1ー3
ナツミが亡くなってから五年がすぎた。
僕はと言えば、狭いアパートに移り住んで、バイトを数個かけもちしている。そうしなければ高卒でありつける仕事はあまりないからだ。
資格を取ろうと思ったこともあったが、せいぜい車の免許くらいしか取れなかった。
そうして心を無にして働いて、ろくに食べもせず、死んだように生きてきた。
ねぇナツミ。やっぱり僕は、書き続けることができなかったよ。
きみが読んでくれないのに、書き続けることなんてできないし、ネタも浮かんでこないんだ。
今ではどうやって書いてきたかを思い出すことすら難しくなっている。
ナツミ。
ねぇ、ナツミ。
そして僕は突然電池が切れた時計のように動かなくなった。
完全に栄養不足だった。
目が覚めた時に、まずいことになったなと思った。
おぼろげながら、誰かに話しかけられ、救急車の担架に乗せられている感覚は覚えていたからだ。
病院代だってろくに出せないのに、どうしたものか。
悩みながら目を開けると、カーテンの内側に見知らぬ少女がスマホとにらめっこしている姿が目についた。
「きみは、誰?」
「きゃっ。めっちゃイケボやん。わたしはハナ。ハナって呼んでいいよ。わたしがあなたを救急車に乗せたの。覚えてない?」
若い女性の声だとまでは思っていたが、ここまて若い子だとは思っていなかった。
高校生くらいだろうか。
「いろいろありがとう。僕は西野 アキラ。そうだ、バイト行く途中で倒れたんだった」
あせってポケットから出したスマホに、仕事場からいくつもメールが届いていた。
「ねぇ、アキラさん。わたしと連絡先の交換をしてみませんか?」
「いや、助けてもらった恩は感じるけど、どうして?」
「だって、イケボでイケメンだから。創作意欲をそそられると言うか」
創作意欲? だいたい僕は言われるほどイケボでもイケメンでもない。
「僕なんかと連絡先交換して、ご両親が心配するんじゃない?」
「心配なんかしないよ。基本、放任主義だもん。それよりアキラさん、今日あったことを小説投稿サイトに書いてもいいですか? もちろん、名前とか、身元がわかるようなことは書きませんから」
そうか。彼女も小説投稿サイトに書いているのか。
「べつにかまわないけど。こんなおじさん相手にしていて退屈しない?」
「しない、しませんよ。おじさんだなんて、とんでもないし。かっこいいし、かっこいい」
そうかな? 僕はキツネにつままれたような気持ちでいた。
「……じゃあ、僕の連絡先はここです」
「あ、待って――、よしっ、登録っと。じゃあわたしのも」
流されるままに連絡先を交換したけれど、おかしなことにならなきゃいいんだけどな。
つづく




