第1203話 本当に大丈夫?
練習3日目が終了。
☆奈々美視点☆
合宿3日目終了。 今日も練習疲れたわねー。 てなわけでホテルの大浴場で疲れを癒す。
「ふぅ……」
「出るよ。 年寄り臭いセリフ」
「生き返るわぁ」
「出たよ!」
「別に良いでしょうが……実際疲れが取れて生き返るのよ」
「まあ、そうだけどねぇ」
今は私と亜美しか入っていない。 その内他の人達も来るでしょ。
「この後どうする?」
「夕飯?」
亜美は頷く。 初日、昨日と引き続き外食で済ませた私達。 しかし、一応このホテルでも夕食を食べる事が出来る食堂がある。 西條グループのホテルが出す食事だし多分美味しいでしょう。 何より食費も宿泊費込みで既に奈央が支払っている為、ただで食べる事が出来る。
「今日はホテルの食堂使いましょうか」
「らじゃだよ」
ちなみに皆はどうするのかは聞いてないわよ。 昨日は黛姉妹や宮下さんと新田さん、他のベテランさん達はホテルで食べていたみたい。 そこは自由行動になっているわ。
「その前に宏太に電話しとこうかしら。 夕飯食べたらそのまま寝ちゃいそうだし」
「毎日電話してるの? 私もたまには声聞いておきたいねぇ」
「そう? じゃあ後で部屋に来なさい」
「らじゃだよ」
◆◇◆◇◆◇
風呂から出た私と亜美は、宏太に電話をかける為に私の宿泊部屋にいる。 亜美は久しぶりに宏太の声を聞くとの事よ。 あいつの声なんて別に珍しいもんでもないでしょうに。
「もしもーし、亜美でーす」
「んあ? 亜美ちゃん? 奈々美からかかってきたよなぁ?」
最初に亜美が声を出したものだから、ちょっと混乱気味の宏太。 ちょっと考えればわかるでしょうに……。
まあ宏太はバカだからわからないのかしらね。
「今はオリンピックの合宿中だって言ったでしょ? 亜美が一緒にいても不思議じゃないわよ」
「あー、そういえばそうだったなぁ。 納得」
「あはは、宏ちゃん久しぶりだねぇ。 元気?」
「おー、元気だぜ」
本当に元気そうに張りのある声で返事している宏太。 心無しかこっちにいた頃より元気そうに聞こえる。
「何せ奈々美にボコられなくて済むからなぁ」
「あぁ、なるほどねぇ」
「あんた、次名古屋行った時覚えてなさいよ」
「ひぃっ?!」
一応脅しておく。 亜美は呆れた様な顔で「そんなんだからこっちにいる時より元気になるんだよ」と呟いていた。
ピンポーン
不意にスマホのスピーカーからインターホンの音が聞こえてきた。 どうやら宏太の部屋に来客らしい。
「へいへーい」
宏太は多分、スマホを持ちながら来客者の応対に向かっているらしい。
ガチャ……
「おう、前田さん」
来客者は前田さんのようだ。 こんな時間に何の用事かしら?
「ねね、前田さんって例の?」
亜美が小声で私に確認してくる。 私はコクリと頷いた。 亜美には前田さんの事を既に話してある。 宏太が仲良くしている同僚という情報ぐらいだけど。
「佐々木さん、夕飯の余り物をお裾分けに来たがね」
「おー、いつもありがとなぁ! 皿はまた洗って返す」
「はいはい。 それじゃまた」
「また明日なぁ」
ガチャン……
何とも淡白なやりとりね。
「宏太。 よく夕飯の余りを分けてもらうの?」
「ん? おう。 割と毎日だな。 助かってるぜ」
「ま、毎日なんだ?」
「おう」
それを聞いた亜美は、私の耳に近付いて小声で話しかけてくる。
「本当に大丈夫? 普通、気の無い異性に毎日お裾分けに来るかなぁ?」
「んー……話してみた感じ悪い子じゃないし、恋愛感情ってよりは尊敬してるって感じだったし……大丈夫じゃない?」
「ふぅむ……」
「どうした2人とも黙り込んで?」
私達が小声でやりとりしていると、電話の向こうの宏太が不思議がって話しかけてくる。
「いえ、別に。 あんた、ちゃんと夕飯のお礼はしてる?」
「おう。 つーか、あっちがお礼に夕飯を持って来るんだよ」
前田さんが宏太にお礼? どういうこと?
