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ケヴィンの想い

 ゴードンがモニカに斬り掛かる。

 モニカはゴードンのクレイモアをかわして距離を取り、


「サンド・ストーム!」


 と唱えると、辺りを砂塵が包み、ゴードンは眼を開けることができなくなった。

 すかさずリタがファイアー・ボムをモニカに向けて撃つと、モニカは火球を防御するために砂嵐は解除された。だが、ゴードンの眼に砂が入り、視界はぼやけたまま。

 薄目で見ようとするが一秒も開けていられず、メソジック帝国兵がゴードンに向かって矢を放とうとしていることにも気づかない。

 しかし、ゴードンに向けられた矢は、助けに入ったケヴィンによって切り落とされた。


「ゴードン様、大丈夫ですか」


 普段と変わらない淡々としたテンションでケヴィンはゴードンを気遣っていたが、ケヴィンがゴードンの助太刀に向かったことでシアラがフリーとなっていた。


「ウォーター・スクリュー!」


 シアラが剣の切っ先をゴードンとケヴィンに向けると、ドリルのような水流が放たれた。

 ケヴィンが水流の前に立ち、ピラミッドを構成する石を隆起させて壁を作ろうと魔法を唱えたが、足元の土がわずかに盛り上がるだけで足元の石はほとんど動かない。

 予想外の事象によって水流を防ぐ術をなくしたケヴィンであったが、リタが咄嗟にケヴィンの前に炎の壁を出現させ、ケヴィンに命中する寸前で何とか水流を防ぐことができた。

 動揺するケヴィンの隙をつき、モニカが背後からケヴィンに斬り掛かると、ケヴィンは剣で受け止めた。


「あんたも土属性ね。この建物の上は私たちには不利よ」


 ケヴィンがモニカを押し払い、間合いを取る。


 どうもこの建物自体に何らかの結界が張ってあり、魔法の干渉を阻害しているようであった。つまり、土系魔法使いは、この建物の上では、建物の上に敷き詰められた土のみしか操作することしかできない。

 この状況で有効に魔法を使うことができるのは、火系魔法を使うディックとリタであったが、フェルナンドの水系魔法で十分に効果を発揮することができないでいた。


「ゴードン様、敵が減ってきました、逃げてください」


 不利な状況で、確実にゴードンを守り切ることができないと判断したケヴィンは再びゴードンに撤退を促す。

 だが、ゴードンは聞こえなかったように、クレイモアを中段に構え、応戦の構えを見せた。


「リタ、援護を頼む」


 そう言ってゴードンは、シアラに向かって行った。


 そのゴードンの背後を狙うモニカの行く手を阻むため、リタはモニカの前に炎の壁を発生させてモニカの動きを止め、さらに炎の壁をモニカと自分の間にも広げ、モニカの攻撃を防ごうとしたが、


「そんなしょぼい魔法で、止められると思って?」


 とモニカは足元の土を盛り上げて作った踏み台を利用して炎の壁を飛び越えてきた。

 リタに向かって振り下ろされる剣を防いだのはケヴィンであった。ケヴィンは目配せをしてリタを後方に下がらせると、モニカと剣を打ち合った。


 一方、ゴードンはシアラとの距離を詰めつつ、大きく振り被りながらクレイモアで何度も斬りかかる。シアラがクレイモアをガードすれば体制を崩すこともできるが、しかし、シアラは持ち前の身軽さでゴードンの攻撃をかわし、隙を見ては細剣でゴードンを攻撃していた。


 その状況はケヴィンの想定通りであった。ゴードンとシアラの相性は悪いとケヴィンは当初から考えており、それが現実のものであることを今目の当たりにしていた。


 しかし、ケヴィンの予想に反し、徐々に状況が変わる。

 ゴードンの動きが、ケヴィンが見たことのない動きに変わる。

 がむしゃらな動きではない。その動きは、きちんと体系立てられた剣技。

 ケヴィンは気付いた。その動きは、今、マックスと戦っているディックの動きであった。

 ゴードンの太刀筋の変化にシアラは直ぐに対応できず、太ももに傷を負ったが、しばらくするとその太刀筋を見切り、対応し始めた。

 すると、またゴードンの動きが変わる。今度は剣術と言っていいのか分からない、緩急を織り交ぜた一見奇抜な動き。それは、クロキが刀を振るうときの動きであった。

 そして、今度はゴードンの動きの中にギルバートの剣技、そして、ケヴィンの剣技も垣間見える。

 決して完璧にトレースできているとは言えないが、それぞれの剣技をゴードンの中で昇華させ、形を成しつつあった。


 ケヴィンは正直に驚いていた。

 ギルバートやグレイスがゴードンを未熟と扱い、ケヴィン自身も一年前にゴードンに稽古をつけたときは、温室で養われた坊ちゃん剣法ともいうべき、実戦では全く使い物にならないものであった。

 だからケヴィンはゴードンを戦いから遠ざけようとした。


 ケヴィンの知っているゴードンの腕ではここにいる猛者たちに手も足も出ず殺されてしまうと思っていた。

 しかし、目の前で戦うゴードンは、ケヴィンが背中を預けても良いと思えるほどに成長していた。


 わずか一年でよくぞここまで成長したものだ。その要因は何か。いや、そんなことは今はどうでも良い。今のゴードンの実力ならば、この状況をひっくり返すことができるかもしれない。ケヴィンはそう思い始めていた。


 そのときであった。ケヴィンがゴードンに目を奪われた隙にモニカの魔法――ボギング・ダウンがゴードンの足元を泥沼に変えた。

 ゴードンは足を取られ、バランスを崩す。

 シアラがその隙にゴードンと距離を取ると、細剣を空中で八の字を描くように回し、


「ミラージュ・ニードル」と唱えた。


 シアラの姿が幾人にも分裂し、ゴードンを取り囲む。そして一斉に細剣を構え、ゴードンを斬った。

 ただの細剣の連撃でありながら、ゴードンの重装の鎧を切り刻み、ゴードンは全身に裂傷を受けた。


 ミラージュ・ニードルはシアラの固有魔法であり、蜃気楼により自分の分身を作り攻撃をする。分身は蜃気楼でありながら、その攻撃ははっきりとした物理攻撃。それだけではない。その攻撃は魔力を伴ったものであり、鋼鉄の鎧をも切り刻む威力があった。


 ゴードンに大ダメージを与えたにも関わらずシアラの分身は消えない。ケヴィンの頭に嫌な予感がよぎり、思わず走り出した。

 シアラの眼鏡の奥の眼が見開かれ、魔力の収束でシアラの髪の毛が揺れた。


「ミラージュ・ザ・スティング!」


 全ての分身が細剣を持つ腕を引くと、ゴードンに向かって一斉にその切っ先を突き付けた。


 分身が消えると、そこにあったのは、体中に傷を負いながら、ゴードンに覆いかぶさるケヴィンの姿。


「ケ、ケヴィン……さん」


 ケヴィンの口から溢れる血がゴードンのほほに落ちる。


「だ、大丈夫です……急所は外しています」


 しかし、ケヴィンはそのままゴードンの上に倒れ込んだ。


「ケヴィンさん! ケヴィンさん!」

「あ、あなたをここで死なせはしま……せん」


 ケヴィンはそう言うと気を失った。

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