☆いざ、舞踏会へ
舞踏会当日。
目の前に広げられたのは、私の瞳の色に合わせた淡いブルーのシンプルなドレスだった。
「えっ、本当にこれを着るの!?」
私はどちらかと言うとフリルのたくさん付いたボリュームのある派手なドレスが好きで、普段からそのような服を身に付けている。
けれど、このドレスのフリルはバーサカラーにあしらわれているだけ。
「奥様のお言い付けですから」
長年勤めていて、私の好みを熟知している侍女のアンナが批判は承知の上とピシャリと言う。
手持ちのドレスの中で一番ゴージャスなものにしようと思っていたのに、どうやら私に拒否権はないらしい。
お母様の用意したドレスは一目見ただけではわからないけれど、全面に布と同色の金銀糸で細かな刺繍が施され、レースも繊細で、よく見ると高価な代物だと言うことがわかる。
多分、私の持っているどのドレスよりも。
お母様……本気なんだ。
なんとなくお母様が夜会に、特に重要人物に招かれた時に着ていくドレスに似ている。
ドレスを着付けてもらい、メイクもいつものパーティーよりナチュラルで上品に、ふわふわとなびかせていた髪は綺麗に結い上げられた。
「あれ、その髪飾り……」
アンナが取り出したのはお母様が大切にしている真珠があしらわれた髪飾りだった。
確かお祖母様からの贈り物だとか。
「本日は特別に、とのことです」
仕上げに髪飾りを付けてもらうと、ドレッサーの中の私が微笑んだ。
「ふふっ、いつもと全然違うわ。まるで魔法みたい」
「お褒めに預かり光栄です。大丈夫。シルヴィアお嬢様は世界で一番お綺麗ですよ」
「ありがと」
憂うつな舞踏会でも、素敵な衣装を身にまとえば気分は上がる。
通常の舞踏会では男性のエスコートが必須だけど、今回招待されているのは未婚の貴族令嬢なのでエスコートは親族の男性のみが許されていた。
また、女性一人での参加も構わなかったため、私は一人で舞踏会の会場に入った。
この舞踏会の準備でお父様の商会には貴族からの注文が殺到し、両親は大忙しでエスコートどころではなかったのだ。
貴族のパーティーには足を運んだことがあるので、ホール内には見知った人物が何人かいた。
私を庶民だと見下してくる令嬢たち……あからさまに財産目当てで近づいてくる令息たち……。
今まで何かと絡まれることが多かった。
もちろん、素直にやられる私じゃないけど。
でも今日は、私の装いがいつもと違うからか、はたまた王子が気になって眼中にないのか、誰も近づいて来なかった。
会場全体が今か今かと待ちわびる乙女たちの期待で浮わついていたが、肝心の王子様はまだ現れない。
私はホールの隅に身を潜め、顔を隠すように扇子を扇いだ。
平民である私にチャンスは初めから用意されてないのだから、目立たないに越したことはない。
ネガティブな考え。
それとも、そうやって平静を保とうとしているのかしら。
……ひょっとして私、浮かれてる?
上階の扉が勢いよく開かれた。
令嬢たちの視線が一気にそちらへと注がれる。
緊張感と期待感が漂う会場に、静かな足音が響いた。
とうとう姿を見せるのだ。
オーベル国第一王子、テオドール・ライヒシュタイン、その人が。
お読み頂きありがとうございました。
遅筆なので、申し訳ありませんが、更新はしばらくお待ちください。




