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傭兵たち

クロキは茂みに身を隠し、木々に囲まれた道の、馬車の音がする方向に目を凝らす。

馬車の持ち主がどのような人物か分からないため、ひとまず身を隠して様子を見る。場合によってはこのままやり過ごし、徒歩で馬車の後を追おうと考えていた。が――


「お、おい……バカっ……!」


クロキを追い掛けて来たヘザーがフラフラと道に出て、道の真ん中で立ち止まった。

クロキが慌てて茂みに引き込もうとヘザーの腕を掴んだときには、馬車は二人の目の前で停止していた。


「どうしたっ! 何があった!」


と馬車から降りて来たのはスキンヘッドに無数の傷跡を湛えた肌の黒い強面の中年の男。なかなか立派な鎧を着ており、鎧にも無数の傷がついている。


「す、すいません、この二人が……」


馬車の御者が謝りながら、眠たげな眼で突っ立っているヘザーと、ヘザーの腕を握るクロキを指差すと、スキンヘッドの男は二人を睨みつけた。


「……ふん、何でこんな森の中で乳繰り合っているのかは知らんが、道にでも迷ったのか?」


スキンヘッドの男の「乳繰り合う」という言葉を聞いて、ヘザーは嬉しそうにクロキを見てクロキに身体を寄せてきたが、クロキはヘザーから手を離して距離を取るようにスキンヘッドの男に数歩歩み寄った。


「え、ええ……そうなんです、俺たち道に迷ってしまって……」


スキンヘッドの男の質問を否定することなく、クロキはいかにも困っているという顔で答えた。


スキンヘッドの男は、クロキとヘザーをしばし観察していた。ピクニックに来たとも思えない二人の格好。そして、ただの村人とも思えないクロキの佇まい。


スキンヘッドの男はふと何かを思いついたようにニヤリと笑った。


「そうか、なら街まで乗って行くか?」

「あら……良いの?」


即答を避けたクロキとは逆にヘザーが即座に乗った。

スキンヘッドの男はそれを了承と受け止めた。


「良いぜ、街までは距離がある。徒歩なら半日、しかも魔獣がうろついてる地域だ。俺たちと一緒の方が良い」

「俺たち……?」


クロキがふと気になって呟いた。

スキンヘッドの男は再びニヤリと笑う。


「とりあえず乗れよ、俺たちも暇じゃあないんでな」


そう言ってスキンヘッドの男が馬車の扉を開けると、馬車の中には武装した十人の男女。馬車の左右のベンチに五人ずつ一列に腰を掛け、何人かはクロキとヘザーを見た。


「見てのとおり俺たちは軍人だ。と言っても、訳アリの連中を集めた特殊な部隊だがな。俺はこの隊長のブレイドだ、よろしく」


スキンヘッドの男――ブレイドはそう言うと、中にいる者たちの位置を詰めて開いた所にクロキとヘザーを座らせ、馬車を出発させた。


馬車の中には張り詰めた空気が満ちていたが、ヘザーは馬車の揺れに合わせてうつらうつらと船を漕ぎ始めた。その隣でクロキは異様な雰囲気の連中に警戒を解かず、一人一人観察していた。


ふと、ヘザーの目の前に座っていたショートボブの女と目が合う。

女は馬車の壁に寄り掛かり、顎を上げて見下ろすようにクロキを見ていた。


「その女、恋人? なーんか気に入らないわね」


そう言いながらクロキとヘザーを見る女の横に座っていた、なかなか見た目の良い金髪の男が皮肉っぽく笑った。


「ははっ、お前に男がいないからって僻んでんじゃねえよ」

「うっさいわね、脳みそ破裂させるよ」


ショートボブの女が半ギレで金髪の男を睨みつけるが、金髪の男は笑いながら逆にショートボブの女の髪の毛をいじってからかうばかり。

そんな二人のやり取りを見て、膝に肘をついて前かがみに座っていたアバラの浮き出た上半身裸の男が、苛立たし気に神経質そうな声を出した。


「う、うるさい、す、少し、し、静かにしてくれないか」

「はっ、ファンザの癖に言うじゃねえか、そう言やお前、ベローチェのことが――」

「う、うるさい、だ、黙れっ!」


金髪の男の言葉を遮り、やせぎすの男――ファンザが顔を紅らめながら叫んだ。その視線は、ショートボブの女――ベローチェに向けられている。


そんな三人のやり取りに対し、ほかの者もうるそうな様子であったが、ついにブレイドが声を上げた。


「おい、スターク、ガキの遠足じゃないんだ、静かにしろ!」

「へいへい、すいませんね、と」


金髪の男――スタークが悪びれる様子もなく言った。


場の雰囲気に、クロキはヘザーが恋人ではないことを訂正できずにいたが、それと同時に、対面のベンチの一番端に座っている人物から視線を逸らし続けていた。


黒いコートに身を包み、フードで頭をすっぽりと隠し、その顔には黒い仮面。細身の体は男か女かの区別はつかないが、この仮面の人物はクロキを知っている。

クロキが馬車に乗り込んだとき、仮面の人物はほかの連中とともにクロキを見た。そのとき、一瞬だが、仮面の人物は反応した。

直ぐに冷静さを取り戻したが、その反応はクロキを知っているという反応。

クロキもその人物にどこかで出会ったことのある感覚を覚えていた。

そして、仮面の人物がクロキを警戒しているのをひしひしと感じ、クロキもまた仮面の人物を警戒した。




馬車は1時間ほど走った後、停車した。

クロキが馬車の窓から外を見ると、立ち並ぶ掘立小屋と鎧を着た人間たちが見えた。

どう見ても街ではない。


「おい、着いたぞ、降りろ」


ブレイドの指示に従い、クロキはヘザーを起こしてから馬車を降りると、そこは軍の拠点であった。


「街……は?」


クロキが辺りを見回しながら、ブレイドに聞こえるように呟いた。

ブレイドはとぼけたように答える。


「ん? ここが俺たちの街だ」


クロキはブレイドを静かに見た。


「……ありがとうございます。ここから次の街へは歩いていきます」


「まあ、慌てるな、腹も減っているだろう、少し休んで行けよ」


「……いえ、俺たちは――」


とクロキはブレイドの申し出を辞退しようとしたが、


「本当、お腹が減ったわ。何か食べさせてくるの?」


とヘザーはブレイドの誘いに乗ってしまった。

ブレイドは何かを企んでいるような顔で笑みを浮かべ、着いて来るように顎で促した。


正直、このブレイドという男をクロキは信用していなかった。この男に借りを作れば、逆に何を要求されるか分からない。そう思い、ブレイドの申し出を拒否しようと思ったのだが、ヘザーの行動により目論見は外れた。

そして、案の定――


「さて、と……」


干し肉と固いパンと水をクロキとヘザーの前に置いて、ブレイドは切り出した。


「実はな、少し困っていてな」


来た、とクロキは思った。

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