~高校時代(6)~
~高校時代(6)~
「あんなヤツだったんだ。最低だよね」
「ちょっとサッカーができるからって偉そうになってさ」
「私見たことあるよ。真っ赤な車に乗った女といちゃついている所」
「なんかトラブル起こして学校退学したんだって」
そんな噂が流れていた。
私の周りにも聞こえる。嫌になるくらい。みんな手のひらを反している。
でも、悪いことばかりじゃない。美紀が私に謝ってくれたのだ。
「あんな悪いヤツ私好きになりかけていたんだ。みさきも被害者だよね。ごめんね」
仲直りは出来たけれど、それは違う。まあ、確かに被害者と言えば被害者だけれど、加害者は公世じゃない。あのおでこ会長だ。というか、この状況は公世も被害者なんじゃないの?
でも、公世はもうこの学校にはいない。悪という名を背負っていなくなったのだ。本当は違うのにでも、私はその「違う」という思いを叫べなかった。この大きな流れに抵抗することができなかったのだ。
だからなのかわからない。胸が苦しいのだ。これは罪悪感だ。公世を踏み台にした罪悪感。だから私は知りたかっただけ。そう、罪滅ぼしをしたい。でも、その公世はもう学校にいない。では、どこにいるの?
よく考えたら私は公世のことを何も知らない。どこに住んでいるのかも知らないし、連絡先だって知らない。
教師に聞く?でも、どういう理由で聞けばいいんだろう。この変な噂だって教師が知っているのかもわからない。まあ、知らないんだろうな。私がピンボールになっていたのだって気が付いていなかったし。だから、無理だ。
「でも、うちのサッカー部はもう試合には勝てないんだろうな~」
美紀がそう言った。
そうか、サッカー部の人に聞けばいいんだ。私はそう思ったら走っていた。グラウンドに。
どの時間でもサッカー部は練習をしている。でも、前みたいにギャラリーはいない。公世がいないだけでこんなにも変わるのかと思った。けれど、誰に話しかけたらいいのだろう。
そう、思っていたら話しかけられた。
「君はこの前に来ていた子だよね。公世を訪ねに来ていた」
そこには背が高い、ひょろ長い、濃い顔をした男。そう昔かっこいいと思っていた男性。波多浩二が居た。
でも、かっこいいと思っていたはずなのに、今見るとなんだか物足りなさを感じる。まるでテレビや雑誌でかっこいい人を見るのと同じように遠いのだ。いや、私の心の中に何か別の何かがあるのだ。
「あの、公世の連絡先教えてくれませんか?もしくは公世の家を」
私はそう言った。知りたい。もっと知りたい。そして謝りたい。謝れば多分この胸の痛みもなくなるはず。罪悪感で息もできないくらい、食事ものどが通らなくなるなんて初めて知った。
まあ、痩せられていいのかもしれない。だって、あんなにやせたいと思っても痩せられなかったのに、今は痩せていく感じがする。実際体重計に乗っていないからわからないけれど、この数日でやつれたとお姉ちゃんにもお母さんにも言われた。お父さんは「そうか?」と新聞を見ながら話していた。面白いのがちらちら新聞を動かして私を見ていたことだ。そんなに見たければしっかり見ればいいのにとか思ってしまった。
「何?君は公世のことが許せなくて鉄槌でも降ろしたいのかい?」
ふいにそう言われた。そうだ。私はひょろ長い波多浩二に話しかけていたのだ。
「いいえ、あんな噂はウソです。だって、私が知っている公世は違うから」
そう言いながら何が違うのだろうとか思ってしまった。確かに公世はちゃらんぽらんだし、ちゃらいし、王様みたいだと思っていた。でも、今の状況は何か違う。こんなのおかしい。だって、居ない人をただ悪者にしているだけだから。
