消えた星 捕らわれ
こちらは表現を規制させていただいております。
【ノクターンノベルズ】の「皇女の猫【解放版】」に完全な形で掲載しておりますので、そちらをご覧ください。
本日で投稿から1年となりました!
今日まで書き続けられたのも、この作品を読んでくださる皆様がいたからです!
様々な作品で溢れかえる昨今ですが、このお話を選んで頂いたことに感謝を。願わくば引き続き愛読いただければと!
よろしくお願いいたします。
「ん、うぅ・・・・・・」
クリステルは僅かばかり瞼を開けた。頭痛が酷く、いつもより頭が胡乱でいる。視界はいつまでもぼやけたままで、息をするのも苦しい。どうやら椅子に座らされているらしい。
痛みに耐えながらゆっくりと記憶を手繰る。リラの家で銃を手にした瞬間、ゴッという衝撃と共に意識が遠のいていって――あれは殴打の音だった。
「起きたかい、お嬢ちゃん」
何が起こったのか、と疑問を抱く前に聞こえた声で体が強張る。思わず身を丸めようとしたが、両腕が動かなかった。ギギギ、と縄が軋む音がする。徐々に鮮明になっていく瞳に胸元の縄が映った。腕は後ろ手縛りをされているようだ。
「こ、これは――いたっ」
僅かな身じろぎをしただけで頭の芯に痛みが走った。そうとう強く殴られたらしい。かろうじて動かせるのは目だけであった。
「あんまり動くと倒れちまうぞ」
声のした方を見ると、椅子に座った褐色肌で髭面の男が睨みつけるような視線を送っていた。なんとも陰険な顔つきの中年男である。
置かれている状況が分かった途端、心臓が早鐘を打って体が震える。
「あなたは?」
「ああ、俺の名前なんて知る必要ない。名もない一人の兵士だよ」
仏頂面の男は言う。
「ここにいる全員がそうさ、ただの名もない兵士になっちまった。俺たちはなシャシールって国で兵隊をやってたのさ」
シャシール。ピアがいた国だ。ヴェルガに呑まれ、消えた国だとクリステルは息を飲んだ。
「知ってるだろ? ヴェルガに潰された国だよ。お前の国になクリステル・シェファー」
「っ!?」
正体がバレている。
今は変装もしていなければ外套すら纏っていない。極度の緊張が寝ぼけていた頭に血を巡らせた。
「驚いてるな、でも驚いたのはこっちも同じだ。まさかちんけな村の小娘がこんな素晴らしい贈り物をしてくれるとは思わなかったぜ」
底気味の悪い笑みを男は浮かべる。
歯を噛みしめて目を伏せていたクリステルはあッと声を上げた。
「リラさん、彼女は? 彼女は無事ですか?」
「おいおい、お前をどついてここに連れてきた奴の心配かよ――まあいい、お前が置かれてる状況ってのを教えてやるよ」
笑っていた男は足を組み直し、表情を石のように硬くする。
「ヴェルガに国を奪われ、軍籍をはく奪された俺はもう大尉ではない。ここにいる連中も中隊ではなくなったよ。軍務に就いたシャシールが地上に存在しなくなった時、泥を食うような情けない生活が始まった。惨めで情けない生活だ――俺たちは誓った、この思いをヴェルガにも味合わせてやるってな。ここへ来たのもそのためだ。
ヴェルガには何人か要人を潜り込ませてある。その一人がヴェルガ軍の愉快な遠足の予定を知らせてくれたのさ。アーバン国、この村から数キロ離れた場所に小隊を送り込んでるってな。何が目的かと聞けば、ちっぽけな石っころのためだとよ。
来るのはシュタインの部隊だ。俺たちの国で民間居住区に爆弾をばらまきやがった野郎が来る。俺たちはそいつらを皆殺しにして、なんだかわからねえ石を奪ってやろうとしてるのさ」
髭面の男は葉巻を手に取って火をつけた。
クリステルはそれをぼんやりと見ながら悲しみに暮れた。
ヴェルガ軍がシャシールで病院にまで爆弾を落としたことはピアの話で知っている。この男は深い悲しみと憎しみに捕らわれているのだ。それを生み出したのは自国の兵士なのである。
「この村に来たのは、ヴェルガ軍への報復のためですか」
「そうだ」
