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魔力装天・諸行無常

 クロキとリュウイチロウが揃ってイルマの突進をいなし、クロキはイルマの身体に一撃を入れたが、イルマには何のダメージも与えられなかった。


「リュウイチロウさん、魔法を使えない俺では、奴に致命傷を与えることはできません」

「分かった、とどめは俺が刺す。連携しろ」


 リュウイチロウとクロキがアイコンタクトをする間に、イルマがリュウイチロウに迫り、素早い手刀を連続で放った。


「魔力装天……諸法無我」


 リュウイチロウの身体を魔力が覆う。速度、耐久力、膂力が向上し、目にも止まらぬイルマの猛攻を紙一重でかわしていく。


 一方クロキは、腰の後ろから大きな手裏剣を取り出すと、付近の岩石兵バランティアを足場に跳び上がりつつ、空中で何度も回転して遠心力を加えて手裏剣を投げつけた。

 上から下へ、重力も加えた高速の手裏剣であれば、イルマを傷つけることも可能だ。

 だが、イルマは手裏剣が迫っていることに気付くと、翼をはばたかせて巻き起こした突風で手裏剣を減速させ、落下させた。

 しかし、クロキの攻撃に気を取られ、イルマの攻撃の手が緩む。


「魔力装纏、蹈節死義(とうせつしぎ)!」


 魔力を纏ったリュウイチロウの刀がイルマの正中線を捉えた。

 が、イルマは咄嗟に反応し、身体を捩ると、リュウイチロウの刀は狙った頭部ではなく、イルマの右肩から腰に掛けて真っ直ぐ斬った。


「うぬ……」


 これでは再び再生される。致命傷にはならない。


 リュウイチロウは刀を抜き、直ぐに二刀目を構えたが、イルマは再生の時間を稼ぐため翼をはばたかせて空中へと逃げた。

 リュウイチロウは直ぐ様ライフルに持ち構えイルマを狙ったが、空中を高速で飛行するイルマを捉えきれない。


「ライトニング!」


 とそのとき、テイラーが唱えた稲妻がイルマを直撃し、イルマの動きが止まる。


「今だ、魔力装填、破邪顕正っ!」


 ライフルから一直線に魔力の弾が放たれ、イルマを貫いた。

 だが、狙いは逸れ、イルマの顔の左半分と首の左半分、そして左肩から左胸にかけてを抉っただけで、急所と思われる脳からは僅かに外れた。


「リュウイチロウさん!」


 クロキがリュウイチロウを見て叫ぶ。

 いつの間にかリュウイチロウを数人のイルマの部下が取り囲んでおり、部下の攻撃によってリュウイチロウは腕に傷を負い、わずかに狙いをそらしてしまったのだ。


 顔の再生が終わったイルマが部下たちに向かって言う。


「ヨウヤク来タナ……使エ! オ前ラモ、『神兵』ヲ!」


 イルマの命令に従い、部下たちは各々注射器を懐から取り出した。


「させんっ!」

「させるか!」


 リュウイチロウとクロキが咄嗟にイルマの部下が「神兵」を使うのを防ごうとしたが、五人の部下に使用を許してしまった。

 部下たちの身体が大きく膨れ上がる。そして、二人はそのまま巨大な身体となり、三人は再び身体を収縮させ、イルマと同じ、頭部に角を備え、黒い体毛に覆われた悪魔のような姿となった。


「なんと、効果が違う?」


 リュウイチロウが驚くのも無理はない。同じ薬を使用したはずなのに、ただ巨大化する者と、悪魔のような見た目になる者がいる。


「巨人化した奴に理性はありません。おそるるに足らずです」


 クロキの言うとおり、巨大化した部下二人は闇雲に暴れまわり始めた。

 効果の違いを冷静に分析している暇はない。悪魔のような見た目の化け物が4体。クロキの頬を冷たい汗が伝う。




 ヘザーは面白そうに遠く離れた位置からイルマとその部下の様子を見ていた。


「魔人化する奴に使わせなさいって言ったけど、まあ、数千年経っていれば100パーセント確実とはいかないわね」


 超人薬「神兵」の効果について、ヘザーらは既にある程度の見当をつけていた。

 悪魔のような見た目になること――ヘザーが魔人化と呼ぶその状態が「神兵」の本来の効果。この結果にたどり着く者にはある条件があった。


 それは、古代ムー帝国人であること。より正確に言うと、アプスの一族のY染色体を持つ者であること。つまり、アプスの一族の男系の男子のみが「神兵」の本来の効果を発動させることができるのだ。


 イルマはその効果の発動条件を聞き、自身を含め数人の該当者を選出したが、数千年の歴史の中で正確な家系図は失われており、何人かは実際には条件に該当せずただ巨大化してしまった。


 だが、そうであっても――


「魔人化が四人。これはもはやチートね。ここはもう良いわ、私は次の目的地に行く」


 そう言うと、ヘザーは自分の足元の影からケルベロスを作り出すと、その背に乗って戦場から離脱した。


「クロキ、あいつどっかに行くよ!」


 ヘザーの動きに気付いたテイラーがクロキに伝えた。


「くそっ、こんなときに……いい、テイラーは奴を追え、後で合流する」


 クロキがそう言うと、テイラーはうなずき、ヘザーを追い掛けて戦場を離脱した。


「良い判断だ。あの魔性の者四体に狙われれば、テイラーは数分と持たないだろう」


 リュウイチロウがクロキの肩を叩く。

 と、イルマ以外の3体が、リュウイチロウとクロキに向かって黒い火球を吐き出した。


「魔力装纏、蹈節死義!」


 リュウイチロウが魔力を纏った刀で火球を次々と真っ二つに切り払う。


「このままでは勝てんな……ならば、魔力装天!」


 リュウイチロウが刀を上段に構えると、全身に魔力が漲る。


「諸行無常!」


 リュウイチロウの身体を包む魔力が藤色に輝く。

 そして、光が消えると、そこには黒い長髪を後ろでまとめた、クロキと同じくらいの年の青年がいた。


「その姿は……」

「ふ……奥の手よ」


 リュウイチロウの奥の手、魔力装天・諸行無常は、時を戻し、若返る魔法。

 今、リュウイチロウは、気力、体力、魔力が最も充実していた全盛期の姿となった。その上で知力と技術は老獪のまま、つまり、最強の状態である。


「こいつらを倒すには、全てを出すほかない。クロキ、お前も出し惜しみするなよ」

「は、はいっ……っ、あぶないっ!」


 クロキに視界に入って来たのはリュウイチロウの背後に迫るイルマの手刀。だが――


 キインッ


 リュウイチロウはイルマを振り向かず、背中越しに刀で手刀を受け止めた。


「残念だったな、不意打ちは不発だ」


 リュウイチロウはニヤリと笑うと、素早く振り向きながら、イルマの手刀を刀で弾き、イルマに向かって刀を振り下した。

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