第10話 第一界→他の界 アルティエロ⑤
タビオ氏たち、あの山羊モドキの調査に行っていた魔法使いたちが帰ってきた。
オレやランカさん、イズラだけじゃなく、『第三界』の魔法使いたちも大会議室みたいにずらーっと机と椅子が並んでいる広い部屋に集められて、タビオ氏の報告を聞く。
多分、この『第三界』の魔法使い、全員が集まっている。
それから多分、タビオ氏よりも偉い人とかも、たくさん。
大会議室内は満席状態。
……国の制度はオレたちの『第一界』とは多少違うけど、魔法省以外の政務関係者とかもきっと集まっているんだろう。
きっちりかっきりとした値段の高そうな服を着た、態度も偉そうな人たちも、たくさんいる。
……ヴィオ姉さんとジルベルトはいないけど。
「……信じたくねえ話だったが、どうやらマジで対応しねえと滅ぶ地球が増える。というか、『第一界』と『第二界』の地球は既になかった。金星と火星の間には単なる宇宙空間。どこをどう見ても地球はない」
ざわり……と、大会議室の空気が揺れる。
それをタビオ氏が手で制した。
「界渡りができる魔法使いたちが見たままを報告するが、木星サイズの巨大山羊モドキのイキモノは現在、『第二界』と『第三界』の間の『界』の人間がいない『界』で、地球を食っては眠っている……を繰り返している」
オレやヴィオ姉さんが見た山羊モドキは……、夢でも幻でもなく実在している。
それが、『第三界』の魔法使い達によって、証明された。
されてしまった。
この期に及んでオレは、あれが、あの山羊モドキが、本当は幻覚だったらよかったのにって、まだ、心のどこかで思っていたんだ……。
「で、山羊モドキが地球を食って、界を渡って、眠って……を繰り返して、ここ『第三界』まで到達する速度を計算してみた。結論的に言えば、多分、早くて十年、遅くても十五年後には、あの山羊モドキは『第三界』に到達する」
『第二』と『第三』の間には約三百、人のいない『界』がある。
その約三百の地球を食って、『第三界』に到達するのが、計算上は十年から十五年。
早いと思うべきなのか。
それとも十年あれば対策ができると思うべきなのか……。
大会議室内にいる人たちはざわざわとし出す。
タビオ氏の計算が信じられないのか、何かの計算式を手帳に書きだす者がいる。
隣に座っている知り合いとボソボソ何かを話し合い出す者も。
イズラやランカさんたちは……蒼ざめた顔で身じろぎもしない。
「それで……だ」
ざわざわした大会議室内に、タビオ氏の大きな声が響いた。
「大まかに言って、できることは二つ。一つは、山羊モドキを倒す。もう一つは……逃げる」
会議室の真ん中あたりの席に座っていた中年っぽい男性が手を上げた。
「倒すための方策は確立しているのですか? 逃げるといってもどこへ?」
タビオ氏が頷く。
「それが問題でな。これから皆で検討する」
検討。つまり、倒すのも、逃げるのも、見通しは立っていない。
「まず、倒すほうからな。木星サイズの巨大山羊生物をどうやったら倒せる?」
しん……と、静まり返る大会議室内。
どうやって倒すなんて……、分からない。
しばらく待った後、誰も何も発言しないとみて、タビオ氏が続けた。
「逃げるほうだが。『界』を渡れる魔法使いは、魔法省に現在二十五名。この人数で『第三界』に人間を全員『他の界』に移住させるのは、そもそも不可能。更に受け入れ先の問題もある。たとえば『第四界』が受け入れてもらえるのか。受け入れてもらえたとして、山羊モドキはいつか『第四界』にまで到達する。どこまで逃げれば安全だ?」
そんなの誰にも分からない。
「……とりあえず『第四界』『第五界』『第六界』の各界にはあの山羊モドキの情報を渡す。『界渡り』能力者はそれと一緒に交渉のために文官たちをそれぞれの『界』に送ってもらう。どこかの『界』で山羊モドキを倒せるだけの知識もしくは魔法を持っている人間がいるかもしれんし……」
居るのだろうか?
分からないけど、行ってみるしかない。
「後は……、山羊モドキが地球だけを食うのであれば、火星かとか月とか、別の星に逃げられるかどうかも検討」
ああ……そうか、そういう逃げ方もあるか。
だけど、月は地球と一緒に食われちまうかもしれないし。
そうすると、火星?