「だから、謝りたいの。私をかばうために何も言わずに去ったのなんて、嫌だから。胸が痛いの」
そう、罪悪感で。だが波多浩二はこう言ってきた。
「恋だね」
鯉?池にいるやつ?私は鯉みたいな顔をしているのだろうか?そんなこと言われたことがない。
それとも口をパクパクさせていたのだろうか?いや、そんなにいやしくない。そりゃ、お菓子とかもらったら真っ先に食べるけれど、そんなのは家の中だけでしか見せていない。
「違います。私は鯉じゃないです」
「は?まあ、いいか。そんなに気になるのなら公世の家にでも行ってみたら?でも、早く行かないと公世はいなくなると思うけれど」
何?どっかに逃げるのか?逃げる前に捕まえないと謝れない。というか家の場所を知らない。
「公世の家ってどこ?」
「え?それも知らないの?君って公世ファンクラブの人じゃないの?」
「あんなのと一緒にしないでください」
そう言ってから周りを見渡した。よかったおでこ会長はいない。いたらまたピンボールにされる。あれは本当に勘弁してほしい。結構あれ気持ち悪いんだ。というか、一度あのおでこ会長もピンボールを経験してみればいいんだ。まあ、私ならあのおでこをたたき続けるだろうけれど。ぺちぺちと。
「そうなんだ。ああ、そうだ。よかったら連絡先教えてよ。メールで公世の住所を送るから」
そう言われて、私は普通にアドレスを教えた。そういえば、公世の連絡先も知らない。
「ねえ、よかったら公世の連絡先も教えてよ」
「それは公世に聞いてからだな」
「じゃあ、公世に私の連絡先を伝えてください」
「ああ、いいけど。あいつめったに連絡よこさないぞ」
そう言われたけれど、気にしなかった。だって、別に私はそんな連絡が取りたいわけじゃない。ちゃんと謝って、この胸のつかえを取りたいのだ。こう気持ち悪いんだ。心臓がどきどきして、不安で胸が押しつぶされそうになるのだ。
こんな中途半端に終わったらずっと引きずりそう。
カシャ。
変な音がした。
「へ?何?」
そう思ったら波多浩二が私を携帯で撮っていた。
「何しているの?」
「いやな、公世にお前の住所を教えていいかってメールしたら、その女の写真を撮って送ってくれって言われてな」
笑いながら波多浩二はそう言ってきた。
しばらくしてメールが来た。住所が書かれてあった。
「早いね、住所送ってくれたんだ?」
「いや、俺送ってないぞ。ってか見せてくれ。それ、公世のアドレスだ」
「そうなんだ。じゃあ。ありがとう」
私はそう言って、公世のアドレスを登録した。そういえば、さっきメールをもらった波多浩二はまだ登録してないや。まあ、連絡のやり取りをするとも思えないからいいか。
とりあえず、私は公世から来たメールに書かれた住所を元に移動をした。
まあ、実際場所がわからなくて迎えにきてもらったんだ。
そう、あの神社まで来てもらった。というか、私はその神社で待っていただけ。
しばらくすると公世がやってきた。片足を引きずっている。あの時と違うのは雨が降っていないのに、どうしてか私はあの時と同じように全力ダッシュをした時みたいに顔が赤くなって心臓がバクバクいっている。
私、病気なのかな?そう思っていたら公世がこう言ってきた。
「おい、一人か?」
私は周りを見渡した。誰か私以外にいるのだろうか?それとも私に見えていなくて公世には見えているのだろうか?
「一人だけれど、公世には誰かいるように見えるの?」
私はびっくりして周りを見た。神社だし出るのかな?
