↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
3/4

第3話 イヴの情景


 クリスマス・イヴの朝。


 サンディをはじめとするサンタクロースたちは、全世界に幸せと喜びのプレゼントを配るため、トナカイの引くそりで一斉に空へと飛び出していく。

「ホーッホホホ、世界の皆んな、待っていておくれよ~」


 そのひとつが日本の上空へとやってきた。

 サンディのそりは★市のとある場所まで来るとグンと高度を下げる。

 一般人には見えないが、★神社の境内がいつもの倍以上の広さになっていて、なんとそこにはヘリポートのようなマークまでがしつらえられている。

「OH! 《あまてらす》はユーモアたっぷりだねえ」

 サンディが楽しそうにトナカイを誘導して、マークの上ぴったりにそりを着陸させた。

「さすがはサンディ」

 するとそんな声がして、いつの間に現れたのか、《あまてらす》がそりの横に立っていた。

「久しぶりだね~」

 サンディは颯爽とそりを降りると、《あまてらす》に大げさなハグをする。

「ほほ、相変わらず」


「ようこそ、ねえ私にも紹介して~」

「わらわも」

「わたくしにも是非」

「……」「……」「……」

 楽しそうな2人の後ろには、またいつの間に現れたのか《すせりびめ》《このはなさくや》《くしなだ》ニチリンほか大勢の女神がいて、それはそれはきらびやかな華やかさを放っている。

「ホッホー、世界広しといえども、女神の女子会に参加出来るサンタクロースはわしが初めてではないかねえ、嬉しいねえ」

 そう言いつつ、1人1人と丁寧にハグをかわしていくサンディだった。


 歓迎が終わり、建物の玄関へ入るとそこには、シュウ、冬里、夏樹の3人がお待ちかねだった。

「サンディ!」

 真っ先にハグしに言ったのは夏樹。

「久しぶり~」

 柔らかなハグをしかけるのは冬里。

「ご無沙汰しています、!、……」

 いつもながら握手だけをしようとして、それだけでは終わらせてもらえないシュウだった。

 そんな4人を面白そうに眺めた後、《あまてらす》がサンディを奥へと案内する。

「おや? シュウたちは? ホッホー、わかっているよ。お・も・て・な・しをしてくれるんだよねえ」

 2人とは別方向に曲がっていく『はるぶすと』メンバーに、楽しくウィンクして《あまてらす》の後をついて行くサンディだ。

「はい! 楽しみにしてて下さい!」

 元気よく夏樹が答えて、彼らは御台所へと入って行く。


「シュウしゃま、冬里しゃま、夏樹しゃま、お久しぶりでございます」

 そこにはおなじみのアニメネズミたち。

 人数が減ったとは言え、ダブルブッキングもしてしまったことだし、今回も彼らの力をお借りすることにしたのだ。

「ご無沙汰しています、よろしくお願いしますね」

 差し出された手に、シュウが人差し指でちょこんと握手をすると、代表のアニメネズミはとても嬉しそうだった。


 さて、今回の献立は、まずサンディからは「日本の伝統的な料理が食べたいねえ」と言うリクエストだったので、彼には時期的には少し早めの[おせち]をアレンジしたものお出しすることにした。

 こちらは、最近めきめき日本料理の腕を上げつつある夏樹が中心となってメニューを吟味したものだ。

 女神たちは日本料理は食べ飽きているらしく「クリスマスにふさわしい世界各国の料理など」と、まあ難しい注文だ。

 冬里は無難にローストチキンとブッシュドノエルを担当するなどと言い出して、「あとはシュウに任せるね~」とここでもややこしそうなことは丸投げするので、シュウはため息をつきつつも思いを巡らせた後、これまで訪れた中東あたりの料理をお出しすることにした。


 3人はてんでバラバラに料理を作るのかと思いきや、そこはやはり『はるぶすと』のシェフたち。互いに動きや思いを読み取って、まるで1本のドラマを作り上げていくように料理が進行していく。アニメネズミも慣れたもの。彼らの邪魔には決してならず、けれど肝心の所ではすかさず手を貸してくれている。


 こうして完成したクリスマス料理は。


「OH!」

「まあ!」

「なんとまた見事な」

 サンディも女神たちも、目を見張るほどの出来映えだった。

 お味は?

