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~現実(7)~

~現実(7)~


 公世からの手紙。なんでそんなものを波多浩二が持っているのだろう。いや、確かにあの二人は仲好かった。なんでかわからないけれど悪友とか言っていた。はずだ。


 触れられたくない。だから私はあのクローゼットの奥にしまい込んだんだ。向き合う勇気なんてない。だから閉じ込めたんだ。思い出なんてどこかに閉じ込めてしまえばいい。嫌なものなんて特にだ。


 あの時だってそうだ。私は納得していたなんて思っていない。でも、どうしようもなかったんだ。だから詰め込んだ。吐きだした。今も吐き出したい。いや、トイレに行ったのは日本酒に酔ったわけじゃない。薬とお酒の相性がわるかったわけでもない。そういえば、医者は薬を飲んでいる時はお酒を飲むなとか言っていたような気がしていた。


 多分、記憶が間違っているんだ。そう、何もかも間違っているんだ。


 無視しよう。波多浩二のメールを無視しよう。そう思った。でも、ダメ。

 わかっているけれど、このメールに返信をすることは治りきっていないかさぶたをはがすのと同じだ。はがしたくなるその思い。傷つきたくなる思い。どうしようもないその衝動は止めることはできない。


 落ち着いた。はず。


 私は部屋に戻る。横になる。携帯を握る。見るときららからメールが来ている。とりあえず見ずに片っ端から消していく。きららじゃ公世の代わりにはなれない。誰も公世の代わりにはなれないのだ。


 だって、公世はもう私の身体の半分みたいなものだ。この携帯にだって物語がある。だってこの携帯には公世からのメールが詰まっている。更新されることはない。だからこの携帯は絶対に機種変しない。だって、公世と私をつなぐものがなくなるから。


 でも、その詰まったものを眺める勇気はない。過去を覗き込んでしまったらもう私は戻れなくなるからだ。いや、もうすでに戻れなくなっている。


 きららからのメールをすべて削除できたら少し安心できた。残っているのは見慣れないアドレス。すでに登録した。


 そうえば、昔も一度波多浩二からメールをもらった記憶がある。でも、その時登録をしていなかったのだ。


 あの後も何回か会うことはあった。そう、卒業まで。結局波多浩二はサッカーを諦めきれなくて大学でもサッカーをしている。ただ、身長はあっても、細すぎる体がアスリートに向かないと言われているらしい。それを言うと公世は背が低かった。でも、関係なかった。だって、どこに居ても公世は俺様で王様だった。


 今でも私の中の一番は公世であって、他が近づけるわけがない。それはわかっている。もうどうすることができないとしたとしても。


 とりあえず寝よう。私は携帯の電源を切って眠りについた。



 朝起きると二日酔いなのか、気持ち悪いだけなのかくらくらしていた。携帯の電源を入れる。びっくりするくらいきららからメールが来ていた。でも、思ってしまう。私だって同じように公世にメールを送っていた。たまに返ってくるメールがうれしくて保存をしていたのだ。


 だからきららからメールを見てあの頃の自分を思い出してしまう。だからイヤなのだ。削除をしていくと途中に美紀からメールがあった。


「波多浩二から連絡があったの。連絡あった?」


 とりあえず、「あったよ」とだけメールを返す。私がラインを未読スルーするのでメールを送ってくれる。そう思っていたらラインも入っていた。同じ内容だ。まあ、いいか。


 そして、私は波多浩二にメールを返す。


「手紙もらいます。いつがいいですか?