「んなわけあるか。いや、浩二がいるんじゃないかってちょっと思っただけだ。一人ならいい。んで、なんで謝りたいとか言うんだ」
なんで?なんでって言われると難しい。
「ってか、どこか行くの?というか、なんで退学したの?」
「おいおい、俺の質問は無視かよ」
「いから答えてよ」
私はそう言いながら気が付いたら涙が流れていた。あれ?私なんで泣いているんだろう。しかも公世の胸を気が付いたらたたいている。しかもまるで抱きつくみたいに。なんでこうなったんだろう。わからない。でも、なんか自分がまるで別人になったみたい。制御ができない。何を言うのかも自分の中でまとまっていない。なんだろう。わからない。でも、これだけはわかる。
公世がどっかに行くのはイヤだ。
公世が誤解されたままなのはイヤだ。
公世と一緒にいたい。いたいの?私。
あ、公世が痛いやつなんだ。うん、そうそう。そうに違いない。
「痛いのよ」
私は気が付いたら公世をたたきながらそう言っていた。
「お前むちゃくちゃだな。人殴りながら痛いって。まあ、本気で殴られているわけでもないし、そんなに痛くないからいいけれど。まあ、なんだ。ちょっとは落ち着けよ」
「落ち着いているわよ」
言っていることと気持ちが合わない。制御ができない。なにこれ?私ってこんなにめんどくさい奴だったの?
「わかった。わかった。落ち着いている。とりあえず、まず退学はした。学校に居られない事情が出たからだ。その事情のせいで俺は引っ越しをする。それも明日だ」
「私のせい?私のせいなの?」
私があのままおでこ会長にピンボールになっていればよかったのかな。
「違う。俺の家族の問題だ。最低だ。親父が最低なことをしたんだ。俺の試合で賭け事をしていた。それが表ざたになりそうになった。俺に八百長をしろと言ってきた。無理だといったら親父が賭博のことを公表とすると言われた。だから顧問にも相談した。
結果、俺が自主的に学校をやめることで学校は丸く収まる。まあ、俺は退学をするけれど、事業団でサッカーはさせてもらえるみたいだけれどね。後は夜間高校にも通える。
サッカーするのは今はリハビリもあるから春からになるだろうけれど。親父はあの後行方不明。両親はは離婚。まあ、そんなことだ。だからお前は何も関係ない」
公世はそう言って空を見ていた。強がっているけれど目から涙が流れそうに見えた。いや、流れていないけれど。そうだよね。あの公世が泣くわけないじゃない。
「でも、学校で公世悪者になっている。私でも何もできなくて」
なんか言いたいことがまとまらない。公世が言う。
「いいよ。俺別にあの学校にもういられないんだし、悪者でもなんてもいい。みさきがそれで救われるのなら。なんでもいいよ。それに、そうどうだっていい」
そう言った公世の顔はなんかさみしそうだった。
「わかった。じゃあ、私追いかける。公世を。そんなさみしい顔した公世を見たくない。公世ってこう俺様って感じがいいんだし」
「はあ?俺のどこが俺様って感じなんだよ。ふざけんなよ」
そう言った公世の顔はいつも通りに見えた。
「うん、公世はそのほうがいい。それに私が勝手に追いかけるんだから気にしないで。それにこれはもう決めたことだから」
私は言いながらどこかすっきりしていた。まず、美紀にちゃんと言わなきゃ。それだけ絶対。
「結構遠いぞ。まあ、期待せずに待ってるな。後で次の住所もメールしといてやる」
そう言って、公世は笑いながら去って行った。すぐにメールが来た。住所を見てもどこか全然わからなかった。
地図で調べると結構遠いことがわかった。新幹線にも乗らないといけない。在来線も乗る。知らない街。遠い街。とりあえず、電車でいくらかかるのかを調べた。
これはコンビニのバイトだけで大丈夫なのかな。とりあえず、頑張ろう、シフトを増やしてもらおう。でも、夜遅くは働かせてもらえないんだよね。あの店長結構うるさいし。「高校生は夜働かせられないんだよ」とか言うんだもの。その癖、タイムカード切った後にお願いを言ってくる。
最低だけれど、バイトは大事だ。後、一人暮らしになるんだろうな。一体いくらかかるのだろう。とりあえず、住むとか探さなきゃだ。
頑張らなきゃ。
私はその思ったことのむずかしさを知らなかった。そして、味方はやっぱりいないのだと知った。




