、一度それを感じれば自分の中にあるものがなんなのか理解できる、そういうものだった。


「だから私達は自分の精神エネルギーを感じることが出来るし、他の化身使いの精神エネルギーも感じ取ることが出来るんだよ」


 いつの間にか話に加わっていた睦月によって、大体のことを説明される。


「君たちも化身を出したんだし、『いる』っていうことだけは感じられるんじゃない?」


 睦月は四人にそう問いかける。その言葉に一番に共感したのは蓮だった。睦月や香織みたく精密に感じ取ることは出来ないが、焔が自分の中にいるということは感じれていた。だから見学の日まで寂しいと思うことがなかった。


「でも……少しだけ、感じる。リアが私の中にいるような気がする……」


「そう言われると私もそう感じるかも!」


 美琴の言葉に叶愛もうんうんと頷き共感した。


「――さてと」


 そう言った一之瀬 潤は四人全員を見る。

 一之瀬 潤のその一言で四人、社員全員口を閉じた。


「これで見学は終了した訳だけど……四人の答えを聞きたい。異能探偵事務所に入るのかどうか」


 その言葉に四人は黙る。

 沈黙を一番最初に破ったのは、蓮だった。


「俺は……入ります!」


 力強い声で、全員に響かせるように答えた。蓮は既に見学が始まってから、どこかもう決まっていたのかもしれない。


 蓮の言葉で他三人は答える。


「私も入る! 今日の見学すっごく楽しかった!」


「私も……元々、入るために来たから……」


「僕も美琴と同じです。見学があっても無くても、入るつもりでした」


 四人の答えは一致した。

 それを聞いた一之瀬 潤は声を張り上げてこう言った。


「分かった。――君たちを正式に異能探偵事務所の社員とする!」



・・・・・・



 四人の意思、そして一之瀬 潤の一言により、無事四人は異能探偵事務所の正式な社員となった。


 その後、琉依除く三人のスピリツメタルを回収した。正式に社員となった四人の手続きをする間に、スピリツメタルの加工を専門とする場所に預け、三人のスピリツメタルをアクセサリー化してもらうらしい。


