第二十五話
「……私が熱に倒れている間に、色々と変化してしまった気がするのは気のせいかしら……?
(疲労からの熱で倒れている間に、件の商人達は暗殺されていますし……。
さらに、何ゆえに私が王座に就いた暁には側室を娶る話になっているのですか?
しかも、その相手がアシュレイ・フォルト子爵なうえに、隠された王家の血筋だなんて胸を通り越してお腹いっぱいですわ。)」
商人達との謁見から三日。
疲労と精神的なものが原因で熱を出していたセレスティナ。
やっと熱が下がって通常業務に戻れると思えば、ミオンよりもたらされたセレスティナが熱を出している間の出来事の数々。
「たぶん気の所為ではないのですぅ……。
商人達の一件を皮切りに、栓が外れたみたいに怒涛の展開ですよねぇ……色んな思惑が絡み合って面倒なことこの上ないかと〜」
周囲の目がなければ、セレスティナは執務机に頭を突っ伏してしまいたい気持ちに駆られる。
「あ、あの……アレクシェルさん、どうしてミオンさんをずっと見ているのですか?」
そんなセレスティナの執務室に控える護衛の一人であるイザベラは、急に様子が変化したアレクシェルのことが気になっていた。
「すまない、イザベラ。
気にしないでもらえると助かるんだが……その、うん。
僕は今回の一件を通して護衛に関して色々と考えたんだ。
そして、騎士として護衛の何たるかを知りたいと思い、ミオン殿に教えを請うたのだけど……」
「あは〜、私みたいな存在に教えられることなんてないですよぉ!
お綺麗なお貴族様にご指導なんて恐れ多くてとても無理ですぅ〜。」
イザベラの問い掛けに対し、頬を掻きながらアレクシェルは困ったように答える。
そんなアレクシェルに対して、お手本のように綺麗な笑顔でミオンはきっぱりと拒絶した。
「そーゆーことは、綺麗なお貴族様同士でお願いしますね〜。
ほら、適任はいらっしゃいますでしょう?」
「えっと……その第二騎士団長と副騎士団長のお二人は、そもそも所属している騎士団が違うことを理由にお断りされて……」
「なら、お父様である第一騎士団長か、フォード第一騎士副団長に頼んだらいいと思いますぅ〜。」
「……イザベラ、こんな感じで取り付く暇もないんだ。」
「え、えっと……ミオンさんは……お、お忙しい方ですから……」
寝言は寝て言え、もしくは首を洗って出直して来い、だろうか?
アレクシェルがミオンへ師事を願い出ても、全くもって相手にして貰えないでいた。
「だから、僕としては多忙なミオン殿の邪魔をしないように、見て盗むことにしたんだ。」
「……ぶっちゃけ、見て真似しただけで盗める技量ならば、誰も苦労はしませんけどね。」
苦笑するアレクシェルの言葉にすかさずミオンが釘を差す。
「ふふ……私の知らない間に仲良くなったみたいで嬉しいわ。」
「え゛っ?!
セレスティナさまぁぁっっ!
違いますっ!
ミオンちゃんはセレスティナさま一筋ですぅぅぅっっ!!」
クスクスと笑うセレスティナの言葉にミオンが断固として否定する声が執務室に響く。
い゛やぁぁぁぁっっ!!と大袈裟な仕草で叫ぶと言っても、ミオンは声量を調整して部屋の外に漏れないように配慮していた。
「うぅ……勘違いされているのは物凄ぉく不満爆発ですけども、セレスティナ様の微笑みが麗し過ぎて浄化されちゃいそうですぅ〜」
「……直属の護衛とは……難しいな……」
「あの……ミオンさんの言動すべてを真似する必要は無いかと……」
王や王妃、数多の貴族達の思惑に晒されているセレスティナの心を思い、少しでもその心を軽くし、和ませようとするミオン。
「(……ミオンは兎も角……アレクシェルとイザベラは、私の事情に巻き込まないように配慮しなければなりませんね。
それに、第二騎士団もあまり巻き込みたくはないのですが……)」
ミオンの配慮を理解し、己の立場も十二分に理解しているセレスティナは、せめてアレクシェルとイザベラだけは巻き込まないようにと考える。
しかし、第二騎士団のことを思い浮かべれば、思い出すのは氷のような青い瞳に熱を宿したジェダイトの姿。
「……そっちの問題もありましたわ……」
数日経ったことで、ジェダイトのことを思い出しても微かに頬が赤くなる程度にセレスティナは回復していた。
「そう言えば、セレスティナ様。
現第一王子レグルス殿下のご帰国をもって正式に話が動くとは思いますけど……。
フォルト子爵との婚姻はセレスティナ様的にはどのように考えていらっしゃいますか?」
直属の護衛としてセレスティナの意向を確認しておきたいのだろうミオンの問い掛け。
「それが陛下のご意思ならば従いますわ」
「……セレスティナ様、本音は?」
「……ご容赦を願いたいです。
殿方二人を夫にするなど、私には無理ですわ……。
第一、フォルト子爵は学院時代の友人としか思えませんもの……」
前世の記憶を持つセレスティナにとって、夫二人など倫理的にあり得なかった。
その上、病弱な我が身を思えば男二人の相手など務まるはずもないし、務まりたいとも思えない。
「弟が、第一王子が他国への留学を経て成長して戻った暁には、陛下達のお考えが変わることを祈っておりますわ。」
もちろん王座を押し付……ではなく、王座への後押しは全力で行いますけど、とセレスティナは心の底から思う。
「さあ、今日も一日恙無く、執務を始めましょう」
そして、気持ちを変えるように熱を出した影響で滞り、溜まってしまった執務へと向き直るのだった。