「・・・・・・この村で、リラさん達に酷いことをしているのはあなた達ですか。関係のない人たちを巻き込んで」
「兵士も人間、気晴らしが必要だ。女と酒と飯を提供するのは上官の義務だ。リラと奴の妹のユーリアは情婦になってもらった。妹の方は男どものお気に入りでここに住まわせてる、姉の奴はなんでも言うことを聞いたな。そんな奴を助けたのが運の着きだ、あいつは爪の先まで俺たちの仲間なのさ」
男の口端に深い二本の皺が浮かんだ。嘲笑の笑みと、底気味悪く沈んだ視線をクリステルに向ける。
「惨いことを・・・・・・」
胸の底を突かれる思いであった。ヴェルガは狂国となり、多くの人々に恐れを植え付けてしまった。結果として殺す、奪う、犯す、などといった人間の闇を浮き彫りにしているのである。
「ようやく俺たちにも運が向いてきたってわけだ」
男はクリステルの嘆きなど全く意に関さずといったように言う。
「シュタインの部隊とお前の仲間はここで皆殺しだ。俺たちはお前と石、両方とも手に入れ、必ず返り咲いてやる」
えっえっえ、という忍び笑いが響いた。
その笑い声は本当に不気味であり、クリステルの首を真綿で絞めるような苦痛を与えた。
そこへ奥の部屋からリラが現れた。隣には衣服や髪が乱れた少女がいる。幼い顔立ちながらもリラと似ていた。リラに肩を借りてヨタヨタと歩く姿から満身創痍が伺える。どのような目に遭ってきたのかは明らかであった。
この男が率いる者達に、悪意と本能を向けられていたのだ。あの小さな体で耐えるにはどれほどの――
クリステルの冷たい腹の底に無念の情がまざまざと染みた。
「よお、お手柄だったな。お前たちの役目は終わった。ご苦労さん、もう行っていいぞ」
男はそう言った。
リラ達は解放されるのだ。
クリステルは深く息を吸って吐き出した。よかった、一息ついた彼女はそう思った。
男に言われたリラは面を伏せながらもさりげなくクリステルを見た。
生々しい無残な視線を送られると覚悟したリラが見たものは、他者を慮っている瞳であった。こんな男たちに捕らえられれば、どうなるかは予想がつくというもの。しかし、クリステルは胸のつかえが一つとれたような表情を浮かべていたのである。
その瞳が、亡き母の言葉を蘇らせた。
リラは過去に一度だけ盗みを働いたことがある。流行り病にかかった母のために薬を盗み出したのだ。貧しい生活の中で止むに止まれぬ行動であった。
一度だけ、神様だって許してくれる、だってこれはママのため。
ママ、これで元気になって、そう差し出したが、薬をどのように入手したのか問い詰められた。やむを得ず真実を告げた途端、やせ細った母の手で頬を打たれた。
『バカなことを――リラ! こんなこと二度としないで!』
なぜ母が激怒したのか、リラにはわからなかった。理不尽だと思い怒りすら湧いた。
なんで怒るの? ママはガリガリに痩せて、毎日辛そうじゃない。友達のママはみんな元気だよ、ママみたいに血を吐いたりしないよ? なんで私のママだけ、そんなの不公平じゃない。
『私はただママに元気になってほしかっただけなの!』
訴えは届かず、母は薬を飲まなかった。そうして早春の朝に母は逝った。父も国の戦争に取られて、帰ってはこなかった。
いいもん、いいもん。私は私のやり方で妹を守って生きていくもん。
そのように心を鉄にして生きてきた。
その心の柔らかい部分。クリステルの瞳は、柔らかく温かな部分をきゅっと掴むようで、切なさや息苦しさがこみ上げてくるのだ。
「悪く思わないでよ。仕方なかったんだ、ユーリアが人質に取られてたから・・・・・・」
誰に咎められてもいないリラは、堪えきれずそう言った。
「ああそうさ、お前は悪くない。出しゃばったバカな小娘の末路ってだけだ」
男がそう言いながら、とっとと消えろと言わんばかりに手を振る。
リラはそのまま黙って、俯いてしまった。
「ごめんね、許してなんて言えないけど」
