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第4話 考え事(挿絵付き)

挿絵(By みてみん)


 部屋の外に出た僕は、壁伝いに迷宮の中を進み始めた。

 迷宮の通路にも、窓一つないことから、ここがどうやら地下に作られたものらしいことがわかってきた。

 しかし、天井にはヒカリゴケが群生しているようで、迷宮の中はうっすらと明るい。

 石組みの壁は、少し湿っていて、壁伝いに移動する僕の手には苔らしきものがつく。

 それに、目が良く見えない僕には、むき出しの土と、ところどころに石畳がおかれた地面の上はとても歩きにくい。

 油断をするとつまづいて転んでしまいそうになるので、すり足でゆっくりと歩かなくてはならなかった。


「痛っ!」


 脚が萎えただけではなく、足の裏の皮が薄くなってしまったので、ところどころにある尖った石が足にたってとても痛い。

 先に行かせた使い魔のネズミは前方の通路の安全を確認してくれている。

 しかし、敵が後ろからくる可能性もあるし、前方であっても曲がり角から急に敵が現れる可能性もある。

 僕の目ははっきりとは見えないし、体の自由も利かない。

 ネズミの使い魔が確認してくれてから、状況が変わらないうちに、できるだけ早く迷宮を進む必要がある。

 だが、僕はいつの間にか考え事を始めていた。


(ここは一体なんなんだろう?)


 この迷宮は、色々とおかしい。

 まず一つ目として、あの部屋だ。

 人間用のベッドに、奇妙な音を出す機械装置に、鉛筆……。

 通常、リザードマンは簡単な道具を使って暮らしている。

 とても、リザードマンが作りえたものとは思えなかった。


 次にこの迷宮だ。

 リザードマンは、川辺に植物を組み合わせて簡素な建物をつくって集団生活をしている。

 こんな石組みの壁の迷宮を作るような生き物ではない。

 ひょっとすると、何者かがリザードマンを使役しているのかもしれない。


 三つ目はあの部屋に監視がいなかったことだ。

 なんの目的で僕を生かしているのかもわからないが、なぜ魔物は僕に監視をつけなかったのだろうか。

 僕が無力で動けない人間だと軽く見たのか、それとも僕が目覚めないという確信があったのか……?

 考え事に夢中になった僕は、いつの間にか立ち止まってしまっていた。


「ま、まずい!近い!」


 いつの間にかネズミの視界の中に魔物が現れていたのだ。

 考え事をしすぎて、気付くのが遅れてしまった!

 あと何秒もしなうちに、この先の十字路に魔物が現れてしまう。

 今、僕がいるのは一本道の通路で近くには逃げ込む道や部屋がない。

 だが、右手に持ったナイフ替わりの鉛筆と、左腕に巻いたシーツの盾で魔物に勝てるとも思えない。


「はぁわわわ、どうしよう、どうしよう!?」


 僕は焦って辺りを見回した。

 すると右前方の石組みの下の方が崩れていて穴のようになっていることに気付いた。

 穴に駆け寄ろうとして転んでしまった僕は、四つん這いになって這う這うの体で穴に潜り込んだ。

 穴はあまり深くなかったが、なんとか僕一人なら全身を隠すことができた。

 穴の中で方向転換して、頭を入口側に向けた後、必死で考える。

 何か良い魔法、魔法はないか?

 そうだ!


「エンチャントウェポン!、プロテクション!」


 僕は小声で呪文を唱えて武器と防具を強化した。

 鉛筆の攻撃力とシーツや病院着の防御力が一時的に上がり、薄い光を帯びる。 

 準備を終えた僕は、全神経を魔物の動きに集中した。


 ひゅー、ひゅー、ひゅー

 ドックン、ドックン、ドックン


 僕の息と心臓のはく動とがやたらと大きく聞こえて魔物に気付かれはしないかと心配だ。

 できるだけ息を殺して、右手に鉛筆を握りしめ、左腕のシーツを顔の前に構える。

 もし、魔物に気付かれて、穴から引きずり出そうとされたら、鉛筆で徹底抗戦するつもりだ。

 それにそうなったときには、敵は仲間を呼ぶだろうし、もはや僕も大きな音を出す攻撃魔法をつかうことにためらいはなかった。

 しかし、魔物は僕に気付かず、そのまま別の方向へ行ってしまったようだ。


「行ったか?」


 僕は念のためにネズミの使い魔に魔物の後を尾行させて、遠くへ行ってしまったことを確認した。

 そして、ネズミを僕のそばまで戻して、周りを確認させた。

 その後、僕は穴から頭だけを出して周囲を確認してから、ゆっくりと穴から這い出した。


「……帰りたい」


 僕は、あの灰色の部屋に帰りたくなった。

 この調子でやみくもに歩き回っているだけでは、とてもこの迷宮を脱出できそうにない。

 安全な場所まで戻って、一旦休んで考え事をする時間が欲しい。


(誰かに助けて欲しい)


 しかし、後ろを振り返ってみたけれど、どこを通ってきたのか全然覚えていなかった。

 考え事をしながら歩いていたのもあるし、元々、あの灰色の部屋に戻るつもりもなかったせいだ。


「もう、進むしかないか……」


 目の前が暗くなる気分になりながら、僕は前に進むことにした。

 軽はずみに行動し始めたせいで、僕の一生はここで終わってしまうかもしれないと思うと泣きたい気分になってくる。

 だけど、悪くしたもので使い魔のネズミの視界にまたしても魔物が現れた。

 今度のやつは、動きが速い!

 いくらもしないうちに、やってきた魔物が僕を見つけてしまうだろう。


「むー--!」


 僕は半泣きになり、手もみしながら逃げ道を探して左右を見渡した。

 しかし、逃げ込める安全な通路はない。

 今度は、さっきのように逃げ込める壁の穴もない。


「逃げ場所、逃げ場所!」


 左前方に扉があるのだけれど、扉を開けた先の様子が分からない。

 ひょっとすると、扉を開けると部屋の中にはたくさんの魔物がいるかもしれない。

 だけど、このままでは魔物に見つかると八つ裂きにされてしまうのも確実だ。

 僕は覚悟を決めて、扉をできるだけ静かに少しだけ開けて、体を部屋の中に滑り込ませた。


「はぁー、はぁー、はぁー」


 僕は、体をできるだけ薄くして扉の裏に張り付いて、外の様子に聞き耳を立て続けた。

 やたらと、自分の息と脈の音が耳についてやかましい。

 そのとき誰かに話しかけられて、僕は飛び上がらんばかりにびっくりとした。


「ねぇ、君、ここの鍵をあけてくれないか?」

この小説を読んでいただき、ありがとうございます。

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