 もう、言うまでもないだろう。

「ううん、なんて美味しいの~」

「ホッホー、日本料理の美しさよ~」

「これはどこのお料理? 食べたことがないお味、なのにすごく美味しいわ」

「さすがだな」


 こうして女神たちの宴は穏やかに、華やかに過ぎて行ったのだった。





 さて、こちらはもう一つの会場。


 先ほどの★神社とさほど時間的には変わらないのだが、そこはそれ、神さまの操りようで、彼らはあちらとこちらを苦もなく行き来できるのだ。


「さあーて、準備は万端。あとはコイツを焼いていくだけだ」

 駅近くの本屋前に広がる、いつもなら椅子とテーブルが並んでいる広場には、たくさんのクリスマスマーケットのブースが並んでいる。

 物販のブースは広場をぐるりと囲むように、食べ物のブースはその少し内側、テーブルと椅子が透明のカーテンで覆われたテントの前に並んでいる。

 由利香が「初詣の参道に出てる屋台みたいね」と可笑しそうに言っていたように、風よけのテントが冬によくあるおでんやラーメンの屋台のようだ。

 その中で、朝一番からソーセージを焼く親父さんのブースから、美味しそうな匂いが漂ってくる。

 親父さん曰く、

「俺たちはジジイとババアだから朝が早いんだ。そのかわり夜も早いんでな、おやつの時間が終わったらとっとと店じまいさせてもらうぜ」

 とのことだ。

 匂いにつられて早速お客さんがやってくる。

「わあ、これってウィンナー?」

「いいや、これはソーセージって言うんだ。美味いぞお」

「へえ、ねえパパ、食べたーい」

「うーん、ビールに合いそうだなあ。でも、今から飲むと他のブースが回れなくなるなあ」

「ダメなの?」

「あ、いやいや買ってあげるよ。パパは他のところを回った後でゆっくり楽しむから」

「わーい!」

 嬉しそうに言う子どもに出来立てのソーセージを渡して親父さんも満面の笑顔だ。

「ほれ、熱いから気をつけて食べるんだぞ」

「うん、ありがとう!」

 親子はテントの中へと消えて行った。


 そのすぐ横には『はるぶすと』のブースがあるのだが、まだ閑散としていてどうやら誰も来ていないらしい。

「あの子たちはいつ来るのかねえ」

 おかみさんはちょっと気になるのか、ちょくちょく隣を気にかけている。

 しばらくして、ほんの少し場の空気が変わる。ふい、と、時間に隙間が出来たような感覚がして。

「親父さん、やりますね。俺も負けてられないっす」

 と声がする。

 ようやく★神社が落ち着いたので、彼らがこちらへ送り出してもらったのだ。

 隣をのぞき込んだらしい夏樹が少し焦り気味に用意を始める。

「あら、あんたいつの間に」

 突然声がしたので、おかみさんがちょっと驚いたように言う。

「あ……、えーと」

「え? さっきからいましたよ? ねえ、夏樹」

「は、はい! ちょっとかがんで用意してたんす!」

 焦りつつ言う夏樹におかみさんは、「そうなの? 大きなあんたもかがむと見えなくなるのねえ」などと可笑しがっている。

「ハハハ……」

 夏樹は引きつった笑顔になりつつも、ソーセージとザワークラウトに取りかかる。冬里は隣でホットワインを用意し始めている。

 シュウは?

 まだ★神社で料理の最終チェックをしているようだった。


 初めての自由参加マーケットは、なかなかに盛況だった。

 親父さんが参加出来たように、★市だけでなく近隣の街からも参加を募ったのが成功の秘訣だったらしい。しかも、クリスマスマーケットと銘打っているものの、シロウトが出す物販はフリーマーケットのような扱いでかなり自由度が高い。

 噂が噂を呼んで、口コミも広まり、ちょっとクリスマスマーケットの真似事をしてみたいという参加者が大勢集まったらしい。

 もちろんプロも参加しているので、バラエティに富んだ店が目白押しだ。



 そうこうするうち。

 なんと親父さんの店は、お昼を過ぎたあたりで完売御礼になってしまった。

「これが最後の1本だぜ。いやあ、よく売れたもんだ」

「ひええ、親父さんすごいっす! さすがです!」

 隣から夏樹が賞賛を送っている。

「いやあ、なーに。売れ残ると困るからよ、ちょっと控えめに仕入れてたんだ。まあこれくらいで良かったってことよ」

 謙遜する親父さんだが、やはりそこはとても嬉しそうだ。

「お疲れ様でした。店じまいは私たちが後で一緒にさせて頂きますので、そのまま置いておいて下さいね」

 後から合流していたシュウがそんな事を言う。

 2人に少し疲れが垣間見えたからだが。

「いやいや、そんなわけには行かねえぜ」

 遠慮する親父さんの言葉にかぶせて、冬里がニーッコリと微笑む。

「2人とも、もう歳なんだから~、若いもんの言う事は聞いて置いた方が良いよお~」

「な、なんだよお前さん、なんかこええな」

「いいじゃないあんた。この人たちが言ってくれるんだからお任せしましょうよ。あたしもなんだかんだ言って、疲れたわあ」

 さすがにおかみさんは素直である。

 肩をコキコキと回しつつ、「それにお腹空いちゃった~」と独り言のようにつぶやいている。

 そんなおかみさんに微笑みつつ、シュウがどこからか小さな包みと熱いお茶が入っているであろう水筒を取り出す。

「簡単なもので申し訳ないのですが、私たちの昼食用にと持ってきたものです。実は多めに作りすぎまして、余らせるのも忍びないので召し上がって頂けるとありがたいのですが」

