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死なない程度にやってみる

「はっ……まだまだ、こんなんじゃ終わんないよ」


 汗と血が流れる顔で、スージーは強がった。

 しかし、シアラの言うとおり、打開策が全く思いつかない。

 マオのサイレンに対応しようとすればシアラの攻撃を受け、シアラに対応しようとすればマオのサイレンで眠りに落ちる。


 マオが再びサイレンを唱えようと口を開けた。

 スージーは直ぐに反応し、マオに向かってガスト・オブ・ウインドを唱えた。

 だが、シアラはその隙を逃さない。


「串刺しよ、ミラージュ・ザ・スティング!」


 シアラの分身が一斉に細剣をスージーに向け、突進して来た。

 全てを回避することは不可能。スージーは致命傷を覚悟した。

 しかし、そのとき、


「うわああっ!」


 フリッツが両手に抱えた幾本もの剣を次々にシアラの分身体に向かって投げながら走って来て、シアラとスージーの間に立った。

 シアラの分身のうち、5体は飛んで来た剣の対処に突進を止め、残った4体でスージーを攻撃したが、数の減った分身体をフリッツが邪魔したこともあり、スージーは何とか回避した。


「フリッツ、あんた私を救けに……」

「ああ、ここでスージーに死なれたら、僕も死んじゃうからねっ! スージーは死んでも勝ってよ、僕は死なない程度にサポートするから」


 脚を震わせ、泣きながら剣を構えるフリッツに、スージーは呆れながらも少し心強く感じた。

 そして、オーウェンの言葉を思い出す。危険な場所ではフリッツの指示に従うこと。それはフリッツが人並外れた危険察知能力を持っているため。

 では、スージーを救けにフリッツが出て来たということは。フリッツはスージーを守ることが勝機と直感したのではないか。


「ふふ……じゃあ、あんたも知恵を出しなさい。とりあえず、あの眼鏡女の魔法をどうにかしたいんだけど」

「え……僕にどうにかするなんて無理だよ?」

「分かってるわよ、あんたには期待してないって」

「う……そうやってはっきり言われるとそれはそれで……でも……」

「でも……?」

「スージーの魔法なら、どれが本体か分かるんじゃない?」


 確かに、やってみる価値はある。分身を見分けることなんてしたことはないが、可能性はある。だが、そのためには――


「だったら、時間稼ぎ頼んだわよ」


 そう言ってスージーはフリッツの肩を叩いた。


「う、うん……ま、任せて、死なない程度にやってみる」

「そこは、『死んでもやってやる』って言いなさいよ、締まんないわね」

「おしゃべりはもういいかしら?」


 マオがスージーとフリッツに向かって言った。

 スージーとフリッツが辺りを見回すと、二人が作戦を立てていた間に、シアラの分身体が二人を囲んでいた。

 スージーは直ぐに一体のシアラを押しのけて、フリッツとともにマオに向かって走り出した。が、直ぐにシアラをの方を振り向くと。


「ウインド・カッター!」


 とシアラの分身体に向かって風の刃を飛ばし、けん制する。

 そして、間髪入れずマオに向かって手を向け。ガスト・オブ・ウインドを唱え、突風を巻き起こした。しかも今度はおまけ付き。用意していた小麦粉の包みを全部空け、マオを粉まみれにした。

 これで、わずかだが時間が稼げる。


「行くわよっ、シーク・ア・ルーデンス!」


 スージーは両腕を上げ、風を巻き起こす。


 シーク・ア・ルーデンス。風の流れで周囲にある物体を感知するスージーの固有魔法だ。自然風を読むことはもちろん、自分で風を巻き起こし、その風を読むこともできる。そして、消費する魔力量によって巻き起こす風の範囲は広くなり、その気になれば、周囲10キロメートルの範囲を感知することができる。

 スージーは好戦的な性格ということもあって戦闘能力も高いが、オーウェンが自分の部下にスージーを迎えたのは、この魔法のためであった。


「何をするかは分からないけど、させないわよ」


 シアラが9体の分身をスージーに向けた。しかし、フリッツが分身体の邪魔をするため、なかなかスージーに攻撃できない。


「邪魔ね、なら、あなたから死になさい。ミラージュ・ザ・スティング!」


 シアラが苛立ち、先にフリッツを仕留めようと、分身体を一斉にフリッツに向けた。


「ひいいい、し、死んじゃうう!」


 フリッツは情けない声を上げながら、何と身軽な身のこなしでシアラの分身体をかわしていく。

 これもフリッツの危険察知能力の高さの為せる業。逃げることとかわすことに関しては、スージーの知る限りフリッツの右に出る者はいない。

 だがフリッツは体力が人並優れているというわけではない。連続で攻撃を受け続ければ、疲労で動きが鈍り――


「い、痛ったぁぁっ!」


 遂にシアラの分身体の細剣がフリッツの肩に突き刺さった。


「ようやく、捕まえたわ……」


 これでさらにフリッツの動きは鈍る。絶体絶命かと思われたそのとき、スージーが1体のシアラをロックオンした。


 分身を見分けた経験などなかった。当然シアラの分身体が風の流れの中でどんな反応を示すのか知る由もなかった。

 だが、9体のうち、1体だけ、はっきりと風の影響を受けるものがあった。

 それが本体かは分からない。だが、今はその可能性にかける。


 スージーは空気系魔法スウィフトで移動速度を加速しつつ、ほかの分身体の隙間を掻い潜り、狙う一体に接近した。


「死ねぇっ!」

「んなっ……!」


 すれ違い様にスージーのガントレットのかぎ爪がシアラを袈裟懸けに抉った。


 読み通りであった。

 攻撃を受けたシアラは消えずに倒れ、ほかの分身体は霞のように消え失せた。


 フリッツは肩と脚から血を流しながら笑みが浮かべた。


「や、やった……」


 だが、スージーの表情は緩まない。肩で息をしながらマオを見る。直ぐにガスト・オブ・ウインドを唱えようと構えたが、さっきまでマオがいた位置にマオの姿がない。


「きゃああっ!」


 とナイアの叫び声が聞こえ、スージーとフリッツが第一研究室の入り口の見える位置まで移動すると、ナイアの腕を掴むマオの姿があった。

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