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『異世界転移しない女子中学生の私』が『界の賢者』⁉  作者: 藍銅 紅@『前向き令嬢と二度目の恋』2巻 発売中


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第6話 第一界→他の界 アルティエロ・デ・バルベリーニ②


宇宙に並ぶ太陽系の星々。

太陽があって、水星があって、金星があって、地球があって、火星があって……。


そこから、地球が消えた。


山羊みたいな姿をした巨大生物が、一度ならず、二度も、オレたちの前で、地球を飲み込んだ……。


そしてまた、茫然としているうちに、巨大な山羊モドキの『界渡り』に巻き込まれた。


「今度はどこだよ⁉」

「……人がいない『界』だと思う」


ジルベルトが呟いた。『界渡り』ができるジルベルトなら、今いるのがどこの『界』なのかもわかる。


「『第一界』と『第二界』の次だから……。『第二界』と『第三界』の間か⁉」

「多分……」


人間がいないから『第何界』と番号はつけられていない地球。

その地球を、また、山羊モドキは食べた……。


これで、三つ目。

オレたちは、三つの地球が食われるのを見た。


この後、四つ目、五つ目と、どんどん地球が食われていくのか?

『第三界』に至るまでは、まだまたたくさんの人のいない地球があるとしても……。人の犠牲はないとしても……。


地球自体は、食われる。


ぞっとした。

ぞっとはしたけど、でも。


あ、あんな……木星クラスの巨大生物。

どうしたらいいんだ?


だって、オレたちは攻撃的な魔法なんて持っていない。

それにそもそものサイズが違う。

オレたちは、魔法使いとはいえ普通の人間。

あの山羊モドキは……木星とか土星くらいにでっかいんだぞ⁉


ヴィオ姉さんは結界を張れるし、その結界を移動させることはできる。

オレは、自分自身では何もできない。他者の魔力の増幅や強化ができるだけ。

ジルベルトは『界』と『界』を移動できる。


だけど、そんな魔法じゃあ山羊モドキに、地球が、食われるのを、止めることなんて無理で……、見ていることしかできない。


その超巨大山羊モドキは、三つの地球を飲み込んで、満足したのか、膝を畳んで座って、目を瞑って……こっくりこっくりと首を動かし始めた。眠るのかもしれない。


「ねえ、今のうちに……逃げよう」


ヴィオ姉さんが震える声でジルベルトの腕にしがみつく。


「逃げるって……どこに」

「どこでもいい。アレが見えるところには居たくない」


気持ちは、分かる。けど……。


「アレ……放置していていいのか?」


師匠が飲まれたのに?

魔法使いの仲間たちもアイツの腹の中にいるのに?


だけど。


「飲まれたみんなを助けるのも! アレを倒すのも! 無理! 逃げる以外に、アタシたち、何ができるっていうのっ!」


ヴィオ姉さんが半泣きで、ヒステリックに叫ぶ。


「……そうだね。ヴィオの言うとおりだ。逃げよう」

「ジルベルト……」

「このままここに居ても、ボクたちも死ぬだけだよ。だから……」


ヴィオ姉さんの結界だって、いつまで保てるわけじゃない。

宇宙空間なんて、空気も水も食い物もないところで、あの山羊モドキの『界渡り』に巻き込まれ続けるのなら……、オレたちだって、いつか、死ぬ。


「『第三界』に行こう」


ジルベルトが言った。


『第三界』には……人がいる。魔法使いも大勢いるはず。

あそこなら、魔法使いもいるはず。アレを倒せる攻撃力を持つ魔法使いは……いる……のかな。


オレたち『第一界』の魔法使いでも、山羊モドキを倒すことが出来そうもない。

それとも師匠なら、何かいい方法を思いついてくれるのか……。あ、ああ……、でも……、師匠は、もう……。


「……ジルベルト。『第三界』まで渡れるのか?」


師匠たちのことを考えるのは後だ。

今は、ただ、逃げることだけを。


「……やるしかないだろ。ヴィオランテの魔力と体力があるうちに」


ジルベルトの言うことは正しい。

魔力と体力が尽きれば……死ぬ。


「……ジルベルト。『第三界』の地球の座標って分かるのか?」

「行ったことはない。けど、座標は知ってる。師匠が『第三界』に渡ったときの話も何度か聞いている。人のいない『界』をいくつも経由するより、遠くても『第三界』まで一息に飛んだほうが良いかな……」


遠い程度で場所が分かるなら。だったら……、オレが、ヴィオ姉さんとジルベルトの魔力を増強すればいい。『第三界』まで保つかどうかは……、やってみないと分からないけれど。