 でも、少しだけ時間を下さい。気持ちを整理したいです」


 そう、私はかさぶたをはがす。でも、これは劇薬だ。封じ込めているものを解放するのとかわらない。私はクローゼットを眺めた。あそこにも似たようなものがある。いや、あそこにあるのはもっとひどいものだ。


 私は立ち上がってクローゼットを開ける。奥に風月堂の缶が2つある。そういえば、3年前にもここに押し付けた出来事がある。だからこそ余計に思う。波多浩二と会うのが怖い。わかっているからだ。しかも3年前とは状況が違いすぎる。


 とりあえず下の缶はそのままにしておこう。私はこの前ここにしまった風月堂の缶を手に取った。


 カン。


 鈍い音がした。そこに入っているものはこんな大きいものにいれるものじゃない。それはわかっている。けれど、この缶が一番いいのだ。私の中で封じ込めるには。


 蓋を開ける。そこには財布と指輪が2つ入っている。ペアリング。私と公世がつけていたものだ。そして、黒い長財布。公世がつかっていたもの。私がプレゼントしたもの。中身は入っていない。ぺちゃんこになっている。私にとってこの財布は思い出だ。


 公世はいつも私に何かを買いに行かせる。その時この財布を投げてくるのだ。いくらつかってもいい。そういう思いで私に投げてくれるのだ。うれしかった。


 傍から見たらくたびれた財布と傷がいっぱいついている何の特徴もない指輪だ。でも、私には語りつくせるくらいの話しがつまっているのだ。そして、もう一つ。私が使っていた手帳。そう、そこには日記が書いてある。


「お前天然だからさ、日記でもつけたらいいじゃんか。そしたら忘れないだろう」


 公世にそう言われたのだ。だから日記を書き始めた。一人暮らしで公世を待っているだけの日々。だから私は一人の時間に日記を書くようにしたのだ。


 そして、公世がその日記にいつのまにかコメントを書くようになったのだ。私たちはすれ違いをどうにかしようとしていたのだ。でも、そんな努力は結局何にもならなかった。私は癖のある公世の字を見て気が付いたら泣いていた。


 そう、わかっていた。人って多分戻れないってわかるからこそ余計に悲しくなるんだ。だって手を伸ばして戻れるのなら悲しくなるより必死になるはずだから。


 どうしようもないってなって。それを痛感して、初めて悲しめるんだ。


 泣いていたら携帯がなった。波多浩二からだ。


「いつでもいいよ。まあ、早く渡せたほうがいいだろうし。電話してもいい?」


 そう思っていたら電話がなった。思わず取ってしまった。


「やは。電話出た。やったね」


 速攻で電話を切る。きららだった。びっくりした。波多浩二かと思ったからだ。だが、波多浩二だったらどうしただろう。同じように電話を切っただろうか。わからない。


 また、電話が鳴る。


「もう、電話してこないでよ」


 私はそう言った。


「悪かった。今、まずかったのか?」


 電話の相手は波多浩二だった。


「ううん、そんなことない。ちょっと間違えただけ」


 そうなのか。私は波多浩二と話したかったのだろうか。わからない。でも、わかっている。これもかさぶたなのだ。はがさないといけない。勇気がないライオンなはずなのに、かさぶただけははがしてしまう。それが余計に傷を広げることになるってわかっているのに。


「そうか、ならよかった。そう、公世から手紙を預かっているんだ。渡さなきゃと思いながらいつがいいか思っていたらこんなに時間が経ってしまったんだ。ゆるしてくれ」


 気を遣いながら話しているのがわかる。そんなに私はコワレモノみたいなのだろうか。ワレモノ注意とかシールが貼られているのだろうか。


 公世なら関係なく俺様的にくるはず。例えどんな状態でも。自分が悪かったとしても。そのくせ気を遣う。


「いいよ。だって私もそんな手紙があるなんて知らなかったんだし」


 そう言いながら胸が痛くなってきた。知らないからだ。あれだけ一緒に過ごしていたのに、あれだけ話し合ったと思って、分かり合ったと思っていたのに。多分私はわかったふりをしていただけなのだ。違う。わかったと思い込みたかっただけなんだ。


 知らないことだらけだ。一緒に居ても公世は強がって、その癖不安で震えている。不安だから頑張るし、そのプレッシャーでつぶれそうになる。でも、プレッシャーがないとダメになる。