でっかい船を作って、その船を結界で覆って、飛空魔法で飛ばす……。
できそうではあるけど……、火星って、人間が住めるんだっけ?
「今、ここで、すべてを決めることはできない。が、山羊モドキの進行速度からすると……、山羊モドキの倒し方、各界への連絡と交渉、移住……いくつかチームに分かれて、動き出さないと……間に合わねえなあ」
間に合わないということは、食われるということ。『第一界』や『第二界』の地球のように。
ふと隣の席を見れば、イズラはきゅっと口を結んで。かすかに震えて入るけど……、金色の瞳には力があった。
「……守る。お父様を、お兄様を、お姉様を。あたくしを、家族と言ってくれた、王女と認めてくれたみんなを」
イズラが小さい声で呟いた。
こんな小さい子が、震えながらも家族を守る決意をした。
オレも。怖がるのは……ここまでだ。
いや……、怖い気持ちはなくならない。きっと小さくなっても、山羊モドキが地球を食った時の衝撃はなくならない。でも、戦う。抗う。絶対にあの山羊モドキを……倒す。
そのために、オレができることは……。
オレは立ち上がって、タビオ氏に向かって口を開いた。
「発言、良いですか?」
「おお、アルティエロ。何か意見とか、あるか?」
「……初めましての皆様がほとんどなのでまず自己紹介を。オレは『第一界』の生き残りの魔法使いです。それからオレの能力は『増幅』です」
いきなり自己紹介をし出したオレに、大半の者たちは「『第一界』の生き残り……?」とか、「増幅……?」 とか、疑問そうにオレを見た。
「ここにいる魔法使いの皆さんの、その魔法の力を数倍にできます」
魔力は持っていても、使い方が分からなかったイズラの、その魔力の循環方法を教えた時に、一緒にその力を増幅してしまったみたいに。
「優先的に、『界渡り』ができる二十五人の魔法使いの皆さんの力を増幅します。そうすれば、きっと、『第四界』だけでなく『第五界』でも『第六界』でも、楽に、何度も往復できるようになる」
ざわざわざわ。
本当か……とか、すごい……とか。
オレは攻撃魔法を有していない。だから、きっとこの手であの山羊モドキを倒すなんて無理。
だけど、そんな俺でもできること。
他の魔法使いの力を強化する。
「あの山羊モドキを倒せる力のある魔法使い。『第三界』で攻撃魔法を使える人、いますか? その力を何倍にすれば、あの山羊モドキを倒せますか?」
オレの問いかけに、魔法使いの一人が立ち上がった。
「……攻撃魔法に関して言えば、木材を貫通する程度の攻撃は、できる。だが、岩をも砕く力を有する者は『第三界』には居ない。君の力で魔力を増幅したところで、数百倍、数千倍にするのは……」
「無理、ですね。魔力を千倍にしたところで、個々人が制御できる魔力量ってものもあるでしょうし……」
攻撃の威力だけでなく、その人が持つ魔力量も数千倍にするとか……、人の可能な域を超えているよな……。
1を100にするとか。
1を1000にするとか。
言葉では言えるけど、実際にそれをやるっていうのは……。まず、無理だろう。
「だったら、通常魔法より威力の高い超魔法、もしくは超魔術とかを……持っている人が『第三界』じゃなくても『第四界』とか『第五界』とか、別の界に居たりは……」
「分からん。『第六界』までにそれほど強い魔法使いれいればいいのだが」
「『第七界』は……」
「あそこは魔法がないだろう。代わりにカガクというものがあるらしいが……」
「カガク?」
「何でも、デンリョク? というものがあるらしいということは聞いたことはあるが……」
「デンリョク……」
なんだろう、それ?
でも……、以前師匠にも聞いたことがあった。『第七界』のこと。
『第七界』の、魔法じゃない別の力なら、あの山羊モドキを倒せるのか……?
分からないけど。
『第六界』までの魔法で倒せないのなら。
「……行ってみるか?」
そのカガク? とか デンリョク? とか……。
山羊モドキを倒せるのなら、方法なんて、何でもいい。
オレがこの手で倒せなくても、誰かが山羊モドキを倒せればいいんだ。
希望……なんてモノじゃないけど、きっと。
あの山羊モドキを倒せる希望みたいなのが、見えたような気がした。
しばらく3~4日ごとの更新になりそうです。
のんびりお付き合いいただければ幸いです。




