第5話 牢の中の巨人
「君も逃げてきたのだろう。
ここの鍵を開けてくれないか」
使い魔のネズミを使って声がした方向を見ると、どうやら部屋の中央にある牢の中に男が入れられているらしい。
僕の目も、使い魔の目もぼんやりとしか見えないので、男の顔は良くわからなかった。
「すまないけれど、鍵は持っていない」
僕は、念のために低い声をつくって身構えて答えた。
「鍵ならそこの壁にかかっている。
この牢から出してくれたら、君がこの迷宮を脱出する協力をしよう」
使い魔の視界を使って壁の方を見ると、鍵らしきものがぶら下がっている。
男は、僕が迷宮を脱出する手助けをしてくれると言う。
だが 本当に信用することはできるだろうか?
ひょっとすると、この男は魔物の仲間 かもしれない。
例えば こいつは仲間の魔物を傷つけたとかの理由で 牢の中に入れられているのかもしれない。
もし、そんなやつを解き放てば僕はひとたまりもなく、殺されてしまうだろう。
だが、もしも彼が魔物に捕らえられた人であるならば、このまま見捨てていくのは気がとがめる。
それに、彼が味方になってくれたら、例えばこの迷宮の出口を教えてくれるかもしれないし、ここからの脱出に協力してくれるかもしれない。
どのみち、体の自由の利かない僕では一人でこの迷宮を脱出できそうにない……
誰かの手助けがどうしても必要だ。
僕は、壁伝いに移動し手探りで壁のフックから鍵を取った。
「君は目が見えなくて、体も自由に動かないのかい?」
僕の様子を見ていた男が、気づかわしそうな声で聞いてきた。
「いや、大した問題ではない。
目も見えるし、体も十分に動く」
弱みを知られるとまずい。
僕は、全く問題ないと強がりを言った。
「そう」
男は一言だけ返してきた。
この鍵を男に渡して本当に大丈夫だろうか?
鍵を渡してしまうと、男は必ず牢から出てきてしまう。
仲間の魔物を呼んだり、僕を攻撃してくるかもしれない。
そうだ、鍵を手渡す瞬間にもし男が僕の腕をつかんできたならば、 鍵を渡さずに鉛筆で男の腕を刺してその隙にこの部屋から逃げ出そう。
完全な安全策ではないけど仕方がない。
そう考えを決めてから、男に鍵を渡すことにした。
僕は、前傾姿勢をとりつつ右手に鉛筆を逆手に構えて、左手に持った鍵を差し出しながら、すり足で男に向かってゆっくりと近づいた。
(な、なんだこいつは!?)
近づくと、男の背が非常に高いことに驚いた。
僕の背は、男性の中でもかなり高いほうで、騎士学校時代にいた都でも僕よりも背の高い男性はまれだった。
にもかかわらず、男の背は僕よりも頭一つ分ほどは高い。
(巨人だ!遥か北に住むという巨人族に違いない。
このように背の高い人間は、今までに見たことがない!
こいつが本気で向かってきたら勝てない)
僕は巨人の大きさを目にして生じた怖じ気を振り払いつつ、ゆっくりと巨人へ近づいていった。
鍵が手の届く範囲に入ると、巨人は鍵だけをつまんで僕の手から受け取った。
僕は、速やかに後ろに下がって警戒姿勢を取り続けた。
ガチャン!ギギィ……
やがて、鍵を外す音と牢を開ける音とが聞こえ、巨人が外へでてくる足音がした。
だが、巨人は僕の方へ近づくことなく、まっすぐに部屋の扉のほうへ行ってしまった。
(あ、一人で逃げる気なんだ……)
僕は、巨人が攻撃してこなかったことにホッとしたけれど、見捨てられたような気分もして気落ちした。
考えてみると、僕が巨人に取った態度はひどかったし、彼が気を悪くするのは当たり前に思えた。
きっと、最初は協力するつもりだったけれど、僕の様子を見て態度を変えたのだろう。
しかし、巨人は少し扉を開けて外の様子をうかがった後に、すぐに僕の方へ戻ってきた。
「魔物は近くにいないようだ。まだしばらくは大丈夫だろう」
いつの間にかうつむいてしまっていた僕に、巨人はそう言った。
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