 だから私はいつだって優しく抱きしめるしかできなかったし、その苦しみを聞いてあげることもできなかった。


「話したかったら話して。でも、話すのが辛かったらムリに話さなくていいから」


 苦しんでいる公世にこの言葉しか私は言えなかった。そう、言えなかったのだ。知りたいと言う言葉を。もっと私を見てほしいって。わがままを言えなかった。


 だって、あんなに苦しんでいる公世を見て言えるわけがない。その苦しんでいる姿を私にだけは見せてくれたんだ。


 それだけで十分だ。そう、誰になんて言われたってそれで十分なんだ。


「もうちょっとしたら練習なんだ。練習終わってからでいいけど会えないかな?」


 会う?私が波多浩二と。それは避けたい。いや、私は昔確かにこの波多浩二をいいなと思ったことはある。でも、あの事があったというのにどうして何もなかったかのように電話できるんだろう。わからない。私がおかしいのかな。


「ちょっとまだ外に出るのは」


 というか、外に出るというより波多浩二に会いたくなかった。まだあの事は消化できていない。


「そうか、なら今度郵送するよ」


 そう、多分今日会ったとしても手紙は手に入らない。そういうことなのだ。誠実そうに見えてそうじゃない。私だって学習できる。


「お願いね」


 私はそう言って電話を切ろうとした。波多浩二が言う。


「俺、今でも君のこと好きだから。だから待っている。君が俺を見てくれるまで」


 そう言って電話は切れた。


 どうしてこんなに自分勝手なんだろう。気遣ったセリフを言いながら嵐を残していく。


 だから私は波多浩二が好きになれない。そっとしておいてほしいのに。私は気が付いたらクローゼットの奥に3年前から置いてある風月堂の缶を投げつけていた。


 ものにあたっても何もかわらない。でも、そうでもしないと私が私で無くなりそうだった。


「どうにかしてよ」


 誰にも届かないセリフをつぶやいてしまった。


 しばらく私は膝を抱え込んで座り込んでいた。目の前で携帯が何回か光を点滅させた。けれど、どうでもよかった。どうして私はこんなことになっているのだろう。


 どうにかしたい。けれど、何が私を縛り付けているのかわからなかった。


 私はそのまま眠りについた。薬を飲んで眠りにつく。そう、深く眠ればまた変わると思った。


 そう、公世が言っていた言葉を思い出した。


「Tomorrow is another dayってどう訳す?」


「へ?公世って英語できるの?」


「違うよ。映画のセリフさ。このセリフってどういう意味だと思う?」


「明日は違う日ってことでしょ」


 私はそんなに難しい文法じゃないと思った。知らない単語もないし。でも、これ何の映画のセリフなんだろう。


「んで、これは何の映画のセリフなの?」


 私は確かに聞いたはず。でも、覚えていない。そういうものだ。だって、教わるより一緒に見たいから。


「んで、それがどうしたの?」


「いやな、これは『明日は明日の風が吹く』とか『明日に希望を託して』とか訳があるんだけれど、俺は『明日は今日と違う一日なんだ』でいいと思うんだ」


 そう言った公世の顔は笑っていた。


「え?私が言ったのとかわらなくない?」


「変わるんだよ。だってな、どれだけつらい今日を過ごしたとしても寝て、起きたら違う一日なんだよ。だからさ、まったく違う自分になって違うことをしたってもいいわけだろう。


 俺な怪我をした時もう無理だと思った。今までの期待に覚悟を持っていたのに、その期待にもこたえられないと思った。その後に親父の事件だろう。もう目の前真っ暗さ。


 でもな、その時にこのセリフを思い出したんだ。んでも、この訳のままでもいいけれど、自分なりに変えてみようって思ったんだ。そうしたらさ、なんか頑張れたんだ。だからな、もしみさきがつらい時があったらこのセリフを思い出せ」


 眠れなかった。でも、公世と過ごした時は私の中に染みわたっている。気が付いたら涙が流れていた。


 もういい。このまま頑張って寝てしまおう。そしたら違う日になる。違う私になれるのかな?


 ねえ、公世。私は違う私になれると思う。もう、私の中は公世のせいで変われそうにもないよ。





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