15.マシロのために
地面に降り立ったマシロと、向かい合うスライム。マシロは飛行と氷魔法で遠距離から攻撃出来るから有利なはずだけど…
「ピピィッ!」
────ヒュンヒュンッ!!
先に攻撃を仕掛けたのはマシロだった。大きく羽を広げて詠唱すると、生成された氷の矢がスライムに向かって飛んでいく。
スライムは氷の矢を身体の端で受けとめると、そのまま私たちに向かって突進してきた。
『早いっ?!』
先程までのそのそと動いていたのはなんだったのか、マシロと同じ素早さのステータスは伊達じゃなかった。あっという間に距離を詰められる。
マシロは咄嗟に空に飛んで逃げてくれたけど、正直危なかった。もしもあの勢いのまま酸を飛ばされていたら…
「ピュイー…」
『マシロ…?』
マシロがどこか不安げに鳴く。怪我をしている様子はないし、念のため鑑定したけどHPは減っていなかった。氷魔法でスライムのHPは確実に削れているし、このまま空から攻撃すれば倒せるはずだけど…
『…あっ』
そこまで考えて、私は思い出す。マシロが昨日氷魔法でプチスライムを倒していた時、魔法は全て地面に降り立っている時に唱えていた。先程も羽を大きく広げて詠唱していたし、マシロは氷魔法を使うのに羽を広げる必要があるのではないだろうか。
飛んだままでは、魔法が使えない。
「ピィ…」
マシロがちらりと私を振り返る。私が怯えていたからか、私のことを心配してくれているのがわかる。弱い私のことを、守ろうとしてくれている。
マシロは地面に降り立てば、氷魔法で戦える。だがそれは同時に、スライムの攻撃を受けるリスクを背負う。ステータス的にも、マシロだけならスライムの攻撃にも耐えれるのだろう。そう、マシロだけなら。
『私…』
マシロの背中には、私がいる。私のステータスじゃ、スライムの攻撃がかすりでもすればアウトだ。
マシロは私を背負いながら戦い、攻撃を全て避けなければならない。肉弾戦では私に危険が及ぶし、魔法で戦おうにもやはり私が邪魔だった。
『マシロ、逃げよう!』
この状況は危険だった。マシロに怪我もしてほしくないし、いつ他のスライムが現れるかもわからない。今無理をするより、このまま空を飛んで巣穴まで逃げた方が安全だ。
マシロに言葉が通じないのはわかっている、けど、なんとか意思を伝えたい。肩を軽く叩いてみるが、マシロはスライムを見据えたままだった。
「ピュイー!」
しばらく思案していたマシロが、おもむろに旋回を始めた。スライムの頭上をぐるぐると飛び回り、徐々にスピードを上げていく。
スライムは頭上で旋回し始めるマシロに警戒したのか、少しでも体勢を低くしようと平べったくなっていた。
いったい、マシロはどうするつもりなのだろうか。そう思った次の瞬間、
『うわぁっ?!』
突然、マシロが脚から垂直に落下した。私は振り落とされないように、慌ててマシロの羽を掴む。
マシロは平べったくなっていたスライムの上に降り立つと、脚でスライムをしっかりと掴み羽を大きく広げた。
「ピューイ!!」
─────バキバキッ
マシロがスライムを捕まえたまま詠唱すると、いつもの氷の矢ではなく足元のスライムが大きな氷に包まれる。スライムはどうすることも出来ず、氷塊となった。
『違う、魔法…?』
氷の矢とは明らかに違う魔法だった。スキル欄には氷魔法としかなかったけど、氷魔法にも種類がある…?
「ピピュイッ!」
マシロがスライムの氷塊から降りると、氷塊はスライムと共に消滅した。そしてマシロが、背中に乗っている私に嬉しそうに顔を擦り寄せる。
『ありがとう、ごめんね』
私は短い腕でマシロの顔をそっと抱きしめる。私を守るために、マシロには無理をさせてしまったと思う。いくら能力が上がったとはいえ、進化したばかりのまだ慣れない身体だったはずだ。それなのに私を背負ったままの戦闘で、マシロには申し訳ないことをしてしまった。
マシロの背中から降ろしてもらって、怪我がないかを確認する。幸いどこにも怪我がないようで、褒めて欲しそうに私を見ている。あんな戦闘があった後なのに、ほんとマシロは、
『強いなぁ』
「ピピッ!」
私が嘴を撫でてあげると、マシロは嬉しそうに羽を広げてくれた。
マシロは強い。私なんかよりも、ずっとずっと。
私もいつか、マシロのために戦えるようになりたいな。