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皇女の猫【抑制版】  作者: WAKA
アリス篇
44/170

アリスとエルフリーデ

 こちらは表現を規制させていただいております。


【ノクターンノベルズ】の「皇女の猫【解放版】」に完全な形で掲載しておりますので、そちらをご覧ください。


前回より四年の月日が経過しております。

申し訳ありません、色々とカットしました。何があったかは会話からお察しください。

1905年 セルシア国、ヴェルガ軍侵略により没落


 資源が豊富にあるセルシアはその国力を存分に使って各国に進軍し、植民地を増やしていった。自国の息がかかる領土を増やし、その国々と取引をする他国には高い関税を強いていたのである。


 セルシアの勢いは止まらず、ついにはヴェルガ国の隣国にまで領土を広げようと押し寄せた。セルシアの魔手はやがてヴェルガにまで伸び、しいてはレガール大陸を掌握することは明らかであった。


 ヴェルガはこれを認めず開戦。


 資源の豊富なセルシアに分があると思われていたが、数か月に及ぶセルシア軍の抵抗も虚しく、押し寄せたヴェルガ軍が首都を占領した。


 この時、セルシアの首都を落としたのはエルフリーデ・ランゲマルクである。

 見た目は二十代くらい、軍服を完璧に着こなして優雅に歩く様はどこかの国の姫君を思わせた。まっすぐに伸びた金色の髪が光を反射しながら垂れていて、彼女が歩けば夜であろうと道は明るみを帯びた。

その美貌ゆえに天使や女神などと呼ばれていたが、誰も彼女に触れようとはしない。エルフリーデの纏う異様な雰囲気が、男たちを遠ざけていたのだ。


 エルフリーデはセルシア国首都付近にある刑務所を訪れていた。

 刑務所は高い塀で覆われており、入り口には鋼鉄製の扉があった。

 エルフリーデの側近たちが戦車で扉を吹き飛ばすと提案したが、


「必要ないわ」


 そう言ったエルフリーデが扉に手をかざすと、鋼鉄の扉は丸められた紙屑のようにクシャクシャになった。


 なぜこのようなところへ?


 エルフリーデの側近が聞いた。


「ここから力を感じる。ふふ、私の右腕となるかもしれないほどの力を」


 ヴェルガ軍が押し寄せてきた! そう叫んだ刑務官たちが銃を手に襲い掛かったが、彼らは細切れに飛び散り、あるいは縄状に絞められて息絶えた。


「お前たちは残りを片付けなさい。ああ、話が聞けそうなものは残すこと、そのあたりの判断は大丈夫よね?」


 側近たちはエルフリーデの言葉に頷くと、燕が飛び去るがごとく去っていく。

 側近たちと違い、エルフリーデは堂々と足音を立てて廊下を進む。彼女に立ち向かった者達の血を搾り取り、踵で肉片を踏み散らしながら。


 常より優雅に振舞う彼女が靴底の汚れを無視してまで進んでいく。逸る気持ちを抑えきれないのは、この建物内に眠る大きな力に惹かれているため。


「ここね」


 エルフリーデはとある部屋の前で足を止めた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ガチャ、と扉が開きました。

 闇に目が慣れすぎていたので、外の光は眩しすぎます。


「・・・・・・なんてこと」


 扉には軍服を着た女の人が立っていました。その人は私を見て表情を歪めます。

でも、歪んでなお美しい顔立ち。とても綺麗な人です。私がここに連れてこられてから、普通の女の人を見るのはこれが初めてでした。だから余計に綺麗と思えたのかもしれません。天使や女神という言葉はきっとこの人のためにあるのだと思いました。


「あなた両足がないわね、生まれつきなの?」


 私は何も答えません。答えられません。

 半月前に舌を切られたから。


「マリア」


 女の人が言います。


「彼女のために変態共と戦ったのね・・・・・・」


 綺麗な声で、まるで見ていたかのように、悲痛な眼差しを私に向けながら。


 言葉はヴェルガ語です。マリアから教わっていたので、何を言っているのかはわかります。


「※あなた。ここまで這ってらっしゃい」※以降はセルシア語で会話


 女の人は手の甲を私に突き付けます。

 私はこの四年間、言われたことを守って生きてきました。

 抵抗をしたこともあったけど、両足を切られてからは服従するようになっていました。命令されたらその通り動くように習慣がついていたのです。犬のように躾けられていました。


 けど、ここまでいらっしゃいだなんて。優しく言われたのは本当に久しぶりで。私は縋るような気持ちでその言葉に応えました。ベッドから転げ落ち、両手で床を這って進みます。