「ほれ、こないだ話したろ? 前田さん色々資格試験の勉強中ってよ。 それをこの俺が教えてやってるんだなぁこれが」
「え? あのバカの宏太が人に物を教えてるの?」
「奈々ちゃん……宏ちゃんだっていくらなんでもそこまでバカじゃないよ?」
「まあ、生き物の事に関しては人並み以上ね……」
つまり、普段資格試験の勉強を教えているから、そのお礼に夕飯を分けてもらっているって事か。 電話の向こうでは「うめー!」と、いつもの調子で宏太が声を上げていた。
「前田さんって料理上手なのね!」
「んぐんぐ……みたいだなぁ。 けど、亜美ちゃんや神崎の料理に比べるとちょっとな」
「おお……嬉しいねぇ」
まあ亜美と紗希は本当に料理上手だものね。 前田さんには今度名古屋へ行った時にでも私から礼を言っておきましょう。
その後は宏太としばらく他愛無い話を続けた私達。 宏太があまりにも「うめー!」と言いながら話すから、こっちもお腹が空いてきたという事で、今日はさっき亜美と話して決めたホテルの食堂で夕飯を食べる事にする。
私は亜美と希望、麻美の4人で席に座り、適当に夕飯皿に乗せて食べている。 バイキング形式なのね。
「前田さんだっけ? 宏ちゃんの同僚さん」
「ええ、そうよ」
「後2ヶ月あるけど、本当に大丈夫かなぁ?」
「何が?」
「宏ちゃんと前田さんだよ。 ただの同僚にしては距離が近くない? それに資格試験の勉強を教えてるって事は、その時間ずっと一緒にいるって事だよ。 本当にこの先何もないとは言い切れないよ」
と、亜美は前田さんとの浮気に発展しないか心配しているらしい。 希望は「宏太くんはしっかりしてるから大丈夫だよ」と言ってくれているが、麻美は「宏太兄ぃはお姉ちゃんにだいぶやられてるからー。 優しくしてくれる人にはコロッといくかもー」と脅して来る。 だいぶやられてるって何よ……。
「まぁそんな事言っても、私は信じるぐらいしか出来ないし」
あまりあからさまに注意してもなんか束縛してるみたいで嫌だし、基本的には傍観するしかないと思っている。 亜美や麻美が言う様に、尊敬が恋愛感情にならないとは言い切れないのはたしかだけど……。
「まあ、中旬にまた名古屋へ行くし、その時にそれとなく探ってみるわ」
「うんうん。 そだね」
「でも、奈々美ちゃんと宏太くんには20年の重みがあるし、たった3ヶ月程度でどうこう出来るわけないよぅ」
「そうだね。 やっぱり20年は強いよ」
20年か。 たしかにそれだけ一緒に過ごしてきたら、たかだか3ヶ月程度一緒にいたって宏太が簡単に靡くなんて事はないか。 何せあの姫百合凛の告白ですらも宏太を動かすことが出来なかったわけだし。
「なんかそう考えるとかなり自信出てきたわ。 何も心配いらないわね」
「そうだそうだー」
まあとはいえある程度はやっぱり警戒しておくに越した事はないか。 今度行った時には宏太に釘を刺しておきましょう。
「奈々ちゃん、何考えてるのか知らないけどスプーンが曲がって大変な事になってるよ?」
どうやらちょっと力が入りすぎたみたい。 ストレス溜まってるのかしら? 次に名古屋へ行った時に発散するとしますか。
心配したり不安になったり。
「遥だ。 忙しい奴だね奈々美は」
「うっさい」




