第2247話 沐浴講座
産休に入り退屈そうな紗希。
☆紗希視点☆
10月3日の日曜日よん。 今月に入ったところで私は一旦産休に入ったわ。 月末には出産予定だものね。 受けている仕事で残ってんのは、亜美ちゃんから受けた本の表紙デザインだけ。 これは〆切までかなりあるから出産後に再開すれば良いわ。
「んー! 暇ね」
「よね」
私達妊婦組はというと、特にやる事も無く暇をしている事が多い。 皆は既にお腹も目立っており、出歩くのも大変なのよねー。
コトッ……
「チェックメイトだよ」
「また負けた……」
亜美ちゃんと奈央は暇潰しにチェスで遊んでいるみたいだけど、私は見てもさっぱりわからないわ。 ただ聴いていると、亜美ちゃんが勝ち続けてるみたいね。 この手の勝負では亜美ちゃんには勝てないわね。
「奈央、あんた何連敗してんのよ?」
「5連敗」
「やめときな。 亜美ちゃんに頭使うゲームで勝負挑んで勝てるわけないだろ」
「むきーっ」
「あはは。 チェスは終わりにしよう。 次は将棋かな? 囲碁? オセロでも良いよ」
「オセロで勝負ですわ!」
やめときゃ良いのに……。
「ゴンすけとゴンじろーとゴンぞうはペットハウスか」
定点カメラの映像をアプリで見てみると、親子で仲良く丸くなって日向ぼっこしているみたいだわ。 可愛いわね。
「入院中はゴンすけ達の事お願いよ?」
「うん、任せてよ」
パチン……
「ここ取ると奈央ちゃんはもう逆転出来ないねぇ?」
「また負けた……」
オセロでも負けてるみたいね。
◆◇◆◇◆◇
お昼を食べた後は育児の為のお勉強をすることになったわ。 暇潰しには良いわね。
「赤ちゃんのお風呂の入れ方を練習だよ。 旦那さん達にも覚えてもらうよ」
今日は日曜日の為、旦那組も皆いるのが好都合。 お風呂に見立てたカゴと、ボケねこのぬいぐるみを使って練習していくわ。
「とりあえず夕ちゃんからね。 はい、やってみて」
「他のぬいぐるみは無いのか……」
「メソねこもあるよぅ」
「ボケねこで良い……よっと」
ピピーッ!
今井君がボケねこのぬいぐるみを持ち上げた瞬間に、亜美ちゃんが何処からか出してきたホイッスルを吹く。
「な、何だ?」
「夕ちゃんは美夕をそんな乱暴に持ち上げるつもりなの? 抱っこさせてあげないよ?」
「いや、これはボケねこ……」
「美夕だよ」
「……はい」
笑うんだけど。 今井君はボケねこのぬいぐるみを赤ちゃんを抱くようにしながらお風呂に入れる真似をする。
ピピーッ!
「な、何だ?」
「ちゃんと頭全体を支えないと。赤ちゃんは首が座ってないんだよ。 ほら、美夕も首が後ろに倒れちゃってるよ」
「ボケねこなんだけどな……」
「美夕だよ」
「……はい」
何かする度にホイッスルを吹かれる今井君。 こりゃ思ったよりダメだわ。
「夕ちゃんはこれで練習終わり! がっかりだよ……ちゃんと本番までに練習してマスターするんだよ」
「はい」
「次は希望ちゃんもやってみよう」
「ぅん。 あ、私はメソねこのぬいぐるみを使うよぅ」
「じゃあこれはいらないね。 ぽいっと」
亜美ちゃんはさっきまで赤ちゃん役をしていたボケねこのぬいぐるみを今井君の方へ放り投げた。
「お、おい。 美夕を放り投げるなよな」
「それはボケねこだよ。 美夕じゃないよ」
「でもさっきまでこれは美夕だって」
「ボケねこだよ」
「……はい」
今井君可哀想に。
希望ちゃんはさすがによく理解しているようで、赤ちゃんの沐浴も問題無さそうにこなす。
「うんうん。 さすがだよ希望ちゃん。 じゃあ次は宏ちゃん」
「おう」
「ふん。 お前も亜美に怒られるが良い」
「お前と一緒にするな」
佐々木君は希望ちゃんからメソねこのぬいぐるみを借りて、早速練習を始める。
ピピーッ!