「そう、ここに四年もいたの・・・・・・この環境でよく生き延びたわね」


 ズズ、ズズ、と少しずつ進みます。

 時間はかかりますが、ゆっくりと確実に女の人へ近づきます。彼女はひと時も私から目を逸らしませんでした。


 人として見てくれる目はいつぶりでしょう。

 彼女までたどり着くと、手の甲にキスをしました。


「上出来よ」


 女の人は私の顎を手で持ち上げました。


「この国は四年前に革命軍が解体したわ。でも、政治を知らぬ馬鹿どもが頭になったせいで、愚かな道を歩んでいたの・・・・・・だから私が壊した。もっと愚かな国もある、知も才もないゴミが血縁で分不相応な地位を得ることがまかり通る世の中よ、そしてあなたのような才ある人間がひどい目に遭うこともあるわ」


 私は黙って女の人の言うことを聞いています。

 不条理によって私の日常は崩れました。不条理への対抗がなかった私の精神は蝕まれ、体まで奪われて今はこんな状態です。


 悔しい。


 かつて、毎晩のように抱いていた感情。

 それも薄れていましたが、女の人の言葉で蘇ります。


「私と世界を変えない? その覚悟があるのなら頷いて、ないのなら止めないわ。もし死を望むなら、この場で楽にしてあげる。どう? 私と来る?」


 私は首を縦に振りました。


「そう、では覚悟して」


 女の人の唇が私のものと重なります。


「再生の前に訪れるのは破壊なのだから」


 その瞬間、世界が真っ白に包まれました。


「あなたの中で眠っていたものを呼び覚ますの」


 体が熱くなっていきます。

 じんじんと体のあちこちが疼いて、熱くて、痛いです。でも痛みが心地よい。気持ちいい。

 どうしよう私。


 気持ちいい。


 涙が溢れてきます。

 熱さが、温かさに変わる。

 この温かさは、マリアに抱かれていた時の――


「あ、ああっ!」


「魂はそのままに、肉体は生まれ変わる。受けた傷も何もかも元通りよ」


「あ、あ、ああああぁぁぁーっ」


 私は絶叫しました。

 バチン、と音がして私は顔を上げます。そこには私の右手がありました。

 掌がジンジンと痛むにつれて、無意識に右手で床を叩いていたのだと知ります。

 いつだかひどくぶたれた日から私の手は感覚を失っていました。動きはしたけど感覚がないので、自分の手ではないように思えていたのに。


「う、うそ。手の感覚がある――っ!? 喋れる!?」


 口に指を入れると、切られた舌も元通りでした。


「さあ、手を取ってあげるから立つのよ」

「でも、私、足が」


 ズズ、と何かが背後で動きました。振り返るとそこには私の足がありました。


「な、なんで、足」


 足が、足の指の感覚があります。もうずっと感じることのできなかった感覚が戻ってきたのです。


「今日からあなたは生まれ変わるの」

「っはっ、はあ! はぁ」

「落ち着きなさい、ゆっくり息をして」


 見れば私の体は元通りでした。


「そんな、すごい――あなたは、あなたは神様、なの?」

「違うわ。私は人間のすることを俯瞰しているだけなんて無理だもの」


 新鮮な生という活力に満ちています。体が清められ、瑞々しい力で溢れていました。


「私、私の体、元通りだわ」

「いいえ、かつてのあなた以上よ。私と同じ不老の身、そして力を得た」


 女の人に手を取ってもらい、立ち上がることができます。


「なんで、目が痛い」


 目だけではありません、手も足もうまく力が入らずによろめいてしまいます。


「初めて使うからよ、新しい体なんだから」


 体が動く、そう理解した瞬間に私の脳裏に浮かんだものは。


「試してみる?」


「っ!?」


 心を、見透かされました。


「あなたの代わりに私がやってもいいけど。復讐はあまりお勧めしないわ。復讐とは欲。欲は満たせばそこで終わるし、多くを失うもの」


「だめ! 私が! ここにいた奴らはマリアを殺して! 私にも酷いことをっ!」


「そうね、当然の権利」


 彼女は平然と言いました。


「なら行きましょう。さあ、これを着て」


 女の人は上着を私に羽織らせてくれました。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 女の人に支えられて歩いて外に出ると、そこには私を虐めた男たちが地面に膝をついて頭の後ろで手を組んでいます。


「さあ」


 女の人は私の耳元で囁きます。


「あなたの怒りをぶつけなさい。この鬼畜共に思い知らせてやるの」

「怒りをぶつける」

「そうよ、やり方はわかるでしょう」


 私は頷き、睨み殺すように視線を向けます。


 憎い

 憎い

 憎い


 ピギュッ、と卵が割れるような音がしました。

 一人の男がボロボロになって、ズシャっと地面に崩れ落ちます。


「一人」


 ボロボロになった男の隣にいた男が驚愕して叫びます。

 きんきんと頭の奥にまで声が響きます。うるさすぎて眩暈を覚えるほどです。


 うるさい、黙って


 騒いでいた男の目玉がポロリと落ちました。次いで歯がボロボロと抜けて、その後は鼻がボタっと落ちます。そうすると男は余計に喚き散らしました。


 うるさい

 うるさい!


