☆舞踏会の招待状
私、シルヴィア・ハーマンは平民だった。
父は手広く交易を営み、その功績が認められ男爵の地位を賜っていた。
しかし一代貴族のだったため、娘である私はあくまでも平民。
けれど不自由なこと何一つなかった。
両親は一人娘である私を溺愛し、欲しいと言えば何でも与えてくれた。
一年中草花を楽しめる庭園、古今東西あらゆる蔵書が集められた大きな図書館、湖畔に建てられたおとぎ話から現れたような美しいお城……。
私自身は平民でも、明らかにその辺の下級貴族よりも贅沢で優雅な暮らしを送っていた。
一代貴族で領地はないものの、各地に商売の拠点と共に別荘があり、季節に合わせてそれぞれの場所で過ごした。
ある一通の手紙が送られたのは、私が王宮のお膝元である中央都市エスカンファニアで暮らしていた秋に差し掛かった時分である。
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「王宮で開かれる舞踏会?」
私宛てのその手紙は玉璽の入った舞踏会の招待状だった。
「そうなのよ! しかも今回の舞踏会はただの舞踏会じゃなくてね、なんと王子様のお妃様探しよ! もしここで王子様に見初められたりしたら……はぁっ憧れちゃうわ~!」
周囲にハートを撒き散らしながら、まるで夢見る乙女のようにはしゃぐのは、私のお母様だ。
「お父様がいるのにいったい何を言っているのかしら」
「あら、王子様との結婚はすべての女性の憧れよ。こんなチャンス滅多にないんだから」
お母様はにっこりと微笑んで私の肩を優しく叩いた。
「当日はうんとおめかししなくちゃね」
「は、はい…………」
お母様の笑顔の圧力に気圧される。
もしかしたら私の気乗りしてない様子を見抜いて、励まそうと明るく振る舞ってくれたのかもしれない。
世の女性たちが百人いれば百人、瞳を輝かせるような舞踏会になぜときめかないのか。
それは、この話がとてつもなくアヤシイからだ。
招待状を偽物だと疑ってる訳じゃない。
ご丁寧に玉璽まで付いて、この招待状は確実に王室から送られた本物だろう。
だからこそ、胡散臭いのだ。
舞踏会の主役はこの国の第一王子、テオドール・ライヒシュタイン。
招待状に同封されていた手紙によると、彼のお相手を探すため、妙齢の貴族女性が国中から集められるらしい。
その末席に呼ばれたのが、ハーマン男爵の娘と言うだけの平民の私。
第一王子の結婚相手とは、すなわち未来の王妃だ。
王妃のような重要な役割を担う女性を舞踏会で決める、そんなバカな話がある!?
普通、王妃って幼少期から決められてて、それなりの教育を受けたりするものじゃないの?
……いや、王室のことはよく知らないけど。
この舞踏会には何か裏があるに違いない。
何だろう、そう、例えば──王子の出来が悪くて誰も嫁になりたがらない……とか?
……わからないけど、ともかく舞踏会と言う名のお見合いパーティーが開かれようと私には関係がない。
貴族ですらない私、完全に賑やかし以外の何者でもないのだ。
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