「宏ちゃん! それは犬のシャンプーをする時のやり方かな?」
「ん? おう」
「美夜ちゃんもそうやってお風呂に入れるのかな?」
「いや、これはぬいぐるみ……」
「美夜ちゃんだよ」
「……はい」
「まったく。 夕ちゃんも宏ちゃんも、そんな事でちゃんとお父さんになれるの?」
「が、頑張ります」
亜美ちゃんは中々厳しい先生なのね。 そういや、家庭教師の時も家事の特訓の時も、結構スパルタだったって遥が言ってたわね。
「次は春くん! ここはビシッとお手本を見せて上げてね」
「は、はい」
北上君はさすがに大丈夫よね。 男子グループの中では一番まともな人だし。
「こ、こうですかね?」
ピピーッ!
亜美ちゃんがホイッスルを吹く。 北上君もダメかー。
「春くん。 そんなに強く身体を擦ったら赤ちゃんの肌が傷付くよ! 優しく拭いてあげるように」
「は、はい」
「次!」
と、どんどん進む沐浴講座なのでした。
◆◇◆◇◆◇
「がっかりだよ……」
「なはは……」
一通りのメンバーが沐浴講座を終えたところで、亜美ちゃんが物凄くがっかりした様子を見せる。 まあ、それも仕方ないけど。
「まさか、男性陣は誰一人まともに沐浴させられる人が居ないとは思わなかったよ」
「は、はい、すいません」
男性陣は亜美ちゃんの前で正座をしながら頭を下げて謝っている。
「ま、まあ亜美ちゃん? そこまで怒らなくても。 まだ時間はあるんだしね?」
さすがに男性陣も可哀想なので、私が軽くフォローを入れておく。
「まあ、そうだね。 今の段階でわかって良かったよ」
「ですわね」
裕樹も沐浴講座に参加していたが、あまりに緊張してガタガタ震え、ぬいぐるみをカゴの中に落としていたわ。 あれが赤ちゃんだと思うと恐ろしいわね。
「さて。 次はおむつ替えの講座だよ!」
「え、まだするのか?」
「時間は待ってくれないんだよ」
「つ、詰め込み過ぎは良くないんじゃないかしら?」
「……それもそだねぇ。 おむつ替えはまた今度にしよう」
「ほっ」
亜美ちゃん、本当にスパルタなのね。
「そろそろ夕飯の支度しないとですね」
「おりょ。 もうそんな時間?」
時計を見ると17時を過ぎていたわ。 確かに夕飯の支度の時間ね。 私は台所係の監督として台所に行かなきゃ。 まあ、椅子に座って見てるだけなんだけどね。 一応栄養バランスが偏ったりしないように、口は出すようにするけど。
とりあえず台所へ。
◆◇◆◇◆◇
「にしても、男性陣の皆さんは本当に大丈夫なんでしょうか?」
前田さんが台所仕事をしながらそんな心配をしている。 まあ、あれを見せられたら心配にもなるか。
「あれで皆やる時はやるのよ。 私達が出産を終える頃には、何だかんだ言って一通りの事は出来るようになってると思うわよん」
「だと良いですね」
「ちなみに遥も心配だったわね」
「で、ですね」
女性陣の中でも遥だけは亜美ちゃんからホイッスルを吹かれていた。 力加減が怪しいみたいだったわ。 あれも不器用な奴だし、ちょっと心配ね。
男子達は大丈夫なのか?
「亜美だよ! あれは問題だよ」
「危ないわよね」