「スピリツメタルをどういう風に加工してほしいとか希望ある?」


 三人のスピリツメタルを受け取った一之瀬 潤は三人にそう問う。


「じゃあ俺は……ネックレスの形でお願いします。あと……欲を言えば焔を模したネックレスとかって出来ますかね?」


「出来ると思うよ。人柄的にも信頼できて、腕も当然良い所に持っていくから、そこは安心してほしいな」


 蓮は焔を模したネックレスという要望が出る。


「じゃあ私はピアスがいい! ピアス着けてみたかったんだー! ちなみに三日月型のピアスで!」


「着けてみたいってことは穴とか空けていないんですよね? いきなりピアスで大丈夫なんですか?」


 横で話を聞いていた琉依は叶愛に聞く。叶愛は全然といった様子で、


「大丈夫だよ。興味本位で耳に穴は空けたことあるから!」


「それは大丈夫って言わないですよ……」


 さらっととんでも発言をかます叶愛に心配しつつも琉依は呆れた表情を浮かべていた。


「美琴ちゃんは?」


 二人の要望を聞き、最後はまだ何も答えていない美琴だけだった。だけど美琴は少し難しそうな顔をする。


「えっと……私は、あんまりこれがいいっていうのがなくて……」


「うーん、だったら蓮くんと同じネックレスにしたらいいんじゃないかな? 流石にピアスは無理だと思うしね」


「じゃあそれでお願いします……」


「どういう感じの物にするかっていうのも、こっちで決めてもいいかな?」


「はい、お願いします」


 美琴の返事をきちんと聞き、三人の要望をメモにまとめる。書き終わりそれをしまう。そして四人に向き合い、


「異能探偵事務所にようこそ!」


 笑顔で、そう歓迎した。



・・・・・・



 時間は過ぎ、四人はそれぞれ自宅に帰ることとなった。

 正式な社員の手続きは探偵事務所の方でやっておいてくれる。探偵事務所を出る前に一之瀬 潤にお願いをされたのは、それぞれの環境を片付けてきてほしいとのことだった。

 簡単に言えば、蓮は学生。探偵事務所の社員になったからには、学校生活に時間を裂いていられない。だからそっちの事情はそっちで何とかしてということだろう。


「今日は本当に楽しかったね!」


 叶愛の満面な笑顔で語られる言葉からは、楽しさ、達成感など色々含まれていた。


「うん。本当に」


 叶愛の言葉に共感するように蓮は言葉を発す。


「ここから僕らは同じグループで同期」


「そして仲間……だよね」


 琉依の言葉に続くように、美琴は自分の言葉を乗せる。

 そこからは他愛ない話、そしてこれからどうなるかとか、四人で未来の話をして、それぞれ帰路についた。



 蓮は自宅に着き、自分の部屋へ。


 そして大きく息を吸い、深呼吸をする。緊張した空気を漂わせながら、自分のスマホを操作し耳に当てる。


 プルルとスマホから着信音が微かに聞こえる。

 音が鳴りやみ、一人の人物が電話に出た。


《はい》


「もしもし? ――お父さん」


 電話に出たのは、蓮の父親だった。


「ごめん、お父さん。仕事で忙しいのに……」


《別にいい。それより早く要件を言え》


 蓮の心配を他所に、蓮の父親――日本防衛軍第一部隊隊長 赤崎 京は早く言えと冷たく急かす。

 蓮の父親 赤崎 京は日本防衛軍第一部隊の隊長。日本防衛軍の地位は一番偉く、一番強い。化身使いとしての実力は日本一と言えるだろう。それ故、仕事も多忙だ。


「えっと、実は学校を長い間休ませてほしくて」


《理由は?》


「やってみたいことが出来たんだ。だからそれに打ち込みたくて」


《そうか。こっちから後で学校に連絡しておく》


「ありがとう、お父さん」


《要件はそれだけか? ならもう切るぞ》


「うん。あ、えっと……お父さん、仕事頑張ってね」


《ああ》


 電話を切る。

 全身の力が抜けたように、ベッドにドサッと座る。


「はぁ……」


 蓮と父親の会話。普通の親子とは思えぬほど、冷たく、ただ淡々と要件を話した会話だった。


 父親の声色は一切変わらず、蓮の『やってみたいこと』に興味を示さない。まるで自分の息子のことをどうでもいいとでも思っているようだ。


 蓮は父親の機嫌を気にしているのか、妙に緊張しているような声で父親と会話をし、電話が終われば一気に緊張感が抜け、ベッドに倒れ込む。


 あまり普通じゃない。いつもの蓮の態度じゃない、それが見て分かる。知らない人ならまだしも、実の父親との会話にそこまでの緊張感が漂う。少し異常だった。


 だけど、これが蓮にとって普通。これが普通なのだ。



・・・・・・



 場所は変わり異能探偵事務所。そこには仕事をしたり、話をしたりと自由な空間が広がっていた。

 部屋には一之瀬 潤、香織、睦月、清羅の四人がいて、今朝紹介されたもう一人の社員 本田 涼はその場にはいなく、涼の机を見るに既に帰ったようだ。


「いやー、四人も新入社員ゲット出来るとはね~」


「元々蓮と琉依の二人の予定でしたっけ」


「そうそう、どっちも父親が日本防衛軍の隊長。多分鍛えれば伸び代もあるだろうし」


 一之瀬 潤は社長専用の机で。パソコンをカタカタと弄りながら話す佐久間 清羅と一之瀬 潤の会話が繰り広げられる。


「それがまさか突然の乱入でもう二人ゲット出来るとは思いもしなかったな~」


「まあ、新しい社員が増えるのはこっちとしても助かるし結果オーライね」


「だね。私としては貰ってきた仕事沢山あるから少しは減るかな」


 二人の会話に香織と睦月も加わり、この空間は新入社員への期待の雰囲気を漂わせていた。


「あの、一之瀬さんに伝えたいことがあるんですけど」


「何? 清羅。伝えたいことって」


 パソコンから目を離し、清羅の目線の方向は一之瀬 潤一点に。


「一之瀬さんに頼まれた犯人の男の化身が作った能力の中を見せてほしいってやつで、少し不思議なことがあって」


「……続けて」


「エレクトに能力の中を覗かせているとき――もう一人いたんです。僕達と同じで、その能力の中を覗いている人が」


「そいつの情報は?」


「下手に気付かれると色々厄介になりそうだったんで、あまり詮索はしてないです。だけど、僕らは能力をハッキングという体で覗くという感じで中を見ていたんですが……もう一人は、能力を『乱す』という形で中を覗いていました」


「ふーん……乱す……混沌操作でも持っているのかな?」


「伝えたいことはそれだけです」


「おかしいね。偶然同じ化身使いの能力を覗いていた、なんて……あまりないと思うし」


 新入社員への期待の雰囲気は、一気に緊張感漂う雰囲気へと変わる。



 これが開戦の合図だった。これから蓮達に待ち受ける運命の合図。それが響き渡る。



・・・・・・



 その男は高く、古くなり使われなくなったビルの屋上に立っていた。

 その場所は偶然か否か分からないが、今日蓮達が犯人の男と戦った場所だった。

 青い髪を靡かせながら、日が落ち、オレンジ色に染まった夕焼けの空を見つめる。


「探偵事務所に新たな社員か……厄介なものだ」


 そう呟いたとき、プルルと着信音が鳴り響く。


「はい」


 電話に出る。相手は自分よりも地位が高い人物。粗相をしてはいけない。


「……はい、今進行中の任務は順調に進んでいます。後、異能探偵事務所に四名程、新たに社員が追加されるようです」


 二人の会話は続く。


「……え。……分かりました。殺さなくていいんですね?」


 彼は呆れる。それは対価と見合わない任務を任されたからだ。


「……その任務をやらせるなんて……俺達中級クラスのことをなんだと思ってるんですか……悪組織に入っている身として、正体がばれることが一番厄介なことなのに」


 彼の言う通り、悪組織に所属している以上、正体がばれれば一貫の終わりだ。


「……まあ、貴方からの任務ならいいですけど」


 それでも彼は承認する。それは電話越しに話している相手に恩があるからだ。


「……はい、任せてください。――『黄金郷中級クラス、I』の蒼炎卿に」


 男は微笑む。その笑みには、これから起こることを予知していることを――蓮はまだ知らない。

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