18.いつか
昼食後は、リラさんの話を色々と聞いていた。私は言葉が発せられないから聞くだけだったけど、それでもリラさんは楽しそうに自分のことを話してくれた。
リラさんは、世界のあちこちを旅している料理人だそうだ。
気の向くままに行き先を決め、その土地の食材でその土地の料理を作る。気に入ったものがあれば、その料理をどこの土地でも作れるようにレシピをアレンジしたりするらしい。昼食に食べさせてくれた料理も、故郷の味をこの土地の食材でアレンジしたものらしい。
若い女性の一人旅、しかも職業が戦闘職ではない料理人だと言うから心配したけど、こっそり鑑定させてもらったら納得の強さだった。
【名前】リラ・ラクシュリ
【種族】人間
【職業】料理人
【レベル】22
【HP】102/102
【MP】42/42
【攻撃力】88
【防御力】56
【魔力】39
【素早さ】82
【器用さ】95
【固有スキル】言語
【通常スキル】料理Lv7、レシピLv6、採取Lv3、二刀流Lv4、炎魔法Lv2、食材知識Lv6、植物知識Lv2、薬学知識Lv1
【耐性】毒耐性Lv2、麻痺耐性Lv1、炎耐性Lv3
【称号】一人前の料理人、双剣使い、サバイバー
ステータスはマシロですら足元にも及ばないし、スキルLvの高さと多さには驚かされた。魔物でいうとどれ程のランクなのかわからないけど、私たちより遥かに格上だと思う。
人間にはランクがなく、努力をした分だけレベルやステータスが上がる。魔物を倒したり、トレーニングをしたり…何度もなんども同じことを繰り返して、少しずつ強くなっていく。
リラさんがこの若さでこのステータスになるには、どれ程の努力を重ねてきたのだろうか。私には想像もつかない。
『すごいなぁ…』
思わず漏れる本音。でも、私の声は言葉となってリラさんに届くことはなく、リラさんが首を傾げる。
「何か言ってくれているのよね。私に鼠ちゃんの言葉がわかればいいんだけど」
綺麗な眉を下げ、困ったように笑うリラさん。あぁ、リラさんは悪くないのに。流石にこの世界の文字は読めないし書けもしないし、筆談も出来ない。
私はどうにか想いを伝えようと、座っているリラさんの足元に寄る。するとマシロもついて来て、二人でリラさんに寄り添う形になった。
「あら、励ましてくれてるの?」
リラさんがくすくすと笑いながら私たちの頭を撫でる。先程は微妙な表情をしていたマシロだが、今度は嬉しそうに目を細めていた。どうやらマシロもリラさんに心を開いたようだ。
「私はずっと一人旅だったから、なんだかこういうのは嬉しいわ」
ひょい、とリラさんに持ち上げられて、膝に乗せてもらう私とマシロ。私は元々人間だし少し気恥ずかしかったけど、マシロもなんだか嬉しそうだったので、もう少しだけリラさんのご厚意に甘えることにした。
結局この日は小川で一緒に野宿させてもらうことになり、夕食までごちそうになった。
初めての野宿は少し不安だったけど、マシロとリラさんが居れば大丈夫。いつか私とマシロも旅に出てこの世界を見てみたいし、ここで参考にさせてもらった。
リラさんが次の日の朝には旅立つとのことだったので、感謝の気持ちを込めてこっそり荷物袋に木の実を忍ばせておいたのは内緒だ。木の実なら何かの食材にもなるし非常食の代わりにも出来るだろうし、リラさんならきっと役に立ててくれると思う。
私のスキルはなんとなく内緒にしておいた方がいい気がするからこっそり入れたんだけど、リラさん、喜んでくれるといいな。
そして次の日、リラさんは旅立っていった。
いつか彼女みたいに旅立てるよう、いつかどこかで彼女に追い付けるよう、もう少しこの森で頑張る。そう心に決めながら、私たちは森に残ることにした。
マシロが居てくれれば、きっと大丈夫だよね。マシロとなら、私に出来ることはまだまだ少ないけれど頑張れる。
そういえば…リラさんを見送ったあとに気付いたんだけど、どうして彼女は日本語だったんだろう?