第十話 もうさ、お前ムーンライトに帰れよ?
“L'hypocrisie est un vice à la mode.”
偽善は流行の悪徳である。
モリエール『タルチュフ』
*
「おいいいっ! 俺、全然悪くないのに、なんで、死刑くらわにゃならんの!?」
「ここは、なろう全年齢だからです!」
鎖は輪廻の『全年齢』にUMAでも見たような驚き顔になった。
「なろう全年齢で――?
水谷誠司を主役にして――?
異世界転生ジャンル――???
はぁ――終わった……。
駄目だぁ……。また、バズらねぇ小説書きやがったのか。あー、通りで、PVが四桁いかねぇ筈だ。
俺、言っただろー? 続編はムーンライトで(バキューン!バキューン!)しろって――!!!
もうさ、お前ムーンライトに帰れよ?
全年齢にいても、需要ねぇだろー?
ホラ見ろ! KASASAGIが真っ青! つーか、ほぼ白! おーいー!
ムーンライトのアプリ読者、誰一人として追いかけてきてねぇじゃん!
なんで、PC読者ばっかりなんだよ? お前、やる気あんのか?
ったく、トレンドにのれなきゃ、存在価値無ぇだろぉ!
言ったじゃん! 続編はもっとドロドロのヤツをムーンライトで書けってさー!
『変な二人』だと、温すぎて、読者離れるって――!
お前は、読者の不安を煽って、ゲロ吐きそうな鬱展開を、やるしか能がねぇだろー? コメディなんか、対極過ぎて、読者が蜘蛛の子を散らして、消えてンだろーがー!」
顔を覆いしゃがみこんだ鎖に、鋏がメガネを光らせた。
「鎖、私はあなたの意見に反論します ✂
確かに、水谷誠司を主人公にした『少しも、綺麗な愛じゃない』は、読者をふるい落とすタイプの問題作でした。
しかし、水谷誠司の異世界転生ネタをなろう全年齢に推し進めたのは、この私です。
結論からハッキリ言いますね――」
鋏の長台詞を、鎖が遮った。
「あー。なんだよ。こんな真面目ガネの話を鵜呑みにしたのか、あの銀髪は。
水谷誠司はムーンライトにしか、居場所はない!
俺が散々警告したのに……もう、最終回から二週間目! 完結ブースト無駄使いして、まーた、ニッチなモン書いてる……。
今すぐ帰れよ! ムーンライトに!
そんで(バキューン!バキューン!)で、明日人が(バキューン!バキューン!)される内容で、読者を引っ張れ!
んで、
X(旧Twitter)で、毎日感想やリクエストの募集を露骨に、朝、昼、夜の最低三回はクレクレしろ!
活動報告ぅ?……ンなモン、誰も見てねぇよ!」
「鎖、作家としての品性やブランディングを捨てるような、短絡的思考は慎んで下さい。
あなたの考えは短期的には有効ですが、中長期的な作家活動を阻害する恐れがあるからです。
今のままだと、言葉が強すぎるので(バキューン!バキューン!)の部分は私が言い換えを提案しますね。
明日人と水谷誠司が、微笑みあった――。
これで、充分読者には通じますし、なろう無印の規約も守れます。ホラ、輪廻さんもニッコリ✨」
輪廻と鋏が、微笑みあった――。
いや、鋏の言い換えは、言い換えって範疇ではなく、もはや別行動になってた。
完全に話が変わるだろ。俺は明日人と(バキューン!バキューン!)がしたいなー……。
「――だから、(バキューン!バキューン!)はギルティです!!!」
輪廻が無表情で紐を引き、金ダライが降ってくると、場は完全に混沌と化した――。
次回
第十一話 なろう無印で、水谷誠司はタイトル通りに異世界転生出来るのか!?