 ピギュっとまた卵が割れる音。


「二人」


 私が言うと、そこからは命乞いの大合唱でした。

 笑ってしまいます。

 あはは、助けを乞う人を痛めつけるのはこんな気分だったんだ。


 死ね


 みんな死んでしまえ!


 三人、四人、五人――

 私が全部終わらせるまで、女の人は髪を撫でてくれていました。

 全て終えると、私はその場にへたり込んでしまいます。


「なかなか筋がいいわ。わかったでしょ、怒りと憎しみはこうやって使うの」

「はぁ、はぁ、はぁ」


 私は深く息を吸い込み、長く吐き出しました。

 もう諦めかけていた地獄を味合わせてやるという望み。それが一晩のうちに叶い、それも十分とかからずに終えることができました。


 悲願の達成。


 笑うべきです、声を上げて高らかに。だってこの日をずっと待っていたから。

 ところが、快感はほんの僅か。それよりもむしろ虚しさを覚えます。

 あの強い怨みは四年もの間、私を励ましてくれていたのだと知ります。苦悩に満ちた日々の中、どれほどの支えになってくれていたのかを思い知りました。


 そして遂にその日が来た。それなのに全てが終わった今、まるで全身の血を抜かれたかのような虚脱感しか残っていません。

 なんで、私は望んでいたはずなのに。


「望みが叶って満足?」

「当たり前よ」

「それにしては浮かない顔よあなた」

「そんなことない、だってこいつらはマリアに酷いことを――」

「そうね、マリアに酷いことをしたわ。これでマリアの魂も浮かばれるわ」


「・・・・・・マリアの魂」


 そうだ、私は。


 マリアさえ戻ってくればよかったのです。


 怨み人を殺したところで、現実は何も変わりはしません。


 マリアはもういません。


「嘘よ、こんなの」


 全部、全部夢ならどれだけよかったか。

 カーテンを開ける音と共に朝日が瞼に染みて、「朝ですよお嬢様」とマリアが言ってくれたら。嫌な夢は忘れて、さあ起きてと言ってくれたら。


「う、うぅ・・・・・・うぅ、ひぐっ、うぁああ」


「泣かないの、馬鹿ね」


 女の人はそう言うけれど、涙が止まりません。私は床に蹲って泣きました。ぼろぼろと涙が零れ落ちて止まりませんでした。

 その時、ふと気づきました。

 こめかみから垂れた私の髪は銀色に変わっていたのです。


「髪が、髪の色が戻らない、マリアが綺麗って言ってくれたのに、髪が、私の髪」


 えずきが止まらず、手の甲で涙を拭っても目から溢れて止まりません。


「マリア、マリアぁぁ」


 女の人は私が泣き止むまでずっとそこに立っていました。

 きっと私はその時に一生分の涙を流したのでしょう。いつまでも、いつまでも泣いていました。

 ついには泣きすぎて咳が止まらなくなり、吐いてしまいました。胃酸が喉の粘膜を傷つけても、嗚咽は止まることがありません。


「げほっ、げほっ」


 咳はまだ止まりません。


「あなたの体は病とは無縁。その分、精神に左右されるから気をつけなさい。弱気は捨てないと深刻な病にかかるわ・・・・・さあ、泣き止んだのなら立って」


 女の人は再び私の手を取って引っ張り上げてくれます。


「私はエルフリーデ・ランゲマルク。あなた、名前はなんていうの?」

「私は――」

 

 マリアを奪われた日から、もう私には何もありません。

 残っているのは彼女との大切な思い出。時間だけで言うのなら、遠い昔のこと。


 お嬢様も誇り高いヴェイン・ボークラーク家の血を引いています。いつかあなたもアリスのように人を導くのですよ


 そうよねマリア。私が世界を変えてみせる。


 あなたが教えてくれたことを決して忘れない。あなたはまだ私の中で生きているわ。

 この力で、私にできることをやってみる。見ていてマリア。


「私は、アリス」


おまけ


【一問一答シリーズ】


質問:あなたは女の子が好きなのですか?


『重』

アヤメ「私はクリステル様が好きだ」

クリステル「いいえ、アヤメさんが好きなんです」


『楽』

ソニア「好きー! ピアちゃんが一番好きー! かわいい!」


『堅』

ピア「どうしてそんなこと答えなければならないんですか? あまりにも不躾な質問であると思います」


『軽』

ルリ「誰でもってわけじゃないし、あたしが感じた人だけかな」


こんなんでなんとなくキャラの特徴が伝わればと思います。

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