~現実(9)~
~現実(9)~
あれから私はずっと逃げていた。手には防御痕という切り傷が残っている。おかげで長そで以外着られなくなった。
傷は癒えていくけれど、心はぽっかり空いたままだ。
ニュースでは私も尻軽女とか言われた。多分あのおでこ会長が言ったのだろう。ひどいものだ。ニュースが真実を伝えないことは聞いたことあったけれど、経験しないとわからないものだった。
だからこそ家の外に出るのが怖かったし、ネットで私の顔写真は広まっていた。唯一の生き残り。私が悪の根源だと言う人もいた。
公世の父親は数日後に死体で発見された。事件性があるのかどうかもわからないけれど、一部の週刊誌が面白おかしく取り上げただけだ。
しばらく話題になるニュースがなかったのか、何日かこのニュースは取り上げられた。私の家のマドリとかも鮮明に書かれていたし、公世の高校時代から引っ越しに足るまでの話しも書かれていた。
両親についても書かれていたし、私のことも書かれた。プライバシーなんてなかった。
だからこそ、ずっと引きこもっていた。周りの声が私のことを言っているような思いを持ち続けていた。
公世。公世。公世。
私ね、あなたの汚名を晴らしたいって言いたかった。あんなにサッカーに真剣に取り組んできたのに誰もわかってもらえない。そんなの悲しいよ。
でも、思ったんだ。
それは私を肯定したいだけなのかもしれない。
だから、私は逃げたかった。そんな醜い自分からも。美紀から言われた言葉は救いだった。
「だってさ、公世だってみさきに泣いてほしいなんて思ってないと思うよ。私が公世ならそう思うな」
言われるまで忘れていた。
私が公世なら。公世と居た時間が長いのに、公世の考えを忘れていた。美紀の方が公世の考えをわかっている。
だから決めたんだ。笑顔でいようって。それともう一つ。公世からの手紙。ひょっとしたら公世はこういうことを想定していたのかもしれない。
手紙にはこう書いてあった。
みさきへ
この手紙がみさきの手元に行っているということは俺が思う最低のことが起きた時だと思う。これはみさきが俺を追いかけてくれると言ってくれた時に書いたんだ。だから、結構未来予測が含まれているけれど気にするなよ。
俺はみさきと一緒に暮らせていたのかな。みさきを笑顔にさせていられたのかな。そうかなっていたらいいな。
前にも話したと思うけれど、俺の親父は最低なヤツだ。俺は高校を辞めなきゃいけなくなったが、あの時アイツは最低なことにまだ中学生だった俺の妹を売りとばしやがった。
まあ、中学生を買い取るくらいのやつだ。どこで何をされているのかなんてわからない。でも、俺は思った。どうにかして逃げ切らないといけない。でも、俺にも夢がある。
サッカーはあきらめたくない。それにやっぱりやるなら最高のピッチに立ちたい。今ならオリンピックだな。目標は。
んでも、夢に向かう時にアイツがまた現れたら俺は同じ過ちはしたくない。あんな思いはもうしたくない。多分あいつは俺は有名になったら来るだろう。前と同じように。
そして、この俺に何かがあったとしたらあのオヤジと対決して負けた時だと思う。
これは俺の問題だ。子は親を選べない。そして、この手紙がみさきに届く未来が来ないことを祈ってもいる。
でも、どうしようもないかもしれない。
俺はみさきと過ごした時間は大事にしたい。だって、俺はみさきを選んだんだし、みさきも俺を選んだんだ。
だが、負けたことには素直に謝らないといけない。できれば俺が負ける所はみさきには見てもらいたくない。
そんなことがあったらいくらみさきでも凹むはずだ。壊れるかもしれない。俺だって妹があんなことになって荒れもした。
でも、俺が最低なやつにならなくて済んだのはみさきが俺を追いかけてきてくれるって言ってくれたからだ。
あれがなかったら俺はあきらめていただろう。だから俺は絶対に頑張る。
けれど、目の前であれ、知らない所であれみさきは凹むだろう。
だから、伝えたい。
『Tomorrow is another day』
この言葉を。
明日俺が横に居なくても、みさきの未来は俺と共にある。
だから笑って欲しい。だって、明日は今日と違う一日なんだから。
そう、書かれてあった。
映画は『風と共に去りぬ』だ。公世と見た映画。こんな手紙なんてもらったら忘れられるわけないじゃない。
私は新幹線に乗りながら何度も、何度も手紙を読み返した。
横いるお姉ちゃんは何も言わずに私の頭をなでてくれた。
駅について私は公世が眠るお墓の前に立った。
「公世追いかけてきたよ」
そう言った。ようやくお墓参りができた。
でも、誰かが来た後がある。それだけでうれしくなった。
公世をわかってくれる人が私以外にも居たんだね。汚名は晴れなくてもいい。誰かがわかっていてくれたら。
「大丈夫?」
私はいつの間にか泣いていた。お姉ちゃんがそっとハンカチを出してくれた。
「うん、大丈夫だよ」
私は涙が流れないように空を見た。
携帯を取り出す。空を撮ってみたくなった。
カシャ。
まぶしかった。光がきれいだった。
「お姉ちゃん、ありがとう。じゃあ、帰ろうか」
私はそう言ってかかとを3回ならしてみた。カンザスシティーには行けなかったけれど、横に公世がいるような気がした。
「何しているのみさき?」
「なんでもない」
大丈夫だよ、公世。私は。