「へえ、何かしら? あら、おにぎり。ねえ、あんた! 美味しそうよお。頂きましょうよ」

 ここでもおかみさんはたいそう素直である。親父さんは何やら言いたそうだったが、さすがに彼も腹が減っていたらしい。

「う、まあ、余るってんならもったいねえな。頂くか」

「そうしましょそうしましょ」

 ブースの中は今まで火を使っていたのでけっこうあたたかい。

 2人は休憩用の椅子に腰掛けて、温かいお茶を飲み、おにぎりをぱくつく。


「まあ、美味しい!」

 おかみさんはぱっと笑顔になる。

 親父さんは、ほう、と息をついたあと「なんだか疲れが抜けていくみたいだ。うん、うまい」と、こちらもニンマリと笑顔になった。


 もうお気づきだと思うが、これは先ほどシュウが用意したもの。ささやかに疲れが取れるような本気を込めていたのは言うまでもない。



 そのあと、売り切れの看板を見た客たちの残念そうな顔をお土産にして、親父さんとおかみさんは意気揚々と帰途についた。

 けれど親父さんは一言添えるのも忘れない。

「俺んちの隣は、俺の弟子みたいなヤツの店なんだ。こっちも美味いから食べてやってくれ」

 それを聞いた夏樹が大感激している。

「親父さん! 弟子にしてくれたんすか?!」

「弟子みたいなもん、って言っただろ。まだまだ正式な弟子じゃねえよ」

「うう、だったらもっと頑張ります!」

「おう、期待してるぜえ」

 とは言え、夏樹のソーセージとザワークラウトもどうしてなかなか、親父さんには決してひけを取っているわけではない。

 そして彼らは食材を多めに用意していたので、なかなか売り切れることもない。



 冬の日の入りは早く、夕方を過ぎると、もう火ともし頃だ。

 クリスマスマーケットも佳境を迎える。

 マーケットのイルミネーションに煌々と灯りがともり出し、昼間とはまた違うきらびやかさに包まれる。

「あ、お隣はもう店じまいしたんですね」

 朝一で来ていた親子の父親の方がやってきて、少し驚いたように言う。

「はい。ご高齢のため、夜は早くお休みになられるので」

 冬里がくそ真面目にそんな風に言うものだから、お客さんはちょっと可笑しそうだ。

「アハハそうですか、残念。朝は飲めなかったのでリベンジに来たんだけど。でもこちらのソーセージも美味しそうだ。じゃあ、えーと、このザワークラウトがついたやつと、ビールを」

「かしこまりました」

『はるぶすと』では、ホットワインの他にも、シュウが厳選したクラフトビールなども提供している。

 このビールがどこのブースの料理にもすこぶる相性が良いと好評なのだ。


 そのビールをめあてに、新たなお客様がやってきた。

「よ、盛況だな」

「頑張ってるじゃない」

「あ、椿と由利香さん!」

 それは秋渡夫妻だった。

「遅いじゃないっすか。もう来ないのかと思いましたよ」

「主役は遅れてやってくるものよ。それよりザワークラウトもちゃんと作ってくれたのね」

「当たり前っす」

「作らなかったら後で何を言われるかわからないし恐ろしいもん、ねー」

「ねー」

 冬里が言って可愛く首を傾げると、夏樹も同じように首を傾げたりしている。

「失礼ね! いいわよ、じゃあ頼んでやんないから。鞍馬くん、私はビールだけ」

「ええーひどいっす」

「由利香がビールだけなわけないだろう? ソーセージとザワークラウトのセットをふたりぶん。それとビールももうひとつ」

「かしこまりました」

 うるさく言い合う姉弟にはかまわず、相変わらずシュウは冷静だ。

 各々がソーセージセットとビールを受け取った夫妻は、楽しそうにテントの中へ入って行った。

 あとでうるさく感想を聞き出す夏樹がお姉様の怒りを買うのは、また別のお話。


 さて、本日のクリスマスマーケット、『はるぶすと』のメンバーは最終時間の20時頃まで店を開けているつもりでいる。

 その間、サンディたちは置いてけぼり?


 いえいえ。




シャンシャン、シャンシャン……

どこからか聞こえる、清らかな鈴の音

空を縦断していく、あれは人工衛星?

いいえ、それは、サンタクロース


 そう、たっぷり休憩を取ったサンディは、人々に喜びと幸せをプレゼントするため、トナカイが引くそりで日本全国津々浦々まで飛び回るのだ。


「ホーッホッホ、今宵も世界に喜びあれ、平和あれ、そしてみーんな幸せであれ」



「あ、出発したみたいっすよ」

 空を見上げながら夏樹が言う。

「ホントだね。サンディは今年も★神社お泊まりだって。こたつが楽しみだ~ってホクホクしてたよ」

 隣ではシュウが微笑んでいる。



 さて、今宵はどんな魔法が降り注がれるのでしょう?

 ハッピー・クリスマスイヴ! 







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。