「ヴィオ姉さん、結界の強度、少し上げて。強いっていうよりは長く持たせるって感じに」

「うん……」

「ジルベルトの魔力を補助する……。ただし、いきなりめちゃくちゃ強くはしない。『第三界』まで持つ程度に、細く長く、慎重に」

「分かった」


距離と空間と時間。遠いと表現しても、『界』と『界』は物理的に遠いわけじゃない。


地球から、物理的に火星に行って、木星に行って、土星に行って……太陽系外に行くっていうのとは行き方が違う。

別の次元に行くようなもの……かな。

異次元空間を通って、別の三次元空間に出るっていうのが近い表現かも。

『界渡り』の能力のないオレには、きちんとした説明が難しい。

今オレができるのは、ジルベルトが『第三界』に辿り着けるよう、二人の魔力を増強するだけだ。


ヴィオ姉さんの震える体をジルベルトが強く抱きしめて。

その二人の背に、オレの掌を当てた。


「……行くよ」


ジルベルトが言って。


「ああ」

「ええ」


オレたちが返事をした。


オレたちは『第三界』を目指し『界』を渡った。




   ***



ふと気が付けば、どこかに寝転んでいた。

草……、いや、芝生の地面。青い空。

ここは……どこだ? オレたちは『第三界』に辿り着けたのだろうか?


仰向けに寝転んだまま、視線だけを左右に動かす。

すると銀の色が見えた。


「ねえ! あなた、生きている⁉」


七歳とか八歳とか、多分十歳は超えていないであろう幼い女の子が、オレの顔を覗き込んでいた。銀色の長い髪がさらりと流れて、オレの頬をくすぐる。

……体の感触がある。オレは、生きている。


「あたくしの声、聞こえている? わかる?」


オレを覗き込んでくる金色の瞳。まるで太陽の光みたいだ。

眩しくて、目を細めて、オレは小さく頷いた。


銀の髪の女の子はほっとしたみたいな笑顔になった。


「よかった! 無事ね! もう大丈夫!」


女の子は良かったと大丈夫を何度か繰り返して、それからすっと立ち上がって4。


「すぐにお医者様か誰かを呼んでくるわね! 安心して待っていて!」


すぐさまどこかに走って行った。

ありがとうと言う暇もなかった。

だけど。

安心して待っていてという女の子の声で。

ああ……、安心していいんだ。ここは、もう、大丈夫なんだ……と、女の子の後姿をぼんやり見送りながら、オレはまた、意識を失った……。


次に目が覚めた時は……真っ暗で何も見えなかった。

いや、窓のカーテンが少し開いていて、外からの明かりでぼんやりと部屋の中だと分かる。

客間……とか、かな? オレは部屋のベッドに寝かされていたらしい。

ベッドの上に半身を起こして、左右を見る。

オレの右側のベッドにヴィオ姉さんが、左側のベッドにジルベルトが眠っていたのがぼんやりと見えた。呼吸は穏やかだ。


「生きてる。オレの、ヴィオ姉さんも、ジルベルトも……」


だけど、オレたち以外の……師匠や魔法使いの仲間たちは……。

宇宙空間にいた山羊モドキ。アレが、地球を飲み込んだ瞬間を思い出した。


「う……」


腕で、毛布を手繰り寄せて。そこに顔をし当てる。

込み上げてくる吐き気と涙。嗚咽で、二人を起こさないように。


しばらくそうやって、オレは声を殺していた。


嘆くのは、今だけ。

今だけだ。


そうして……オレは顔を上げた。


「……あの山羊モドキを……倒す。師匠たちの敵を討つ」


どうやったら、土星サイズの大きさの巨大山羊モドキを倒せるかなんてわからない。

だけど。

やる。

やってみせる。


泣き顔を、ぐいっと袖で拭ったところで、ノックもなしにドアがそっと細く開けられた。

暗くて誰だか分からないけれど……、いや、手に小さめの……ランタンとかカンテラのような持ち運びできる明かり持っていて、その明かりが……銀色の髪を照らす。

さっきの銀の髪の女の子だ。


オレがベッドに身を起こしているのを見て、ぱあああああっと顔を明るくした。

女の子が何か言う前に、オレは人差し指を唇に当てる。


「シー、静かに」


女の子はこくりと頷いた。

オレは、ゆっくりとベッドから降りて、ドアのほうに歩いていく。よたよたと……力なく。

廊下に出て、ドアを閉める。


「よかった。あなた、あれからまた気絶してしまったのよ」

「……オレ、どのくらい寝ていた?」

「半日よ。だから、今はもう夜ね。あなた以外の二人は、ずっと起きていないみたいね」


確かに、廊下の窓から見える外は……暗い。何も見えない。星も月も見えない曇りの夜。それが……逆にありがたいと思った。


「そう……か。あ、そ、そうだ! 助けてくれてありがとう」


状況を聞くより先にお礼をしないと。

さっきはありがとうも言えなかったから。

女の子はにっこりと笑った。


「どういたしまして」


天使みたいにきれいな笑顔だな……なんて、思った。

幼いけれど、きちんと躾を受けている……感じがする。

高位貴族の令嬢?

