初任給
【28】
時は流れ
らいと 19歳
こーや 16歳
すっかり大人になり大きくなった子供たち。
私にとってはいつまでも、ちっちゃいまんまだが、端から見れば
『いやいやいや、お母さんより背高いし!』
っていう、突っ込みが入るくらい身長が高い。
ママの家系に似なくてよかったね。
うちは豆粒揃いだから。
しかも足が長い。
私がらいとに「足長くてよかったね。ママなんかさ~...」
と言うと
「いーじゃん。ママは胴が長くて。
長いのがいいなら、胴が長いってことで」
ん?それって褒めてるの?
長いことがいいんじゃなくて、足の長さを言ったのに。
でも、ま。いっか。そういうことで。
高校を卒業してすぐにらいとは働いた。
体のことも考えると、あんまりハードな仕事はしてほしくないんだが、そんなにハードじゃないかな。大丈夫かな。
らいとは本当は大学に行きたかったんじゃないのかな。
私がダブルワークをずっとしてるから、気を遣って就職をしたんじゃないか、と思ってしまう。
ふと、らいとが小さい頃に書いてくれた手紙を思い出す。
──まま、おしごとずっといかないでね
らいとから見たら、私はずっと働いてたのだろう。
とにかく不安定だった。私の収入を増やさないと食べていけない。
働いて、働いて、とにかく働いたが、裕福な暮らしをさせてあげられず、色々我慢させてしまった。
我慢つながりだが、私は結婚当初から旦那におねだりをしていた。
ピアノが欲しかった。小さいキーボードでもいいから欲しいと、ずっと話していた。
だが、何度もいうが、とても裕福な暮らしは出来なかったのでピアノなんて二の次。仕方がないのは重々承知。
それでも頑張って子どもを大きくして、いつか余裕が出来たら自分で買おう、あとはみんなで北海道旅行に行きたい!とにかく子供たちにはたくさん、食べさせなきゃ!と思い、それが糧になり、ダブルワークと家事を頑張ることが出来た。
そんなある日、らいとが
「今度休みっていつ?」と聞いてきた。
「ん~...暫く無いなぁ。」
「そっか...」
「あ。でも今週の土曜日は夜のバイトが無いよ」
「休みじゃねーじゃん。ま。でも昼間のバイト終わったらちょっと付き合って」
「うん。わかった」
土曜日、
らいとが行きたかった所とは家電量販店。
──らいとは何が欲しいのかな。何買うのかな。
着いたコーナーは...
電子ピアノの売場だった。
「どれが欲しい?」
「え?」
「ずっと欲しかったでしょ?」
「いいの?」
「うん。そんなに給料使わないし、お小遣いもずっと貯めてたし」
──泣く。これは泣く。
らいとはずっと小さい頃から聞いてたんだ。
私が欲しいものを。
自分が我慢して、お金を貯めていたんだ。。
ちょっと遠慮して、いちばん安いものを選んだ。
「これでいいの?」
「うん。」
「他にももっといいのが...」
「これでいいの!らいとありがとう♪」
「わかった、店員さん呼んでくる」
───ずっとちっちゃいと思っていたのに、すっかり大人だなー。
しかもこんなに優しい子に育って、こんなに嬉しいことはない。
らいとが買ってくれたピアノ、ずっとずっと大切に使うね。
らいと、ありがとう。
家に持ち帰ったピアノ
嬉しすぎてずっと弾いて、ヘッドフォンをしながら夜中も弾いていたので、家族からは打鍵の音がうるさい、と不評であった。
まだまだへっぽこな感じなので、頑張って練習して、いつからいとに何か聴かせてあげよう、と自分の中での目標がひとつ増えた。




