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皇女の猫【抑制版】  作者: WAKA
アリス篇
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捕われのアウレリア 2

こちらも一部の表現を規制しております。

 アリスがこれまでにない底気味の悪い笑みを浮かべる。

 その笑顔がアウレリアの怒りに火をつけた。


「お姉さまになにかしてみなさい! わたくしはあなたを許しませんわ!」


 肩に掴みかかりそう言った瞬間だった。

 アウレリアの体はくるっと反転し、勢いそのままに床に叩き付けられた。


「あぶっ」


 情けない悲鳴が零れたが、それよりも驚愕でアウレリアは動けない。

 厳しく躾けられることはあるが、地に叩き付けられる屈辱は味わったことがなかった。 怒りを露わに、立ち上がろうとしたその時である。


 アウレリアは自分に向かって振り上げられた足を見た。


「うっ!」


 アリスはアウレリアの背中を蹴飛ばした。

 やめて、と叫ぼうとしたが間に合わなかった。背中には経験したことのない痛みがのたうっている。その痛みにアウレリアは声を詰まらせる。


「許さない? どの口が言うのかしら」


 アリスは容赦がなかった。

 立ち上がろうとしたアウレリアの臀部をさらなる力を込めて蹴り飛ばす。


「あっ! うぐ!」


 あまりの衝撃に手で支えることもできず、顔から床に激突する。

打ち付けたおでこが痛み出し、鼻にツンとする痛みを覚えた。悔しさで目じりに涙が溜まり始める。


 アウレリアは人前で決して涙を見せない。自分自身に言い聞かせ続けていたことでもある。だが経験したことのない苦痛は精神を弱らせるのだ。臀部を蹴飛ばされて地に這いつくばることは、皇女として生きてきたアウレリアのプライドを引き裂いた。あまりのショックに流すまいと誓った涙が浮かんでくる。


「今この場所で優位なのは誰? 賢いアウレリアならわかるわよね?」

「っひ」


 皇女を平気で蹴り飛ばすような人間に恐怖する。皇務を担うアウレリアにはいくつかの権限があり、それを力として利用することも可能である。しかし、今この場で暴力に抗う術は持ち合わせていない。


「さあ、言いなさい」

「・・・・・・」

「なに? 聞こえないわ」


 アリスが踵で臀部を踏みつける。そのまま力を込められると、かつてない痛みが走った。


「いっ! いたっ! お尻、痛い」


 思わず臀部に手を回しアリスの足を退けようとしたが、それが気に入らなかったのか余計に強く踏みつけられる。


「はぁっ! くぅ」

「このままお尻を潰してあげてもいいのよ?」

「きゃあっ! いた、い」

「どっちが上かって聞いてるんだけど」

「あなたです! アリスですわ!」


 気が付けば叫んでいた。


「随分と答えるのに時間がかかったわ、まったく駄目な子。じゃあ次よ」

「つっ次!? ああっ!」


 アリスはつま先でアウレリアの股を突きあげた。


「情けない、この程度で悲鳴を上げちゃって」

「あっ、あんっ! んんっ!」

「私の質問に答えなさい」

「うう」

「返事」


 ぎゅぅう、と力が込められる。


「きゃっ! はいっ! はいっ!」


 先刻の臀部のように押し付けられたらどうなるかわからない。アウレリアは恐怖から従うしかなかった。


「どんな気分?」

「っく、ひっ」

「泣いてる暇なんてないと思うけど」

「あああっ!」

「皇女が惨めなもんね、でしょ?」

「――はい」

「惨めだと思うなら口に出して言いなさい」

「惨めです、わたくし惨めですわ」

「ふふ、きちんと答えられたアウレリアに世の中のことを教えてあげる。戦いに負けた女はこういう目に遭うのよ。あんたはお高くとまって皇室から高みの見物をしているだけだけど、命を懸けて戦っている人は常にこういう恐怖と隣り合わせなの。ずっと安全な生活を続けてきたあんたには想像もできないでしょう? 私たち兵士が戦争に勝利したからこそ、あんたはその利益で甘い蜜が吸えているの――ねえ、本当に偉いのは誰かしら?」

「あなたたち、兵士ですわ」

「そうじゃないでしょ」

「あぁっ! やめ、て!」

「偉いのは誰?」

「あなたです!」

「よくできたわね」

「んっ! はぁはぁ」


 ようやくアリスは足を退けた。


 その瞬間、全身にどっと汗が噴き出た。恐怖からの解放で張り詰めていた糸が切れたのだ。

手足は震えと痺れで動かない。満身創痍のアウレリアは口から垂れた涎を拭う気力もなかった。


「・・・・・・そうね、あんたが今みたいに素直になって私の言うことを聞くならお姉さまの件を考え直してもいいわ」

「っ!?」

「エルフリーデのところに報告に行こうと思ったけど気が変わったわ。あんたと遊びたくなっちゃった」


 その言葉は悪魔が差し出した甘い果実であった。

 言うことを聞けば姉が救われる。アウレリアの思考は乱れていたが、その言葉は一筋の希望の光となったのだ。


「でも早くしないとまた気が変わっちゃうかも、私って気まぐれだからね」


 これまで理不尽な暴力を受けたことで浮かんでいた怒りは拭い去られてしまった。自分が従えば姉が危険な目に遭わずに済むかもしれない。


 もちろん保証はないが、この場ではそれが最善である。もはやアウレリアの中に、屈辱や恐怖はない。大切な姉が助かるのであれば是非もない。


「時間は有限よ、五秒以内に決めなさい。ごお、よん――」

「従います! 従いますわ!――あなたに、アリスに従います。だから、お姉さまのことは」

「そう、いい子ね」


 アリスは足を退けると、再び力を使いアウレリアの体を引っ張り上げた。


「はぁっ、うう」


 両腕を挙げられ、足はつま先が僅かに床に着くくらいの格好で宙空に拘束される。


「なにをするつもりなんですの?」

「遊びましょうか」


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