「そう暗くなるな、お前のおかげで笑顔になる奴らも大勢いるぜ。こいつは買い手数多だからな」
事の運びに心をくすぐられた男は上ずった声でそう言った。
眉をひそめたのはリラである。この男が愉快そうに笑っている所など見たことがなかったし、妙な言い回しにも引っかかるものがあった。
「・・・・・・買い手数多って、なんのこと?」
男はリラをちらりと見やって目を細めた。
リラは恐ろしくなって咄嗟に妹を庇った。機嫌を損ねると、殴られてしまうのだ。
訪れるはずの痛みを待ったが、いつまでも殴られる気配がない。徐々に体の緊張が解けた時、男は弾んだ声で言った。
「ああ、お前は新聞買う金もねえから世情には疎いか。最後に教えといてやるよ。お前が騙して連れてきたこの女はヴェルガ国皇女、クリステル・シェファー様よ」
「えっ!?」
ハッとしたリラが驚愕に顔を上げる。
「クリステルって、うそ、だって名前はクレアって」
「んなもん嘘に決まってんだろうが。こいつの国に恨みを持ってる奴はごまんといる。国の象徴たる皇家の人間を殺そうとするやつも多い。そいつらにこの女を生きたまま渡したらとんでもない高値がつく、その金があれば返り咲くこともできる」
男の言葉を聞いていたリラは、あまりのことに空間の一点をただ見つめていたが、何事か思い決したようにかぶりを振った。
「ま、待って! 約束が、約束が違う! ちょっと懲らしめるだけだって、殺しはしないって言ってたじゃない!」
「ばか野郎、状況が変わったんだよ」
男は立ち上がりクリステルの胸倉を掴み上げると、座っている椅子を蹴り飛ばした。
「あっ」
クリステルの足は宙に浮いた。ゴツゴツと膨らんだ拳に圧迫され、胸を押さえつけられるような息苦しさに襲われる。
「うっ、かはっ」
胸部を圧迫されたクリステルの顔は次第に赤くなり、固くなった体は小刻みに震えている。
「恐いかよ、えぇおい」
「・・・・・・っ」
「なんだあその目は。余裕の顔をしてやがるな」
「よ、余裕だなんて」
言葉を待たず、男はブンと放り投げた。なす術もなく背中から床に叩き付けられる。ドタン、と弾んだクリステルは身を縮ませて悶える。
「・・・あァっ・・・・・・」
「本当ならヴェルガに身代金でも要求してえが、こいつは自分の国からお尋ね者にされてる。人質にもなりゃしねえんだよ、使い道と言ったら売り飛ばすことくらいだ――どれどれ、背中打って息ができねえかい?」
「ウっ!」
男はクリステルの腹を蹴って転がし、仰向けにすると、スカートの中に足を入れた。
「ちょっくら訓練しとくか? いきなり変態共の相手するんじゃまいっちまうだろ?」
屈みこんだ男がぎゅうっとクリステルの胸を握る。
「どうだおい?」
「お・・・おねが・・・・・放して」
さすがにクリステルの声が震えを帯びた。
おまけ
【悪夢】
ピア「ソニアさんだけ私のことがわかるなんて不公平です」
ソニア「そんなこと言われても、こういう力があるんだもん」
ピア「公平か不公平で言えばどちらだと思いますか?」
ソニア「いや、うん。不公平かなー」
ピア「ですよね、なので私もソニアさんの心を読みたいと思います」
ソニア「え・・・」
ピア「この外科用ドリルで額に穴をけ、外科用ストローで脳を吸いだします。ソニアさんの脳を取り込めば、考えてることがわかります」
ソニア「ま、待って待って! おかしい! ってゆうか外科用ストローってなに!?」
ピア「外科用のストローです」
ソニア「あ、うん。誰が作ったのそれ? あのさピアちゃん、鳥肉食べても翼が生えないように、私の脳を食べてもなにもわからないと思うよ?」
ピア「食べるのではなく吸うんです!」
ソニア「えぇ・・・」
ピア「私は医者です、不可能を可能にするのです。さあソニアさん、さあさあ!」
ソニア「いやぁ! いやいやぁー!」
ソニア「うわぁあああ!」ガバッ
ソニア「ゆ、夢落ち」
※子供の頃に木曜洋画劇場でみたスターシップトルーパーズは未だにトラウマです。




