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予選2回戦

 そこは一回戦の部屋と全く同じ作りの部屋であった。


 クロキ達に遅れて反対側の扉が開き、男二人と女一人の三人組が中に入って来る。

 今度の相手は式典に参列した来賓の護衛―—他国の騎士であった。

 対戦相手は警戒しながら、クロキ達に向かって歩いてくる。

 クロキ達も対戦相手に向かって歩いて行き、両者はちょうど部屋の中央で相対した。


「初めまして、よろしくお願いします」


 対戦相手の男の一人が、笑みを浮かべながらクロキに向かって握手をしようと手を差しだした。

 クロキはその手を一瞥すると、なんとその手を両手で握った。


「お、おい、不用意に握るな、危険だぞ」


 そう言うテオを尻目に、クロキは、


「いやぁ、今回は良い人そうで良かったです。さっきなんて凄い怖い見た目の人方で……僕ら戦いってそんな得意じゃないんで、仲間割れしてくれなかったらどうなっていたことか……」


 とホッとしたような表情をした。

 すると対戦相手の男は、


「そうでしたか、私たちもそんなに戦闘は得意じゃないので、ここは穏便な方法で勝敗を決めましょう」


 と笑顔になった。


 そのときテオは気付く。

 クロキの演技は相手を油断させるためだ。

 対戦相手の男が笑顔の裏でクロキを見下しているのが見え見えであった。

 テオは顔の表情筋を緩めると、隣で警戒しっぱなしのティムのわき腹を肘で突いた。


「アフンッ」


 ティムは変な声を出して、気の抜けた表情となったが、その声を聞いた対戦相手の男が、


「うん? 彼はどうしたのですか?」


 とクロキに聞くと、


「ああ、彼は緊張が緩むむといつも笑い出すんですよ。でも——」


 と、クロキは対戦相手に顔を寄せ、ティムに聞こえないよう声を潜めながら、


「おたくの女の子が可愛いんで、かしこまろうとするあまり変な感じになっているんです」


 と笑って言った。


 対戦相手の男は鼻で笑った。

 完全にクロキたちを見下し、油断し始めていることがクロキには分かった。


「それで、勝負の方法はどうしますか?」


 クロキが聞く。


「そうですね……では……」


 と、対戦相手の男は後ろを振り向くと、仲間の男が懐からサイコロを取り出した。


「あれを使いましょう」

「サイコロですか……それで、ルールは?」


 クロキが聞くと、男はサイコロをいったん上に放り投げ、目の前でキャッチして、6の目をクロキに見せた。


「単純です。大きい目を出した方が勝ち、同じ目であった場合は勝負がつくまで続行。いかがですか?」


 クロキは、少し考えると、


「良いですね、シンプルで誰も傷つかない。運も実力のうちと言いますし」


 と、賛同した。


「ああ、良かった、では三人が振って―—」

「でも……」


 男の言葉を遮ってクロキが続ける。


「この際、一番単純なやり方、一発勝負といきましょう。それから、こちらを後攻にしていただけませんか? そちらが勝負の方法を決めたので、これくらいは良いでしょう」


 男は、仲間と顔を見合わせると、頷き、


「良いでしょう、勝負はそれぞれの代表者が振った一回のみ。我々が先攻で、あなた方が後攻。ああ、当然ながら二度振りなし。一度手から放したサイコロに手を触れてはいけません」

「オッケーです。それじゃあ誰が振るのか決めるので、しばしお待ちを」


 そう言って、クロキはテオとティムとともに少し離れた場所へと移動した。


「さっきの奴らにもまして間抜けね」


 対戦相手の女がほくそ笑む。


「見たところモンテの騎士のようだが、こんな調子では騎士団のレベルも知れるな」

「ええ、『運も実力のうち』ですって、吹き出しそうになったわ」

「おっと、話し合いが終わったようだ」


 対戦相手の元にクロキらが戻ってくる。


「で、誰が振るんだい?」


 テオが手を挙げる。


「俺だ」

「良し、じゃあ、始めようか」


 男が念じるように顔の前でサイコロを強く握り、そして、優しく地面に向かって投げた。

 サイコロはクロキらの足元を通り過ぎ、そして、止まる。


「おおっ、ツいてる!」


 男が叫ぶのも無理はない。目は6であった。


「チッ」とティムが舌打ちをする。


「ああ……そんな……」


 クロキは大げさに落胆をして見せた。しかし、内心は何の驚きもない。予想どおりであった。

 対戦相手は手を取り合って喜んでいる。


「やった、俺たちツいてるな」


 白々しい。

 当然何らかのイカサマをしていたに違いない。

 おそらくは、魔法。

「手を触れるな」とは良く言ったもの。しかし、クロキにはどうでも良かった。


 クロキはテオを見て頷いた。


「よし、それじゃあ次は俺たちの番だ、振るぞ」


 テオが天井に向けてサイコロを投げた。

 サイコロは天井に当たるスレスレまで上昇し、そして落下する。

 クロキの動体視力が、サイコロの不自然な動きを見た。

 落下を始めた直後は回転していたサイコロが、途中から一つの面を上にしたまま回転を止めた。

 サイコロの下の面は6、つまりサイコロは1の面を上にして落下している。

 対戦相手の表情に不安な様子は微塵もない。自分たちの勝利を一ミリも疑っていない様子であった。

 クロキは下に降ろした左手で対戦相手に気付かれないようにティムに合図を送る。

 ティムは居合のように構え、腰を極端に低く落とし、落下してくるサイコロに集中した。

 サイコロがテオの膝の高さまで落下してきた瞬間、ティムが目にも止まらぬスピードで剣を抜き、サイコロを水平方向に真っ二つにした。


 一瞬のできごとに、対戦相手のうち、サイコロ勝負を提案した男のみが気付いたが、ほか二人はサイコロが斬られたことに気付かない。

 気付いた男は驚き、そして、息を飲む。

 ティムの太刀筋はあまりにも速く、精密であったため、サイコロの上半分と下半分はくっついたままであった。

 サイコロはそのまま床へと落下し、跳ね返る。

 サイコロに掛けられた魔法の効果のため、サイコロの上半分と下半分はくっついたまま、1の面を上にして落下し始めた。

 そのことに気付いたクロキはすかさずナイフを取り出すとサイコロに向かって投げる。

 サイコロは投げナイフによって空中で弾かれ、上半分はそのまま1の面を上にして床に落下した。

 そして、下半分は回転しながら床に落下すると、角を支点にして回転し、ついに6の面を上に向けて静止した。


「7、だな」


 クロキがそう言うと、


「ちょ、ちょっと、何してんのよ、こんなの反則じゃない!」


 と女が食って掛かった。

 だが、リーダー格の男が女を制止する。


「いや、彼らはサイコロに手を触れていない」

「魔法は良くて武器は駄目ってことはないだろ?」


 クロキがそう言うと、男はスッキリしたような顔で首を振り、


「それもお見通しだったか、どうやら初めの様子も演技だったようだね。完敗だよ」


 と言うと、三人の身体は白い光に包まれ、消えていった。

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