平民の娘だとしたら、こんなにきれいな髪はしていないよな……。


「オレは『第一界』の魔法使い、アルティエロ・デ・バルベリーニ」


とりあえず、名乗る。

すると、女の子も名乗り返してくれた。


「あ、あたくしは、イズラ・ド・アイオアディ。この『第三界』の中央大陸に位置しているアイオアディ王国の……。一応、王女」


笑顔にほんの少し、陰りが見えた。

王女という身分に誇りは持っているが……、どこか、後ろめたさを感じるような……。しかも王女というわりには護衛も侍女もいない。


「一応?」


反射的に、言葉を繰り返す。

イズラ・ド・アイオアディと名乗った女の子……王女は、俯きがちになって、それでも言った。


「……現国王陛下の庶子として認められてはいるけれど、王位継承権はないの。あったとしても、七番目の王女だから……、役には立たないわね。それなりの教育は受けてはいるけど、自由にさせてもらっている。そうね、ここ魔法省所属の魔法使いの……見習いっていうか、タビオ師匠の弟子って言ったほうがいいかしらね」


タビオって人がどんな人かは分からないけど……。『第三界』で、魔法省。

オレは運がいい。

……ちゃんと『第三界』にたどり着いけただけでなく、魔法省。

だったら、あの山羊モドキを倒すための魔法使いに協力を要請することも……。


俯いたイズラ王女のことよりも、これからのことを考えていたら、ふっと、何かの気配がした。

暗闇から突然、頭に毛のない大男が現われた。


大男は、いきなり、イズラ王女の頭をごつんと叩く。


「こーら、イズラ! 勝手に見知らぬ相手に情報を流すな! 他国もしくは他の『界』からの侵入者だったらどーすんだ!」

「た、タビオ師匠……」


……近寄ってきた気配なんかはなくて、いきなり大男が現われたようにオレは感じてしまい……、ちょっと驚いた。


「それに、ぶっ倒れていたヤツを廊下なんかに立たせたまんまで喋ってるんじゃねえぞ!」

「ご、ごめんなさいいいいいいい」


叩かれた頭が痛かったのか、イズラ王女は頭を抱えて、涙目になっている。


「あー、お前も……えっとアルなんとかって聞こえてきたが」

「アルティエロ・デ・バルベリーニです」

「おう! とりあえず、おまえの身柄はこのタビオ・ロッシ・クローチェが預かっている。とりあえず、俺の執務室に来い。茶くらいは出してやるから色々聞かせろ」

「はい……」


大男は、イズラ王女の師匠らしい。

髪の毛がない丸刈りの頭。鋭い眼光。ごつい体つき。一見すると怖い気もするけど……なんとなく、目の光は優しい気がする。

目尻が下がっている目付きだからかもしれない。それに、声は大きいけど、話している内容は……親切な感じ。


「イズラは部屋に戻れ……と言いたいところだが、ソイツが気になっているんだろ?」

「はいっ!」

「余計な口を挟まないのなら、同行を許可する」

「ありがとうございます! タビオ師匠!」

「よし。素直でいい子なイズラには、師匠特製はちみつリンゴのお茶を出してやろう」


イズラ王女の顔が「ぱああああああ!」と輝いた。

なんかかわいくて。思わずくすりと笑ったら、イズラ王女は少しだけ頬を赤く染めた。


「お、美味しいのよ! タビオ師匠が入れてくれるはちみつリンゴのお茶は!」

「そうか。美味しいの?」

「ええ! えっと、アルティエロ様も飲む?」


オレは頷いた。そうして、イズラ王女と一緒に、タビオ氏の後をついて廊下を歩く。その廊下の角を曲がってすぐの部屋が、タビオ氏の執務室だった。


「散らかっているけどな。その辺にテキトウにすわってくれ」


部屋自体はかなり広い。ドアと窓がある壁以外の二方向の壁に、床から天井までの高い本棚があって、そこにはびっしりと書物や書類が並んでいた。

広いはずの執務机の上には書類が山のように積み重なっている。

床にも積み上がられたたくさんの書物が置いてある。


その執務机ではない、応接セットのソファにイズラ王女は慣れた様子で腰かけて。

それから、ソファの前のローテーブルに、手に持っていたランタンを置いた。


「……オレの師匠の部屋、みたいだな」


特に書類の重なり具合とか、床の書物とか。

座るところもなくて、だから、師匠は資料室の片隅とかに毛布を持ち込んで、自分の専用場所みたいにしていたんだ……。


「師匠?」


ドア近くの長椅子に座りながら、オレが呟けば。


「アルティエロ様にも師匠がいるの?」


と、イズラ王女が顔を輝かせた。


「あ、ああ。アニェーゼ・テレーザ・オリハっていう名前のオババ様で……」

「あれ? 何だお前、アニェーゼの弟子かよ」


タビオ氏がオレの言葉を遮るように、大声を出した。


「……えっと、ご存じで?」

「『界渡り』能力者でアニェーゼの名を知らんヤツはいない。直接会ったことは数回だが、ずいぶんと前に、酒を飲み交わしたこともある」

「へえ……」


こんなところで、師匠の知り合いに出会えるとは思ってもみなかった。


「アニェーゼの弟子ってことがホントなら、おまえさんの話は信じるに値する。まずは何があったのか、聞かせてくれ」


オレは頷いて、これまでのことをタビオ氏とイズラ王女に話していった。

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